肺がんの抗がん剤治療における入院期間は、治療の安全性確保と副作用管理を目的として設定されます。初回治療では概ね治療開始から2週間ほどの入院が標準的とされており、これは副作用の出現パターンと治療効果の評価期間を考慮した期間設定です。
治療スケジュールは通常3-4週間を1コースとして計画され、小細胞肺がんでは4回の反復治療により3-4ヶ月間の治療期間が設定されます。ただし、抗がん剤の点滴投与は初日、8日目、15日目、または初日から3日間のみなど、薬剤により異なるパターンで実施されます。
久留米大学病院の肺癌化学療法3日連続治療プログラムでは、入院から退院まで14日間の標準化されたスケジュールが採用されており、朝10時頃より3日間連続で抗がん剤点滴を実施し、その後副作用の経過観察期間を設けています。
入院期間の延長要因。
肺がんの抗がん剤治療における入院期間は、患者の全身状態(PS:Performance Status)と副作用の程度により大きく左右されます。副作用の出現時期は予測可能であり、治療開始から数日で起こる吐き気や倦怠感、1-2週間後に出現する骨髄抑制や脱毛、さらに長期間経過後の末梢神経障害など、段階的な管理が必要です。
非小細胞肺がんの抗がん剤治療では、悪心・嘔吐、食欲不振、倦怠感、骨髄抑制(白血球減少など)、脱毛、口内炎、下痢、腎障害、末梢神経障害、皮疹などの副作用が報告されています。これらの副作用は状況に応じて軽減薬を使用しながら体調管理対策を講じて治療を進めますが、重篤な副作用の場合は入院期間の延長が必要となります。
免疫チェックポイント阻害薬を使用する場合、従来の抗がん剤とは異なる特有の副作用として、間質性肺障害の発症リスクがあります。この副作用は息切れ、息苦しさ、発熱、痰のない乾いた咳、疲労などの症状で現れ、早期対応が極めて重要なため、症状出現時の迅速な医療対応が入院期間に大きく影響します。
副作用管理による入院期間調整。
全国の肺がん治療施設における入院期間には、施設の治療方針と地域特性による差異が存在します。駒込病院では概ね治療開始から2週間ほどの入院を目標としていますが、横浜市立大学では化学療法併用時や疼痛コントロールが必要な場合に7-14日の入院期間を設定しています。
近畿大学医学部附属病院では、術後の平均入院期間が9.7日となっており、手術と化学療法の組み合わせ治療における期間短縮の取り組みが見られます。一方、奈良県立医科大学附属病院では、初回抗がん剤治療において通常1-2週間の入院期間を設定し、3-6サイクルの治療継続を前提とした長期治療計画を策定しています。
地域がん診療連携拠点病院では、患者の居住地域との距離や家族サポート体制を考慮した入院期間調整が行われており、遠方患者に対しては若干長めの入院期間設定により、外来移行後の安全性確保を図る施設も存在します。
施設別入院期間の特徴。
肺がんの抗がん剤治療において、入院から外来治療への移行は慎重な判断基準に基づいて実施されます。制吐薬の進歩とshort hydration法といった点滴方法の改良により、外来での治療が可能な患者が増加していますが、初回治療は安全性を重視して入院で導入することが大部分の施設で標準的な対応となっています。
外来移行の判断基準として、久留米大学病院では以下の退院基準を設定しています:
これらの基準により、患者の自己管理能力と家族サポート体制の評価が重要視されており、医療スタッフによる退院指導の充実が外来移行成功の鍵となっています。
外来移行における安全対策。
肺がんにおいて手術と抗がん剤治療を併用する場合、総入院期間は治療戦略全体を考慮した管理が必要となります。IB期では経口の、II-III期では点滴の抗がん剤が術後に投与されるため、手術による入院期間と抗がん剤治療期間の最適化が重要な課題となります。
胸腔鏡による肺がん手術では、術後7日以内に退院する患者が約90%を占めますが、術後住院期間が7日を超える患者が10.3%存在し、その主要因として軽度并发症が70.4%、重度并发症が29.6%を占めています。これらの合併症は抗がん剤治療開始時期に影響を与えるため、総治療期間の延長要因となります。
術後抗がん剤治療では、患者の回復状態を評価した上で治療開始時期を決定し、手術創の治癒状況と全身状態の改善を確認してから化学療法を導入することが重要です。このため、手術単独の場合の入院期間に加えて、抗がん剤治療のための追加入院または外来移行のタイミング調整が必要となります。
手術併用時の期間管理要素。
再発肺がんにおける抗がん剤治療では、患者の状態や使用薬剤により生存期間が約7-18ヶ月と報告されており、長期間にわたる治療継続性を考慮した入院期間設定が求められます。最初の治療後短期間で再発した場合のアムルビシン使用時や、60-90日以上経過後再発でのノギテカンやアムルビシン使用時など、再発パターンに応じた治療強度の調整が入院期間決定に大きく影響します。