ウルソデオキシコール酸(ウルソ)は、肝機能改善を目的とした薬剤であり、体重増加を引き起こす直接的な作用はありません。本薬剤の主要な作用機序は胆汁酸分泌の促進であり、これにより脂肪の消化吸収を改善します。
胆汁酸は肝臓から分泌され、脂肪の消化吸収に重要な役割を果たしています。肝機能が低下すると胆汁量が減少し、腸肝循環を行う胆汁酸も不足します。ウルソデオキシコール酸は、この不足した胆汁酸を補い、総合的な消化器機能を向上させる働きがあります。
興味深いことに、一部の研究では胆汁酸の中でもコール酸(CA)の上昇が体重減少に関与している可能性が示唆されており、さらにリトコール酸(LCA)、デオキシコール酸(DCA)、ケノデオキシコール酸(CDCA)においてGLP-1分泌作用が認められているという報告もあります。
ウルソ自体に体重増加作用はないものの、副作用により間接的に体重変化が生じる可能性があります。主な副作用として以下が報告されています:
これらの副作用により食事摂取量が減少し、結果的に体重減少が起こる場合があります。特に下痢や悪心といった消化器症状は、患者の栄養摂取に直接影響を与える可能性があります。
疾患別の副作用発現率を見ると、C型慢性肝疾患では下痢が6.88%、軟便が3.52%と比較的高い頻度で報告されており、これらの症状が持続することで体重減少につながることがあります。
医療従事者として、ウルソ治療中の患者の体重変化には適切な注意を払う必要があります。体重増加の原因をウルソに求める前に、以下の点を確認することが重要です。
📋 確認すべき要因
患者から「ウルソを飲み始めて太った」という相談を受けた場合、薬剤の薬理学的特性を説明し、他の要因の可能性を検討することが大切です。ウルソには減量効果がないことを明確に説明し、ダイエット目的での使用は推奨されないことを伝える必要があります。
ウルソ治療中は、重大な副作用である間質性肺炎の監視が最も重要です。発熱、咳、呼吸困難、胸部X線異常を伴う場合は直ちに服用を中止し、医師への相談を促してください。
日常的な副作用監視においては、以下の点に注意が必要です。
🔍 重点監視項目
患者指導においては、「副作用により食事量が減少し結果的に体重が減る可能性はあるが、薬剤自体に体重増加作用はない」ことを明確に伝えることが重要です。また、気になる症状があれば早期に相談するよう指導し、定期的な体重測定と記録をお勧めします。
他の薬剤と比較することで、ウルソの体重への影響をより明確に理解できます。抗精神病薬では、ルラシドン(lurasidone)とバルプロ酸の併用により6ヶ月で10kgの体重増加が報告されているケースがあります。
糖尿病治療薬においても、インスリン、スルホニル尿素薬、チアゾリジン系薬剤、メグリチニド系薬剤は体重増加を引き起こす可能性が知られています。一方で、GLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬は体重減少効果があることが報告されています。
これらの薬剤と比較すると、ウルソは体重に対して中性的な薬剤と位置づけることができます。胆汁酸分泌促進という薬理作用から考えても、直接的な体重増加メカニズムは存在しません。
肝機能改善薬として長期間使用されることが多いウルソですが、添付文書においても体重増加は副作用として記載されていません。医療従事者として患者の不安を解消するためにも、この点を明確に説明することが重要です。
最新の研究では、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)における太りすぎの患者に対するウルソの効果についても検討されており、薬物動態と薬力学の観点から体重への影響が評価されています。しかし、現時点では体重増加を示唆する明確なエビデンスは報告されていません。