光線療法は現在最も広く使用されている黄疸治療法です。特定の波長の青色光を新生児の皮膚に照射することで、肝臓で処理されていない非抱合型ビリルビンを水溶性の形に変換し、尿中への排泄を促進します。
治療実施時の具体的手順は以下の通りです。
光線療法の効果判定は皮膚の色で行うのではなく、定期的な血中ビリルビン値の測定が必要です。JM-105(コニカミノルタ社製)などの皮膚黄疸計も併用され、表示値+3が光線療法基準値を満たす場合は採血によるビリルビン値確認を行います。
MSDマニュアル 新生児黄疸の詳細な治療方法について
交換輸血は光線療法で改善しない重症黄疸例に対する最終治療法です。特に早発黄疸(生後24時間以内発症)では、交換輸血基準を超過していなくても直ちに輸液と多面的な光線療法を開始し、2~3時間後の再検査で交換輸血の必要性を検討します。
交換輸血の実施には以下の準備が必要です。
交換輸血基準を超過している場合でも、準備に時間を要するため、その間は輸液療法、光線療法、必要に応じてアルブミン投与やγ-グロブリン投与を継続します。
血液型不適合や母体不規則抗体保有など免疫性溶血が疑われる場合は、γ-グロブリンの投与適応も検討されます。これらの生物学的製剤使用には文書による説明と同意取得が必須です。
新生児黄疸治療の判断基準として、日本では「村田・井村の基準」や「中村(神戸大学)の基準」が広く使用されています。これらの基準は体重および生後時間に応じた光線療法や交換輸血の適応を明確化したものです。
近年、より精密な治療指標として「神戸大学(森岡、2017)の新基準」が提唱されています。この新基準では従来の総ビリルビン値に加え、アンバウンドビリルビン(非結合ビリルビン)を用いた評価が特徴です。
基準の具体的な運用方法。
治療の最終目的は核黄疸(ビリルビン脳症)の回避にあります。核黄疸は初期段階で迅速な治療を行えば脳の永久的損傷を防ぐことが可能ですが、治療が遅れると重篤な神経障害を残す可能性があります。
日本医事新報社 新生児黄疸治療基準の詳細解説
早産児の黄疸管理は満期産児とは異なる特別な配慮が必要です。早産児では血液脳関門の発達が不十分で、より低いビリルビン値でも脳への影響が生じる可能性があります。
早産児の黄疸管理方法(案):
日齢 | 管理方法 |
---|---|
0-6日 | 可能な限り連日の血清TB・UB測定 |
7-13日 | 2-3日毎の血清TB・UB測定 |
14日-退院 | 連日のTcB測定、TcB8以上で血清測定 |
TB:総ビリルビン、TcB:経皮ビリルビン、UB:アンバウンドビリルビン
早産児では出生直後だけでなく、NICU入院期間中も継続的な黄疸スクリーニングが重要です。経皮ビリルビン測定に加え、血清総ビリルビンとアンバウンドビリルビン測定による精密な黄疸管理が推奨されています。
呼吸循環動態も不安定な生後1週間以内は特に注意深い監視が必要で、この時期は頻回の血液検査が行われることが多いため、黄疸評価も同時に実施します。
母乳性黄疸は従来あまり重視されていませんでしたが、近年の研究で独特な病態メカニズムと対応法が明らかになっています。母乳哺育黄疸と母乳性黄疸は別の病態として区別して対応する必要があります。
母乳哺育黄疸の対応。
母乳性黄疸の特殊対応。
興味深い点として、脱水がみられる母乳哺育児では、通常推奨されない水分追加投与が必要になる場合があります。これは母乳の生産量維持と新生児の安全性のバランスを考慮した判断が求められます。
母乳性黄疸では生後2週間以降も黄疸が持続する遷延性黄疸として現れることがあり、肝炎や甲状腺機能低下症、先天性胆道閉鎖症などの病的黄疸との鑑別診断が重要になります。
このような母乳関連黄疸への対応は、単なる治療技術だけでなく、母親への心理的サポートや授乳指導も含めた包括的なアプローチが必要です。医療従事者は母親の不安を軽減しながら、適切な医学的判断を行う能力が求められています。