腸球菌は人間の消化管を中心に生息する常在菌であり、健康な人が保菌していても通常は下痢や腹痛などの症状を呈することはありません。VREを含む腸球菌が健常者や感染防御機構の正常な患者の腸管内に定着しても無症状であり、多くの場合は消化管に寄生しているだけの状態です。id-info.jihs+1
一方で、全身状態が悪い患者では症状が出現する可能性があります。集中治療室や手術後、抗がん剤治療中などは抗生物質を使用する機会も多く、患者の免疫力も普段とは異なり低下していることがあります。腸球菌は日和見病原体であり、高齢者、糖尿病、悪性腫瘍、心疾患、手術後患者などの感染防御能の低下した易感染宿主に感染症を引き起こします。medicalnote+1
保菌者は長期間にわたって腸球菌を排出し続け、周囲の患者に感染させる可能性があります。しかし、VREは長期間腸内にとどまることもありますが、健康な方であれば消えていくと考えられています。minamikyousai.kkr+1
腸球菌による菌血症は重症感染症であり、特にEnterococcus faeciumによる菌血症は致命率が高いことが知られています。VREにより術創感染症や膿瘍、腹膜炎、敗血症などを生じた症例では、患部の発赤などの炎症所見、発熱などの全身所見など一般的な細菌感染症の症状が見られます。id-info.jihs+1
国立感染症研究所の腸球菌感染症に関する臨床症状の詳細情報
主な症状として以下が挙げられます。
VREが血液などから分離されるような感染防御能が全般的に低下した状態の患者では、MRSA、緑膿菌、大腸菌など病原性の強い他の細菌が同時に混合感染を起こしていることも多く、それらの菌による症状が前面に出る場合が多いとされています。id-info.jihs
腸球菌は尿路感染症(UTI)の重要な原因菌であり、特に医療施設関連UTI(カテーテル関連尿路感染症:CAUTI)において高頻度に検出されます。Enterococcus faecalisおよびE. faeciumは、尿路感染症、前立腺炎などの様々な感染症を引き起こします。msdmanuals+1
尿路感染症における主な症状は以下の通りです。
腸球菌は尿検体から検出されることがあり、尿路感染症の原因菌として特に医療施設内で問題となります。VREを含む腸球菌は医療施設関連UTI(特にCAUTI)の重要な起因菌であることが知られています。mhlw+1
腸球菌感染症を発症しやすい患者には特定のリスク因子が存在します。腸球菌は典型的に以下の病態を引き起こしやすいとされています。msdmanuals
基礎疾患によるリスク因子。
医療行為に関連するリスク因子。
厚生労働省による腸球菌感染症のリスク因子に関する詳細資料
主に悪性疾患などの基礎疾患を有する易感染状態の患者において、日和見感染症や術後感染症、カテーテル性敗血症(line sepsis)などを引き起こすことが特徴です。mhlw
腸球菌感染症の診断は、臨床症状と微生物学的検査の組み合わせにより行われます。感染症法では各医療施設において日常的に実施されている分離・同定試験や薬剤感受性試験法により診断されます。id-info.jihs
微生物学的検査の方法。
腸球菌の検出には検査材料の種類により異なる基準が適用されます。idsc.tmiph.metro.tokyo+1
通常無菌的であるべき検体(血液、腹水、胸水、髄液など)からの検出。
通常無菌的ではない検体(喀痰、膿、尿など)からの検出。
薬剤感受性試験。
NCCLS(米国臨床検査標準化委員会)の判定基準ではバンコマイシンのMICが≧32μg/mlを「R:耐性」としていますが、この基準では一部のvanAやvanB型VREを見逃す可能性があるため、感染症法では暫定的にバンコマイシンのMIC値が≧16μg/mlである腸球菌についての報告が求められています。id-info.jihs
遺伝子検査による型別判定。
バンコマイシンに耐性を示す腸球菌で、vanA、vanB遺伝子に特異的なプライマーを用いたPCR検査により特異的なバンドが検出された場合、遺伝子型の判定が可能です。市販のVRE選択培地で分離を試みた場合、バンコマイシンに生来耐性を示すLeuconostoc属、Pediococcus属、Lactobacillus属なども分離されることがあり、VREとの鑑別が必要です。id-info.jihs
保菌スクリーニング検査。
VREは保菌しても通常は無症状なため、VREを狙った検査をしてはじめて保菌者であるかどうか確認できます。検査は便や直腸のぬぐい液を使って行われます。wakayamah.johas+1
腸球菌感染症の治療は菌の薬剤感受性および患者の病態に合わせて抗菌薬を選択することが基本となります。腸球菌は多くの抗菌薬に自然耐性を示すため、適切な薬剤選択が重要です。idsc.tmiph.metro.tokyo
感受性腸球菌の治療。
Enterococcus faecalisはペニシリン系抗菌薬に感受性があることが多く、治療にはアンピシリン(ABPC)が用いられることが一般的です。アンピシリンは腸球菌のE. faecalisやリステリアへの抗菌活性を持っています。doctor-vision+1
VRE感染症の治療。
VREが原因菌として判断される場合、遺伝子型で感受性は一定せず、菌株ごとに感受性の確認や評価が必要です。idsc.tmiph.metro.tokyo
VanAタイプの治療。
感染症専門医による抗菌薬選択の詳細ガイド
治療における重要な原則。
腸球菌感染症患者の多くは生体防御能や免疫能が低下するような基礎疾患や要因が存在するため、それらに対する治療および原因を取り除くことが最も重要です。感染源のコントロール、カテーテルなどのデバイスの抜去、基礎疾患の管理が治療成功の鍵となります。jscm
腸球菌菌血症では、単一の血液培養で腸球菌が検出された状況において敗血症の臨床的証拠がない場合や、多菌種感染症でより毒性の高い微生物を狙った抗菌薬治療で改善している場合には、必ずしも抗菌薬追加が必要ではないとする報告もあります。tokyokita-jadecom
腸球菌、特にVREは主に接触感染によって広がるため、適切な院内感染対策が重要です。VREをもっている保菌者の便から排出されたVREが、保菌者の手からの直接的感染、あるいは医療従事者やベッド柵、トイレ、ドアノブなどの環境を介した間接的感染によって伝播していきます。idsc.tmiph.metro.tokyo+1
標準予防策(スタンダードプリコーション)。
感染防止対策の最も有効なものとして標準予防策があります。血液や喀痰、排泄物、胸水などすべての体液、分泌物、傷口や粘膜を介して感染する可能性があることを前提に対策を行います。感染がわかっていない患者も含めすべての患者において感染の危険性を考慮して取り扱う必要があります。news.curon
感染予防の具体的な方法。
接触感染予防策。
腸球菌感染症では接触感染予防が特に重要です。手洗いや消毒が不完全であると、汚染された医療器具や医療従事者の手などを通じて院内感染を起こすことになります。医療従事者の手や汚染された医療器具もしくは環境の表面を介した直接的または間接的接触により感染が広がります。jstage.jst+1
環境清掃の強化。
職員および患者の手洗いや手指消毒の徹底に加えて、環境清掃の強化など感染拡大防止に取り組むことが重要です。VREが検出された場合には、病院環境の清潔度を高めるための対策が必要となります。kansensho+1
腸球菌感染症の臨床像を理解する上で、従来あまり注目されていなかった重要な側面として、腸球菌による菌血症と細菌尿の関係性があります。黄色ブドウ球菌(S. aureus)では菌血症から二次性の細菌尿を来すことが知られており、S. aureus細菌尿の8.3~21%はS. aureus菌血症(SAB)を併発、あるいは後にSABを発症すると報告されています。hospi.sakura
しかし、腸球菌に関しては興味深いことに、黄色ブドウ球菌のように菌血症から細菌尿を起こすという報告は見つかっていません。これは腸球菌の病態生理学的特性を反映している可能性があり、腸球菌が主に腸管から尿路へ上行性に感染するメカニズムを示唆しています。hospi.sakura
腸球菌感染症における腸内細菌叢の役割。
近年の研究では、腸内細菌叢の乱れ(dysbiosis)が血流感染症(BSI)の感受性を高めることが報告されています。BSI群では健常対照群と比較して腸内細菌の多様性が有意に低く、腸球菌(Enterococcus)を含む4つのキーストーン種が両群間で有意に異なっていました。この知見は、抗菌薬の不適切な使用により腸内細菌叢が乱れることで、腸球菌が過剰増殖し感染症を引き起こしやすくなる可能性を示唆しています。pmc.ncbi.nlm.nih
個々の患者における内因性感染の重要性。
従来、腸球菌による院内感染症は主に個々の患者の腸管内腸球菌による内因性感染症が主体とされてきました。しかし、医療従事者の手や汚染された医療器具もしくは環境の表面を介した直接的または間接的接触による伝播も重要であることが認識されています。この二重の感染経路の理解は、より効果的な感染対策の立案に寄与します。jstage.jst
E. faeciumとE. faecalisの臨床的相違。
臨床検体から分離される腸球菌の約7割がE. faecalisですが、E. faeciumによる菌血症は致命率が高いという重要な相違点があります。VREの大半はE. faeciumであり、VRE菌血症の致命率はバンコマイシン感受性腸球菌に比べ1.8倍であったとする報告もあります。この違いを認識することは、患者の予後予測と治療強度の決定において重要です。id-info.jihs+1

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