アウィクリ(インスリン イコデク)は専用のフレックスタッチを使用し、単位合わせダイアルの1クリック(1目盛り)が10単位に相当します。
この「10単位刻み」は、週1回で必要量が大きくなりやすい基礎インスリンを、現実的な回転回数で設定できるようにしたデバイス設計(=操作性と誤設定のリスク低減を両立する設計)と捉えると、教育の説明が通りやすくなります。
空打ちは「毎回の投与前」に行い、単位合わせダイアルを1クリック(10単位)回して空打ちする、と投与ガイドに明記されています。
他のインスリンペンで一般的な「2単位空打ち」に慣れているスタッフほど、ここで“いつもの癖”が出て、空打ち不足(あるいは手技の省略)になりがちなので、導入時チェックリストに必ず組み込みましょう。
実務の指導では、次の順番に固定するとミスが減ります。
・注射針を新しいものに交換 → 空打ち(10単位) → 0表示に戻るのを確認 → 処方された単位数を設定 → 注射、という流れに統一する。
・「空打ち=投与量から差し引かれる」と誤解されやすいので、「空打ちは薬液通過確認であり、処方単位は別に改めて設定する」と言語化しておく。
アウィクリは濃度が700単位/mLで、連日投与のBasalインスリン(一般に100単位/mL)より高濃度です。
さらに注射間隔が1週間と長いため、針をペンに付けっぱなしにすると、液漏れや針詰まりが起こりやすく、正しい単位数を注射できないおそれがある、と投与ガイドで強調されています。
この背景から、空打ち10単位は“儀式”ではなく、詰まり・抵抗・吐出不良の早期発見の意味合いが強い手技と理解すると現場の納得感が上がります。
また、注射針は「毎回新しい針を注射直前に取り付け、注射後は必ず外す」ことが明確に求められています。
意外と見落とされるのが「針の規格・適合」です。
アウィクリはJIS T 3226-2に準拠したA型専用注射針を用いること、装着時に液漏れなどがあれば新しい針に替えること、が適用上の注意として記載されています。
つまり、患者が自己流で“家に余っていた針”を使う、あるいは針の装着が甘い、というだけでも、空打ち不良→実投与不良へ連鎖するため、薬局・看護外来で針の現物確認まで踏み込む価値があります。
患者説明のキーフレーズ例(そのまま伝わります)。
・「アウィクリは週1回で濃い薬なので、針を付けっぱなしにすると詰まりやすい。だから毎回、針交換と空打ちは必須です。」
・「空打ちは10単位。2単位ではありません。」
アウィクリは投与単位数が10単位刻みで設定可能であり、単位数は10の倍数になるように四捨五入する運用がガイド内で示されています。
この仕様が、処方設計(医師)と自己注射操作(患者)と監査(薬剤師)の“境界”でエラーを生みやすいポイントです。
代表的な落とし穴は、連日Basalからの切替時に「1日量×7」で理論上は端数が出るケースです。
例として、連日Basal 8単位/日を週1回へ換算すると 8×7=56単位ですが、アウィクリは10単位刻みのため50単位に丸めて設定する、という実例が紹介されています。
参考)週1回の基礎インスリン製剤「アウィクリ」について
ここで重要なのは、丸めが“単なる操作上の制約”ではなく、血糖推移と低血糖リスクを踏まえた微調整(開始・増量の慎重さ)とセットで語られるべき点です。
また、切替時の初回のみ1.5倍増量を推奨する場面があり、2回目で誤って増量を継続しないよう注意喚起されています。
この「初回だけ」という概念は、週1回という投与間隔のために“カレンダー記憶”と相性が悪く、口頭だけだと抜けるので、指導箋に太字・チェック欄で残す運用が安全です。
現場でのエラー予防として、以下の“2段階確認”が効きます。
・(医療者側)「週量の計算(×7)→10単位刻みへの丸め→初回1.5倍の有無→2回目以降の戻し」を、処方コメントに残す。
・(患者側)「今日は何単位を何クリック回すか」を“クリック数”でも言えるようにし、患者が復唱できるか確認する(10単位=1クリックというルールが理解できているかを見抜ける)。
週1回製剤は、投与忘れと曜日変更が必ず起こる前提で、ルールを“覚えやすい形”に落とす必要があります。
投与ガイドでは、投与を忘れた場合は気づいた時点で直ちに投与できるが、その次の投与は4日以上の間隔をあけて行う、とされています。
同様に、やむを得ず投与曜日を変更する場合も、投与間隔を4日以上として血糖モニタリングを十分に行うことが求められます。
この「4日以上」は、患者にとっては“中途半端で覚えにくい数字”なので、指導では「週1回の薬だけど、ズラすなら最低4日空ける(3日ではダメ)」と、禁止形で伝えると記憶に残りやすいです。
また、誤って同日もしくは翌日に続けて2回投与(過量投与)した場合は、次の予定された投与を行わないことが推奨される、と記載があります。
ここは患者が自己判断で“帳尻合わせ”しやすい場面なので、電話指導の定型文(例:「次回は打たず、血糖を測って連絡」)をチームで統一しておくと、夜間対応でもブレにくくなります。
ここからは、添付文書・投与ガイドのルールを守りつつ、医療現場で事故が起きやすい“運用の隙間”を埋める観点です。
まず、アウィクリは「週1回」「10単位刻み」「空打ち10単位」という“非日常の3点セット”で、学習コストが他のインスリンより高くなります。
そのため、導入時は「患者の理解」だけでなく「医療者側の思い込み」も監査対象にした方が安全です(例:他製剤の空打ち2単位の習慣、毎日投与の感覚、1単位刻みの感覚)。
おすすめの運用(意味のあるものだけに絞ります)。
・外来・病棟・薬局で共通の“指導テンプレ”を作り、必ず「空打ち10単位」「1クリック10単位」「針は毎回交換」「投与は週1回で同一曜日」「忘れたら4日以上空ける」を同じ順で説明する(順番の固定がミスを減らす)。
・患者のスマホカレンダーや紙カレンダーに、投与曜日と「次回は○月○日」と日付で書かせる(週1回は“曜日”だけだと祝日や旅行で崩れやすい)。
・低血糖のピークが投与後2~4日に多い点を踏まえ、導入初期はその期間にフォローが入るように電話・オンライン・受診日を設計する(起こりやすい日に先回りする)。
さらに“意外と効く”のが、空打ちを「針詰まり検査」と呼び換えることです。
空打ちの目的が腹落ちすると、患者は「もったいないから省略」ではなく「安全確認だから必要」と判断しやすくなります。
公的資料(デバイス仕様・空打ち・保管・投与忘れ・低血糖注意がまとまっています)
PMDA掲載:アウィクリ注 投与ガイド(空打ち10単位、1クリック10単位、投与忘れ時の4日以上ルール、低血糖が投与後2~4日に多い等)