イオンチャネルの種類と機能の理解

イオンチャネルは細胞膜を介したイオンの輸送を担う膜タンパク質で、神経伝達や筋収縮など多様な生理機能に関与します。電位依存性、リガンド依存性、TRPチャネルなど、刺激に応じた複数の種類が存在しますが、それぞれの特徴と機能をご存知でしょうか?

イオンチャネルの種類と機能

📚 イオンチャネルの主な分類
電位依存性チャネル

膜電位の変化を感知して開閉し、活動電位の発生や伝導に中心的な役割を果たします

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リガンド依存性チャネル

神経伝達物質などの化学的メッセンジャーが結合することで開口します

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TRPチャネル

温度、機械刺激、化学物質など多様な刺激に応答するセンサータンパク質です

イオンチャネルの基本構造と選択性

 

 

イオンチャネルは形質膜や内膜系に存在する膜タンパク質で、生体膜を構成する脂質二重膜がイオンをほとんど透過させないため、イオンの膜透過に不可欠な役割を担っています。イオンチャネルは透過するイオンの種類によって分類され、カリウムチャネル、ナトリウムチャネル、カルシウムチャネル、塩素チャネルなどが存在します。イオン選択性はチャネル内部のイオン選択性フィルターによって決定され、イオンの電荷や大きさを識別して特定のイオンのみを通過させる精巧な仕組みを実現しています。bsd.neuroinf+1
ヒトゲノムの配列解明により、400種類を超えるイオンチャネルが識別されており、一般的な細胞には異なるタイプの100〜1000個のイオンチャネルが存在することが明らかになっています。イオンチャネルはゲート機構によっても分類可能で、膜電位に依存して開閉する電位依存性チャネル、リガンドが結合することによって開くリガンド依存性イオンチャネル、機械刺激受容チャネルなどが存在します。sophion+2
カリウムチャネルを例にとると、カリウムイオンが通る小孔部の周りのポリペプチド鎮から酸素原子が突き出ており、この酸素原子はカリウムイオンがぴったり配位される太さに配置されています。カリウムイオンとナトリウムイオンは直径がそれぞれ0.133 nmと0.095 nmでナトリウムイオンのほうが小さいものの、カリウムチャネルはナトリウムイオンをほぼ通さないという高い選択性を示します。wikipedia

イオンチャネルの電位依存性の種類と機能

電位依存性イオンチャネルは膜電位の変化に応答して開閉する特性を持ち、活動電位の発生や神経伝導に中心的な役割を果たしています。電位依存性チャネルには主にナトリウムチャネル、カルシウムチャネル、カリウムチャネル、塩素チャネル、プロトンチャネルなどの種類が存在します。bsd.neuroinf+1
電位依存性カルシウムチャネル
電位依存性Ca²⁺チャネルには、L型、T型、N型、P/Q型、R型などの複数のタイプがあり、それぞれ発現部位や機能が異なります。膜の脱分極により活性化しCa²⁺イオンを透過させる機能を持ち、L型Ca²⁺チャネルは骨格筋や心筋に発現しています。電位依存性カルシウムチャネルは、シナプス前終末での神経伝達物質の放出や、心筋・平滑筋の収縮、ホルモン分泌などに関与しています。plaza.umin+1
電位依存性ナトリウムチャネル
電位依存性Na⁺チャネルは活動電位の立ち上がり相を担い、局所麻酔薬や抗不整脈薬、抗痙攣薬の標的となっています。痛み関連Na⁺チャネルには、テトロドトキシン(TTX)抵抗性のチャネルが含まれており、疼痛治療の重要な標的として注目されています。plaza.umin
電位依存性カリウムチャネル
電位依存性カリウムチャネルは6回膜貫通型の膜タンパク質であり、四つのαサブユニットが集まって一つのイオンチャネルを構成します。六つの膜貫通セグメント(S1~S6)のうち最初の四つ(S1~S4)は膜電位センサードメインとして機能し、特にS4セグメントには正電荷を持つアミノ酸(主にアルギニン)が3アミノ酸おきに配置されています。カリウムチャネルは、イオンチャネルの中で最も多様なグループを構成し、ほぼすべての細胞種に発現しています。moleculardevices+1
内向き整流性カリウムチャネル(Kir)やGタンパク質共役型内向き整流性カリウムチャネル(GIRK)など、異なる特性を持つサブタイプが存在し、脳ではGIRK1、GIRK2およびGIRK3サブユニットが強く発現しています。plaza.umin

イオンチャネルのリガンド依存性の種類と特徴

リガンド依存性イオンチャネルは、神経伝達物質などの化学的メッセンジャー(リガンド)の結合に応答して、Na⁺、K⁺、Ca²⁺、Cl⁻などのイオンが膜を通過するように開く膜貫通型イオンチャネルタンパク質です。これらはイオンチャネル型受容体とも呼ばれ、シナプス伝達において重要な役割を果たしています。wikipedia
シナプス前神経細胞が興奮すると、小胞からシナプス間隙に神経伝達物質が放出され、次に神経伝達物質はシナプス後神経細胞にある受容体に結合します。これらの受容体がリガンド依存性イオンチャネルである場合、結果として生じるコンホメーション変化によりイオンチャネルが開き、細胞膜を横切るイオンの流れが生じます。wikipedia
🔗 主なリガンド依存性イオンチャネルの種類
陽イオンを通すリガンド依存性イオンチャネルには、アセチルコリン、セロトニン、グルタミン酸、アデノシン三リン酸(ATP)をそれぞれ専用に結合するタイプがあります。陰イオンを通すものは、ガンマアミノ酪酸(GABA)とグリシンをそれぞれ専用にリガンドとするタイプが知られています。gozasso
アセチルコリン(acetylcholine, ACh)をリガンドとするチャネルは、リガンド依存性イオンチャネルの代表的なもので、いくつもあるリガンド依存性イオンチャネルのうちの原型のひとつとされています。AMPA型グルタミン酸受容体やNMDA型グルタミン酸受容体なども、リガンド依存性イオンチャネルに分類されます。wikipedia+1
電位依存性イオンチャネルは単独のイオン専用のものが多い一方、リガンド依存性イオンチャネルは一つの種類のイオンだけを通すものは少なく、陽イオンまたは陰イオンといった大雑把な分類になる傾向があります。受容体は特定のリガンド専用であることが原則なので、リガンド依存性チャネルはたいてい受容体のリガンドの名前で呼ばれ、「○○受容体」という名称で知られることが多くなっています。gozasso

イオンチャネルのTRPチャネルの種類と多様性

TRP(Transient Receptor Potential)チャネルは、温度、機械刺激、化学物質など多様な刺激に応答するセンサータンパク質として機能する重要なイオンチャネルファミリーです。ヒトは27種類のTRPチャネルを持っており、これらは、よく似た構造と機能を持つイオンの透過領域と、各種類に応じて多様な構造や機能を持つ細胞内領域から構成されています。riken
🌡️ 温度感受性TRPチャネル
TRPチャネルは温度センサーとして重要な役割を果たし、熱刺激で活性化するTRPV1やTRPV2、冷刺激で活性化するTRPM8、体温近傍の温度で活性化するTRPM2やTRPV4などが存在します。TRPV1は43℃以上で活性化し、感覚神経・脳・皮膚に発現しており、カプサイシン、プロトン、アナンダミドなどによっても活性化されます。TRPV2は52℃以上で活性化し、感覚神経・脳・脊髄・肺・肝臓・脾臓・大腸に発現し、機械刺激にも応答します。seikagaku.jbsoc+1
🔬 TRPチャネルの構造的特徴
TRPチャネルは6回膜貫通型のチャネルであり、電位依存性K⁺チャネルと同じ基本構造を持ちますが、必ずしも全てのTRPホモログに電位依存性が見られるわけではありません。哺乳類においては、TRPA1の1種類だけが同定されており、pH変化、温度変化、酸化ストレス、浸透圧、機械刺激等で活性化します。jbsoc
TRPチャネルは外部からの刺激を感知するセンサータンパク質としての機能や、味覚をはじめとする感覚受容のシグナル伝達など、生命活動のなかでも重要な機能に関わっています。TRPチャネルの一部が痛みの受容にも関わることから、TRPチャネルを標的とした鎮痛薬開発も進められています。riken
TRPV、TRPA、TRPC、TRPPファミリーのイオンチャネルが機械刺激感受性を有することが報告されており、侵害性機械刺激受容に関わる可能性があります。TRPチャネルは末梢神経終末における侵害刺激受容の中心的分子群と位置づけることができ、研究が進むことによって新たな鎮痛薬開発につながるものと期待されています。jstage.jst

イオンチャネルの機械刺激受容性と酸感受性の種類

機械刺激受容性イオンチャネルは、物理的な力を電気信号や化学信号に変換する役割を担う重要なイオンチャネル群です。最近発見されたPiezoイオンチャネルは、真正の機械感受性イオンチャネルとして同定され、その特性解明により多様な生理機能が明らかになってきました。pmc.ncbi.nlm.nih
🔧 酸感受性イオンチャネル(ASIC)の機能
酸感受性イオンチャネル(ASIC)は、細胞外の酸性化に応答する電位非依存性陽イオンチャネルで、2つの膜貫通ドメインと大きな細胞外ドメインを持ちます。ASICタンパク質の分子構造は、線虫のタッチ受容ニューロンで発現する機械感覚異常4または10タンパク質と類似しており、哺乳類の神経感覚性メカノトランスダクションに関与しています。pmc.ncbi.nlm.nih
ASICファミリーは6種類のサブタイプ(1a、1b、2a、2b、3、4)が存在し、互いにサブユニットとして、ホモ/ヘテロ3量体を形成すると想定されています。ASICは線虫の機械刺激受容体遺伝子であるデジェネリンの哺乳類ホモログとして同定された経緯を持ち、哺乳類の機械刺激受容体の候補と考えられています。nanbyo
ASICは、組織損傷、炎症、虚血、代謝変化の際に生じる組織酸性化を検出し、全身の組織に投射する後根神経節(DRG)、三叉神経節(TG)、節状神経節(NG)において主要な酸感知膜タンパク質として機能します。ASICアイソフォームは、メルケル細胞-神経複合体、歯根膜ルフィニ終末に発現しており、触覚や固有受容感覚におけるメカノトランスダクションに関与しています。pmc.ncbi.nlm.nih+1
⚙️ その他の機械感受性イオンチャネル
TMEM63タンパク質は、単量体構成で高閾値の機械感受性イオンチャネルとして機能することが最近明らかになりました。TMEM63AとTMEM63Bの構造解析により、単一の高度に制限されたポアを持つことが示され、小さなコンダクタンスと高い閾値を特徴とする真正の機械感受性イオンチャネルであることが実証されました。pmc.ncbi.nlm.nih
細胞容積調節において、細胞が増大した際には機械刺激で活性化するTRPM7チャネルが調節性容積減少に関与していることが明らかになっています。機械受容チャネルは様々なイオンや低分子物質を通すことができ、カリウムチャネルのような高い特異性とは異なる特徴を持っています。numon.pdbj+1

イオンチャネルの創薬標的としての価値と臨床応用

イオンチャネルは重要な創薬標的であり、局所麻酔薬・抗不整脈薬・抗不安薬・抗てんかん薬・鎮痛薬など、様々な疾患領域の治療薬が神経や心筋などの興奮性細胞のイオンチャネルを標的として生み出されてきました。創薬ターゲットのタンパク質全体の約20%がイオンチャネルであるとされており、代表的な疾患領域には、循環器系や中枢神経系、痛みなどがあります。funakoshi+1
💊 イオンチャネル創薬の現状と課題
現在、売上高トップ100の医薬品のうち15%がイオンチャネル標的であるものの、実際には遺伝子数として400程の標的候補のイオンチャネルのうち、15種類だけが医薬品の標的になっているに過ぎません。イオンチャネルは今後の有望な創薬標的と考えられており、近年、(神経因性)疼痛、緊張性膀胱、慢性閉塞性肺疾患、多発性硬化症、乳がんや自己免疫疾患の治療標的として各種イオンチャネルが注目されています。jstage.jst
イオンチャネルは、心臓や脳といった生命活動の根幹を担う臓器に広く発現しているため、心毒性や神経毒性といったクリティカルな副作用が出やすい傾向があり、これらの副作用をいかに回避できるかがイオンチャネル標的薬開発の鍵となります。axcelead
🎯 新規創薬標的としての可能性
バイオロジーの進歩によって、疾患の原因となっている分子の同定・バリデーションが進んでおり、イオンチャネルの局在や分子複合体の解析も進展しています。免疫系や癌領域でもイオンチャネルを標的とした薬が開発されており、イオンチャネルは様々な疾患に関わる魅力的な創薬ターゲットとして位置づけられています。axcelead
病気による痛み、てんかん、嚢胞性線維症および様々な神経や筋肉障害などの疾患は、イオンチャネル機能の欠陥によって引き起こされており、これらの疾患に対する治療法開発が進められています。イオンチャネル疾患(channelopathy)は1989年に嚢胞性線維症膜コンダクタンス調節因子の発見により初めて認識され、急速に研究が進展してきた比較的新しい疾患カテゴリーです。pmc.ncbi.nlm.nih+1
イオンチャネル標的創薬におけるハイスループットスクリーニングの現状と展望について詳しく解説されている日本薬理学会の資料
理化学研究所によるTRPチャネルの刺激応答メカニズムに関する研究成果

 

 




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