胃ろうは本来、何らかの理由で口から食事を摂取することが難しい人に対して、手術によってお腹に小さな穴を開け、胃ろうカテーテルと呼ばれるチューブを通して栄養剤を注入する栄養補給方法です。youtube
重要なことは、延命治療とは病気の回復ではなく延命を目的とした治療のことです。したがって延命目的で胃ろうを作る場合には延命治療にあたりますが、病気からの回復のために胃ろうを作る場合は延命治療ではありません。youtube
医療現場において「胃ろうを延命治療と決めつけている医師が多く、メリットを失わせている」という指摘があります。この誤解は適切な医療判断を阻害する重大な問題となっています。
日本老年医学会の調査では、医師会員を対象とした調査(n=4,506)で、胃ろう栄養法と経鼻経管栄養法の比較を質問したところ、胃ろう栄養法の優位点として以下が挙げられました:
同様に看護師を対象とした調査でも、胃ろうの医学的メリットを理解している結果が得られています。
新規の胃ろう造設についての適用基準の有無を調査した結果、多くの医療機関で明確な適応基準が設けられていないことが判明しています。これは適切な医療判断を困難にする要因となっています。
胃ろう造設者の大部分は障害を持つ脳疾患患者か終末期高齢者で、目的は延命です。しかし本来胃ろうは経口摂取が不可能な期間だけの一時的な処置であるにも関わらず、胃ろうを離脱し経口での食物摂取となる見込みは最も高い急性期病院においてすら4.5%で、他の施設では3%台という低い数値です。
一般国民における理想の医療措置についての調査結果では、救命医療としての心臓マッサージや人工呼吸を望む人が15.8%であるのに対し、延命治療としての胃ろうを望む人は7.6%と約半分に減少しています。
項目 | 望む | 望まない | わからない | 無回答 |
---|---|---|---|---|
救命治療 | 15.8% | 70.4% | 12.3% | 1.5% |
胃ろう(延命) | 7.6% | 72.8% | 17.9% | 1.7% |
この結果は「長く生きたいとは思うけれど、胃ろうをしてまで長く生きたいという人が少ない」という現実を示しています。一方で、胃ろう造設への家族の満足度は高い一方、胃ろうが延命治療と考えている家族が多く、延命治療は希望しない家族が多いという矛盾した結果も報告されています。
日本とは対照的に、欧米では終末期の高齢者や認知症末期の患者は胃ろう造設を行わない傾向があります。この背景には文化的、倫理的、医療制度的な違いがあります。
アメリカの老年医学者トマス・フィヌーケイン(Thomas Finucane)らの1999年の報告は、胃ろうに関する研究で最も頻繁に引用される論文として、欧米での胃ろうに対する慎重な姿勢を示しています。
日本独自の医療実践上の位置づけの変容として、以下の点が挙げられます。
98歳の超高齢者でも胃ろうから経口摂取への回復事例があることから、年齢だけで胃ろうの適応を判断するのではなく、個々の患者の状態と回復可能性を総合的に評価することが重要です。
胃ろう造設によって改善したのは、栄養状態、嚥下性肺炎防止、確実な与薬など、介護する側の都合に関するものが多い一方で、患者本人の人生の物語りの充実という視点での評価も必要です。
医療従事者は胃ろうを単なる延命治療として位置づけるのではなく、患者一人ひとりの最善を探る意思決定支援ツールとして活用する視点を持つべきでしょう。