独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)は、新型コロナウイルス検査キットを含む体外診断用医薬品の承認審査を担当する日本の公的機関です。PMDAは医薬品、医療機器、体外診断用医薬品の承認審査業務や安全対策業務を行っており、製造販売業者から提出された申請書類を審査し、安全性と有効性を確認した上で承認を与えています。新型コロナウイルスの流行に際しては、迅速な検査体制構築のため緊急審査体制を整備し、多数の検査キットの承認を実施してきました。mhlw+2
PMDAの審査を経て承認された検査キットには、「体外診断用医薬品」または「第1類医薬品」という表示が義務付けられており、これが品質保証の証となっています。体外診断用医薬品は医療機関で使用される医療用検査キットであり、第1類医薬品は一般消費者が薬局やインターネットで購入できる一般用検査キット(OTC検査薬)です。PMDAのウェブサイトには承認された全ての検査キットのリストが公開されており、医療従事者や一般消費者が確認できるようになっています。mhlw+4
厚生労働省の承認済み医療用検査キット一覧ページ(検査法別の詳細情報と審査概要を確認できます)
新型コロナウイルス検査キットには大きく分けて3つの種類が存在し、それぞれ法的位置づけと用途が異なります。第一に「体外診断用医薬品」と表示される医療用検査キットは、PMDAの承認を受けた医療機関向けの製品で、薬局医薬品として分類されます。これは処方箋医薬品以外の医療用医薬品に該当し、医療従事者による使用を前提としています。第二に「第1類医薬品」と表示される一般用検査キット(OTC)は、同じくPMDAの承認を受けているものの、一般消費者が薬剤師のいる薬局やインターネットで購入できる製品です。ome-pharmacy+4
第三の「研究用」検査キットは、PMDAの承認を受けておらず、薬機法上は実質的に雑貨と同じ位置づけです。研究用キットは国による性能確認がなされていないため、精度や品質が保証されておらず、診断目的での使用には適していません。インターネット上では研究用キットが多数販売されており、中には国の承認品であるかのような誤解を招く表示をしている製品もあるため、医療従事者は患者への説明時に注意が必要です。sankei+3
厚生労働省の承認済み一般用(OTC)検査キット一覧ページ(品目名と製造販売業者を確認し誤購入を防止できます)
医療用検査キットと一般用検査キット(OTC)は、いずれもPMDAの承認を必要としますが、承認基準と使用対象者が異なります。医療用検査キットは、令和2年3月以降順次承認されており、核酸増幅法(RT-PCR法、LAMP法、TRC法など)や抗原検出法(定性・定量)など多様な検査原理の製品が承認されています。PMDAの審査では、既承認品との同等性や臨床性能評価が求められ、ウイルス検出感度、特異度、陽性一致率、陰性一致率などの性能指標が厳密に評価されます。pmda+3
一般用抗原定性検査キット(OTC)は、令和4年8月から承認制度が開始されました。OTC化に際しては、既承認の医療用抗原定性検査キットのうち承認条件が満たされた製品を対象とし、一般使用者でも適切に検体採取と判定が行えることが条件とされています。OTC検査キットの承認申請では、使用者が自己採取可能な検体(鼻腔ぬぐい液や唾液)を用いる製品であること、添付文書や使用説明が一般使用者に理解可能であることが重視されます。医療機関への供給を優先しつつ、休日・夜間や在宅での検査ニーズに応えるため、段階的にOTC化が進められてきました。mhlw+2
医療従事者にとって、患者に適切な検査キットを案内するためには、承認品と研究用キットの見分け方を理解することが重要です。承認品の見分け方として最も確実な方法は、製品パッケージの表示を確認することです。医療用検査キットには「体外診断用医薬品」、一般用検査キット(OTC)には「第1類医薬品」という表示が必ず記載されています。一方、研究用キットには「研究用」という表示があり、中には誤解を招くような表記をしている製品も存在するため注意が必要です。fastdoctor+3
薬局で医療用抗原定性検査キットを販売する際、薬剤師は購入希望者に対して適正使用のための説明を行い、検査キットの限界や偽陰性の可能性について十分に情報提供する責任があります。特に、抗原定性検査は症状出現後2日目から9日目の有症状者に適しており、無症状者への使用や陰性判定の場合は核酸検出検査(PCR検査)の併用が推奨されることを説明すべきです。また、検体採取方法についても、鼻咽頭検体の採取は医行為に該当し医師や看護師等に限定されるため、自己検査では鼻腔検体または唾液検体の使用が前提となることを伝える必要があります。okiyaku+3
PMDAの一般用コロナ抗原検査キット承認申請ガイドライン(製造販売業者向けの詳細な承認基準と臨床性能要件を記載)
新型コロナウイルス検査キットの承認プロセスにおいて、PMDAが直面した独自の課題として、緊急性と安全性のバランス確保があります。パンデミック初期には検査体制の迅速な構築が求められる一方で、品質が不確かな製品の承認は医療現場の混乱を招くリスクがありました。PMDAは緊急承認制度を活用しつつも、「承認時のデータが極めて限られていることから、製造販売後に臨床性能を評価可能な適切な試験を実施すること」という承認条件を付すことで、市販後の安全性監視体制を構築しました。tauns+3
また、変異株の出現に伴う検査キットの性能維持も重要な課題です。SARS-CoV-2ウイルスは変異を繰り返しており、特定の変異株に対する検出感度が低下する可能性があるため、承認後も継続的な性能評価が必要とされています。さらに、一般用検査キット(OTC)の普及に伴い、検査結果の解釈や医療機関受診のタイミングについて、一般使用者への適切な情報提供が課題となっています。医療従事者は、検査キットの限界を理解し、陰性結果でも症状が続く場合は医療機関受診を促すなど、適切な医療連携を支援する役割が求められます。mhlw+4
日本感染症学会の病原体検査指針(検査キットの臨床的位置づけと使用場面の詳細な解説)