卵巣がんの抗がん剤治療において、初期療法の選択は治療成績を大きく左右します。日本婦人科腫瘍学会の2025年版ガイドラインでは、パクリタキセル(PTX)175mg/㎡とカルボプラチン(CBDCA)AUC6の併用療法が第一選択として位置づけられています。
この標準レジメンは、以下の治療スケジュールで実施されます。
進行期卵巣がん患者に対しては、手術先行療法(PDS:Primary Debulking Surgery)と術前化学療法(NAC:Neoadjuvant Chemotherapy)後の中間減量手術(IDS:Interval Debulking Surgery)の選択が重要な治療判断となります。日本の臨床実践では、GOTIC-019研究の結果、NAC-IDSの戦略が広く採用されており、940名の症例解析では良好な治療成績が示されています。
日本婦人科腫瘍学会:卵巣がん治療ガイドライン2025年版による最新治療指針
卵巣がんの抗がん剤治療では、投与スケジュールに応じた副作用の出現パターンを理解することが重要です。主要な副作用は以下の時期に出現します:
急性期副作用(点滴中~24時間以内)
亜急性期副作用(1~2週間後)
遅発性副作用(2週間以降)
特にパクリタキセルによるアレルギー反応は治療開始後1~2回目で発生することが多く、100人に1人程度で重篤な血圧低下を来たします。前投薬として抗ヒスタミン薬、ステロイド、H2受容体拮抗薬の投与が必須です。
骨髄抑制の管理では、白血球数が1,000/μL未満、血小板数が50,000/μL未満となった場合は治療延期を考慮し、G-CSF製剤の予防投与も検討されます。
卵巣がんは初回治療後の再発率が高く、プラチナ感受性に基づいた治療選択が重要です。プラチナフリー間隔(PFI)により以下のように分類されます。
プラチナ感受性再発(PFI ≥ 6ヶ月)
プラチナ抵抗性再発(PFI < 6ヶ月)
プラチナ感受性再発例では、セカンダリー減量手術(SCS:Secondary Cytoreductive Surgery)の適応も検討されます。適切な症例選択により、無増悪生存期間の延長が期待できます。
再発卵巣がんに対する新たなアプローチとして、免疫チェックポイント阻害薬(ペムブロリズマブ)の併用療法や、VEGF阻害薬(ベバシズマブ)の継続投与が注目されています。
現在の卵巣がん治療では、従来の化学療法に加えて分子標的薬の導入が治療成績向上の鍵となっています。主要な分子標的薬は以下の通りです。
PARP阻害剤
PARP阻害剤は、DNA修復機構の欠陥を有するがん細胞に対して合成致死効果を示します。特にBRCA1/2遺伝子変異を有する患者では著明な効果が期待できます。
血管新生阻害薬
ベバシズマブは初回化学療法との併用および維持療法として使用されます。投与量は15mg/kg、3週間間隔で投与します。主な副作用として高血圧、蛋白尿、出血傾向があり、稀に消化管穿孔(0.3-2.4%)が報告されています。
免疫チェックポイント阻害薬
マイクロサテライト不安定性(MSI-H)または高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)を示す進行・再発卵巣がんに対して適応があります。
卵巣がんの抗がん剤治療では、治療効果を最大化し副作用を軽減するための支持療法が不可欠です。栄養管理は治療継続の重要な要素となります。
栄養評価と介入
化学療法開始前には以下の栄養評価を実施します。
悪心・嘔吐に対する制吐療法では、高度催吐性リスクのカルボプラチンに対して以下の3剤併用が推奨されます。
感染予防対策
好中球減少期における感染予防は、以下の点に注意が必要です。
口腔ケアでは、粘膜炎予防のために軟毛歯ブラシの使用と、アルコールフリーの含嗽剤による口腔内清拭を実施します。
血栓症予防
ベバシズマブ投与例では血栓塞栓症のリスクが増加するため、以下の予防策を講じます。