抗がん剤治療の卵巣がん標準ガイドライン2025年版

卵巣がんの抗がん剤治療における最新ガイドライン2025年版を医療従事者向けに解説。化学療法の選択肢、副作用管理、新規治療戦略について詳細に説明します。あなたはどの治療法を選択しますか?

抗がん剤治療による卵巣がん標準治療

抗がん剤治療における卵巣がん治療のポイント
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標準治療レジメン

パクリタキセル+カルボプラチン療法が第一選択

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副作用管理

骨髄抑制とアレルギー反応の早期発見が重要

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新規治療薬

PARP阻害剤と分子標的薬の導入拡大

抗がん剤治療における卵巣がん初期療法の選択指針

卵巣がんの抗がん剤治療において、初期療法の選択は治療成績を大きく左右します。日本婦人科腫瘍学会の2025年版ガイドラインでは、パクリタキセル(PTX)175mg/㎡とカルボプラチン(CBDCA)AUC6の併用療法が第一選択として位置づけられています。
この標準レジメンは、以下の治療スケジュールで実施されます。

  • パクリタキセル:175mg/㎡、3時間で点滴静注、day 1
  • カルボプラチン:AUC 6、点滴静注、day 1
  • 投与サイクル:21日間隔、6サイクル実施

進行期卵巣がん患者に対しては、手術先行療法(PDS:Primary Debulking Surgery)と術前化学療法(NAC:Neoadjuvant Chemotherapy)後の中間減量手術(IDS:Interval Debulking Surgery)の選択が重要な治療判断となります。日本の臨床実践では、GOTIC-019研究の結果、NAC-IDSの戦略が広く採用されており、940名の症例解析では良好な治療成績が示されています。
日本婦人科腫瘍学会:卵巣がん治療ガイドライン2025年版による最新治療指針

抗がん剤治療に伴う卵巣がん患者の副作用管理

卵巣がんの抗がん剤治療では、投与スケジュールに応じた副作用の出現パターンを理解することが重要です。主要な副作用は以下の時期に出現します:
急性期副作用(点滴中~24時間以内)

  • 吐き気・嘔吐
  • アレルギー反応(特にパクリタキセル)
  • 血管外漏出による組織障害

亜急性期副作用(1~2週間後)

  • 白血球減少(好中球減少症)
  • 血小板減少
  • 赤血球減少(貧血)
  • 全身倦怠感

遅発性副作用(2週間以降)

  • 脱毛(2~4週間後)
  • 末梢神経障害(手足のしびれ)
  • 消化器症状

特にパクリタキセルによるアレルギー反応は治療開始後1~2回目で発生することが多く、100人に1人程度で重篤な血圧低下を来たします。前投薬として抗ヒスタミン薬、ステロイド、H2受容体拮抗薬の投与が必須です。
骨髄抑制の管理では、白血球数が1,000/μL未満、血小板数が50,000/μL未満となった場合は治療延期を考慮し、G-CSF製剤の予防投与も検討されます。

 

抗がん剤治療における卵巣がん再発例の治療戦略

卵巣がんは初回治療後の再発率が高く、プラチナ感受性に基づいた治療選択が重要です。プラチナフリー間隔(PFI)により以下のように分類されます。
プラチナ感受性再発(PFI ≥ 6ヶ月)

  • カルボプラチン+ゲムシタビン療法
  • カルボプラチン+リポソーム化ドキソルビシン療法
  • カルボプラチン+パクリタキセル再投与

プラチナ抵抗性再発(PFI < 6ヶ月)

  • ゲムシタビン単剤療法
  • リポソーム化ドキソルビシン単剤療法
  • イリノテカン単剤療法(CPT-11)

プラチナ感受性再発例では、セカンダリー減量手術(SCS:Secondary Cytoreductive Surgery)の適応も検討されます。適切な症例選択により、無増悪生存期間の延長が期待できます。
再発卵巣がんに対する新たなアプローチとして、免疫チェックポイント阻害薬(ペムブロリズマブ)の併用療法や、VEGF阻害薬(ベバシズマブ)の継続投与が注目されています。

抗がん剤治療と併用する卵巣がん分子標的薬

現在の卵巣がん治療では、従来の化学療法に加えて分子標的薬の導入が治療成績向上の鍵となっています。主要な分子標的薬は以下の通りです。
PARP阻害剤

  • オラパリブ(Lynparza®):BRCA変異陽性例に対する維持療法
  • ニラパリブ(Zejula®):初回治療後の維持療法
  • ルカパリブ(Rubraca®):プラチナ感受性再発例

PARP阻害剤は、DNA修復機構の欠陥を有するがん細胞に対して合成致死効果を示します。特にBRCA1/2遺伝子変異を有する患者では著明な効果が期待できます。
血管新生阻害薬

  • ベバシズマブ(Avastin®):VEGF-A阻害による血管新生抑制

ベバシズマブは初回化学療法との併用および維持療法として使用されます。投与量は15mg/kg、3週間間隔で投与します。主な副作用として高血圧、蛋白尿、出血傾向があり、稀に消化管穿孔(0.3-2.4%)が報告されています。

 

免疫チェックポイント阻害薬

  • ペムブロリズマブ(Keytruda®):PD-1阻害薬

マイクロサテライト不安定性(MSI-H)または高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)を示す進行・再発卵巣がんに対して適応があります。

抗がん剤治療における卵巣がん栄養管理と支持療法

卵巣がんの抗がん剤治療では、治療効果を最大化し副作用を軽減するための支持療法が不可欠です。栄養管理は治療継続の重要な要素となります。

 

栄養評価と介入
化学療法開始前には以下の栄養評価を実施します。

  • BMI、血清アルブミン値、総蛋白値の測定
  • 食事摂取量の評価(24時間食事記録)
  • 体重変動の追跡(5%以上の減少は栄養不良リスク)

悪心・嘔吐に対する制吐療法では、高度催吐性リスクのカルボプラチンに対して以下の3剤併用が推奨されます。

  • NK1受容体拮抗薬:アプレピタント125mg(day1)、80mg(day2-3)
  • 5-HT3受容体拮抗薬:オンダンセトロン8mg
  • デキサメタゾン:12mg

感染予防対策
好中球減少期における感染予防は、以下の点に注意が必要です。

  • 手指衛生の徹底とマスク着用
  • 生鮮食品(生野菜、刺身等)の摂取制限
  • 発熱時(37.5℃以上)の迅速な医療機関受診
  • G-CSF製剤(フィルグラスチム)の予防投与検討

口腔ケアでは、粘膜炎予防のために軟毛歯ブラシの使用と、アルコールフリーの含嗽剤による口腔内清拭を実施します。

 

血栓症予防
ベバシズマブ投与例では血栓塞栓症のリスクが増加するため、以下の予防策を講じます。

  • 弾性ストッキングの着用
  • 早期離床と積極的な歩行
  • 十分な水分摂取(2L/日以上)
  • D-ダイマー値の定期的モニタリング

キャンサーネットジャパン:卵巣がん薬物療法の副作用管理ガイド