血友病は遺伝的な血液凝固障害であり、出血が止まりにくくなる疾患です。血友病の症状は凝固因子の活性値によって重症度が分類され、治療方針の決定に重要な指標となります。
血友病の重症度分類は以下のように定められています。
重症型では自然出血や軽微な外傷による出血が頻発し、特に関節内出血が問題となります。中等症では外傷による出血が主体となり、軽症では抜歯や手術時の異常出血として発見されることが多いです。
血友病の典型的な出血部位として、膝関節、足関節、肘関節などの大関節への出血があり、これらを繰り返すことで血友病性関節症を発症する可能性があります。また、筋肉内出血、消化管出血、頭蓋内出血などの重篤な出血も起こりえるため、適切な治療と管理が必要です。
血友病の治療には主に血液凝固因子製剤が使用され、血友病Aでは第VIII因子製剤、血友病Bでは第IX因子製剤による補充療法が行われます。
血漿由来製剤
人の血液を原料として製造される製剤で、以下のような特徴があります。
遺伝子組換え製剤
遺伝子工学技術により製造される製剤で、感染リスクが低いとされています。
半減期延長型製剤
2014年に登場した新しいタイプの製剤で、投与間隔を延長できるのが特徴です。従来の標準型製剤では週3回の注射が必要でしたが、半減期延長型では週1~2回の投与で済むため、患者の負担軽減に大きく貢献しています。
血友病の補充療法は治療のタイミングと目的により、3つの方法に分類されます。
出血時補充療法(オンデマンド療法)
急性出血が発生した際に行う治療で、出血部位と重症度に応じて必要な凝固因子活性レベルまで上昇させることを目的とします。関節内出血では20~40%、重篤な出血では80~100%の活性レベルを目標とします。
予備的補充療法
出血リスクが高い状況(手術、抜歯、激しい運動など)の前に事前に行う治療です。予想される出血リスクに応じて適切な凝固因子レベルを維持することで、出血を予防します。
定期補充療法
長期間にわたり定期的に凝固因子製剤を投与する予防的治療法です。この方法により以下の効果が期待されます。
定期補充療法では家庭療法(在宅自己注射)が普及しており、患者や家族への適切な指導により、病院への通院回数を減らしながら効果的な治療が可能です。
血液凝固第IX因子製剤による補充療法の詳細情報
https://genetics.qlife.jp/diseases/hemophilia-b
血友病患者の約20~30%(血友病A)、3~5%(血友病B)でインヒビター(凝固因子に対する抗体)が発症することがあります。インヒビター発症時には従来の凝固因子製剤による治療が困難となるため、特別な治療戦略が必要です。
バイパス止血療法
凝固因子を介さない経路で血液凝固を促進する治療法です。活性型プロトロンビン複合体濃縮製剤(APCC)や遺伝子組換え活性型第VII因子製剤(rFVIIa)が使用されます。
ノンファクター製剤による治療
最近では以下の新しいタイプの製剤が使用可能になっています。
免疫寛容導入療法(ITI)
凝固因子製剤を頻回大量投与することにより、インヒビターの産生を抑制する治療法です。欧米では効果が確認されており、日本でも実施されています。
インヒビター治療に関する詳細な専門情報
https://genetics.qlife.jp/diseases/hemophilia-a
血友病治療は急速に進歩しており、患者のQOL向上に向けた新しい治療選択肢が登場しています。
遺伝子治療の進展
2023年6月、米国FDAにより初めて血友病Aの遺伝子治療薬(Roctavian)が承認されました。この治療は第VIII因子の遺伝子を肝臓細胞に導入し、患者自身の体内で凝固因子を産生させることを目的としています。
新規抗TFPI抗体製剤
2025年3月、日本国内でヒムペブジ皮下注150mgペンが発売されました。この製剤は組織因子経路阻害因子(TFPI)を標的とする抗体製剤で、以下の特徴があります。
デスモプレシンの活用
血友病Aの軽症~中等症患者では、デスモプレシンの静脈注射により第VIII因子活性を一時的に上昇させることができます。抜歯などの小手術時の止血管理に有用で、侵襲性の低い治療選択肢として重要です。
医療費助成制度の充実
血友病治療薬は高額ですが、日本では以下の制度により自己負担なく治療を受けることができます。
これらの制度により、経済的負担を心配することなく最適な治療を選択できる環境が整備されています。
血友病治療における最新の治療選択肢と管理方法
https://www.hemophilia-life.jp/b-treatment/howto
血友病治療は個々の患者の重症度、ライフスタイル、社会生活の状況を総合的に考慮して決定する必要があります。医療従事者は最新の治療選択肢を理解し、患者との十分な話し合いを通じて最適な治療方針を策定することが重要です。また、インヒビター発症のリスクや新しい治療法の可能性についても、患者への適切な情報提供を行うことで、より良い治療成果につなげることができるでしょう。