薬物の投与経路は、大きく局所投与と全身投与に分類され、全身投与はさらに経腸投与と非経口投与に細分化される。経腸投与には経口投与、舌下投与、直腸投与が含まれ、主に消化器系を通じて薬物を全身循環に送り込む方法である。非経口投与には静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、経皮投与、吸入投与など多様な方法があり、消化器系を迂回して薬物を体内に導入する。
参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/02-%E8%96%AC%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6/%E8%96%AC%E3%81%AE%E6%8A%95%E4%B8%8E%E3%81%A8%E8%96%AC%E7%89%A9%E5%8B%95%E6%85%8B/%E8%96%AC%E3%81%AE%E6%8A%95%E4%B8%8E
投与経路によって薬物の吸収速度と作用発現時間は大きく異なり、静脈内投与>直腸内投与>筋肉内投与>皮下投与>経口投与の順で吸収速度が速い。静脈内投与では薬物が直接血流内に入るため、他の経路よりも早く効果が現れるが、効果の持続期間は短くなる傾向がある。経口投与では薬物が消化管で崩壊・溶解し、主に小腸上部で吸収されるため、作用発現には比較的時間がかかる。また、経口投与された薬物は初回通過効果を受けるため、全身循環に移行する薬物量が減少する可能性がある。
参考)https://medicaleducation.co.jp/wp-content/themes/new-mesite/contents/iyakuhinjouhou/uDs8Apvi7Hu2/index.html
医療安全の観点から、投与経路の選択と確認は極めて重要であり、間違った経路での投与事例が報告されている。添付文書上の用法とは異なる経路で薬剤を投与した事例として、経口薬を注射で投与したり、吸入薬を点眼に使用したりするケースがある。薬剤の準備時・投与直前には6R(正しい患者、正しい薬剤、正しい用量、正しい時間、正しい経路、正しい記録)の確認が必要である。特に液体の内服薬を準備する際はカテーテルチップ型シリンジを使用し、投与経路の混同を防ぐ工夫が重要である。
参考)https://www.med-safe.jp/pdf/med-safe_101.pdf
特殊集団(妊婦、授乳婦、低出生体重児、新生児、乳児、幼児、小児、高齢者、肝障害・腎障害患者等)では、投与経路の選択により慎重な検討が必要である。小児では消化管の発達状況や体重あたりの薬物分布容積の違いを考慮し、適切な投与経路と用量調整が求められる。高齢者では薬物代謝能の低下や多剤併用のリスクを踏まえ、経口投与の可否や注射による投与の必要性を慎重に判断する必要がある。在宅医療においては、患者の状態を考慮した服用しやすい剤形や用法の選択、一包化や簡易懸濁法の検討が重要である。
参考)https://www.nichiyaku.or.jp/files/co/pharmacy-info/manual_all.pdf
近年の薬物送達システム(DDS)技術の発展により、従来の投与経路の限界を克服する新しいアプローチが開発されている。ナノテクノロジーを活用したナノドラッグデリバリーシステムでは、標的組織への選択的薬物送達や持続的薬物放出が可能となり、投与経路の概念を革新している。遺伝子医薬品の分野では、細胞選択的に遺伝子を送達できる非ウイルス性遺伝子デリバリーシステムの開発が進み、これまで困難とされていた遺伝子治療の実現に向けた投与技術が確立されつつある。経皮吸収向上技術では、角層における新投与経路の構築により、従来経口投与に限定されていた薬物の経皮投与が可能になっている。これらの技術革新により、患者の負担軽減と治療効果の向上を両立する次世代の投与経路システムが実用化されている。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/7b5f15d1924b6b6659ca9f511b38115b0ce9da46