気管挿管のデメリットと合併症

気管挿管は気道確保に有効な手技ですが、食道挿管や歯牙損傷、喉頭浮腫などの合併症リスクを伴います。これらのデメリットと予防策を理解していますか。

気管挿管のデメリットと合併症

気管挿管の主要なデメリット
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操作中の合併症リスク

食道挿管、歯牙損傷、気道損傷などの即時的な合併症が発生する可能性があります

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挿管後の管理負担

カフ圧管理、喉頭浮腫の予防、長期挿管による気管粘膜損傷への対応が必要です

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抜管後の晩期合併症

嗄声、声門下狭窄、喉頭浮腫による再挿管リスクが存在します

気管挿管は気道確保において最も確実な手技とされていますが、様々なデメリットと合併症を伴います。ICUにおける重症患者への気管挿管では、手術室での挿管と比較して合併症発生率が約37%と高く、手術室の6%と比べて顕著な差があります。国際観察研究INTUBEスタディでは、重症低酸素血症や循環動態破綻などの致死的合併症の発症頻度が約28%、心停止の頻度が2.7%と報告されています。knowledge.nurse-senka+2

気管挿管操作中に発生する合併症

 

 

挿管操作中には複数の重大な合併症が発生する可能性があります。最も注意すべきは食道挿管で、これに気づかないまま経過すると低酸素血症から心停止に移行する危険性があります。食道挿管は熟練した医師が行った場合でも発生することがあり、挿管後は必ず5点聴診(心窩部、両上肺野、両側胸部)、胸郭の上下運動の確認、呼気中の二酸化炭素濃度測定などで正確性を確認する必要があります。kango-roo+1
歯牙損傷も重要な合併症の一つで、喉頭鏡や気管チューブによる口腔内の損傷として発生します。特に動揺歯がある患者では脱臼や損傷のリスクが高まるため、術前に動揺歯を確認し糸で固定するなどの予防策が必要です。気管挿管時の歯牙損傷は約3000例に1度の頻度で発生するとされ、場合によっては裁判に発展することもあるため、手術用マウスピースの使用が推奨されています。kango-roo+4
その他の操作中の合併症として、粗暴な操作による顔面、口唇、口腔内、舌の裂傷や出血、気管穿孔、咽頭けいれん、気管支けいれんなどがあります。ICUでは手術室と比較して挿管困難例が多く、Cormack分類Ⅲ+Ⅳの症例や1回での成功率が低いことも報告されています。kango-oshigoto+3

気管挿管中の管理における課題

気管挿管後の管理では、カフ圧の適切な調整が重要な課題となります。カフ圧は15~22mmHg(または20~30cmH2O)の範囲で管理する必要があり、高すぎると気管粘膜の血流を阻害し壊死の原因となります。一方、カフ圧が低すぎると気管分泌物や吐物の誤嚥により人工呼吸器関連肺炎(VAP)を引き起こすリスクがあります。kango-roo+2
カフ圧は体位変換や気管吸引、経時的な自然脱気によって変動するため、各勤務帯で最低1回は確認し、患者の努力呼吸がみられた場合や一回換気量の低下時には随時調整が必要です。カフ圧計を使用した正確な測定と管理が推奨されており、適正圧を維持できない場合は体格に合わせた気管チューブへの再挿管を検討する必要があります。note-nurse+1
長期挿管による気管粘膜への影響も重要な課題です。いかなる気管チューブも喉頭を通過する際に多少なりとも声帯を傷害し、時に潰瘍形成、虚血、遷延性の声帯麻痺を引き起こします。カフ圧が過剰に高い場合、気管のびらんが発生しやすくなり、まれに主要血管からの出血、瘻孔(特に気管食道瘻)、気管狭窄が起こる可能性があります。msdmanuals

気管挿管抜管後の喉頭浮腫とリスク因子

抜管後喉頭浮腫は気管挿管における重要な晩期合併症で、抜管後の呼吸不全や再挿管の原因となります。抜管後24~72時間までに再挿管を必要とする抜管失敗は、全抜管患者の2~25%で発生するとされています。喉頭浮腫や粘膜の潰瘍性変化は気管挿管の数時間後から生じ始め、挿管期間が4日以上になるとほとんどの患者に何らかの変化が生じます。dr-gajumaru+2
抜管後喉頭浮腫の主要なリスク因子として、女性、長期間の気管挿管、太い気管チューブ、高いカフ圧、挿管困難が挙げられています。小児患者においても、咽喉頭への侵襲が大きい例や挿管期間が5日以上の症例では重篤な喉頭損傷が生じることが報告されています。jstage.jst+1
抜管後喉頭浮腫のリスクが高い患者に対しては、抜管前にカフリークテストを実施することが推奨されます。このテストで陽性となった患者には抜管前のステロイド全身投与を検討し、抜管後に喉頭浮腫を認めた場合には速やかに再挿管を行う必要があります。ステロイド投与のタイミングや回数については議論がありますが、早期の判断と対応が重要です。marianna-u+1

気管挿管の嗄声と声帯損傷

嗄声は気管挿管後に高頻度で発生する合併症で、気管チューブの挿入・抜去時の声帯損傷や、チューブによる声帯や反回神経の圧迫が原因となります。反回神経は嚥下機能も司っているため、その麻痺により嗄声だけでなく嚥下障害も引き起こす可能性があります。knowledge.nurse-senka+1
損傷により喉頭浮腫や気道穿孔が起こると、抜管後まで影響が持続します。抜管後に嗄声に加えて呼吸困難感や呼吸状態不良が認められた場合、喉頭の評価が必要となり、場合によっては気管切開などの追加処置が必要になることもあります。小児患者では、声門後部の肉芽、声門下の腫脹、仮声帯の腫脹、声帯の腫脹・発赤、粘膜びらん、一側声帯麻痺など多様な所見が観察されています。kango-roo+1
気管挿管の晩期合併症として声門下狭窄が発生することがあり、これは通常3~4週間後に起こります。声門下の小孔を残すほぼ全閉鎖、後部声門の架橋状癒着、後部声門癒着および瘢痕化などの重篤な変化が報告されており、これらは長期的な気道管理上の大きな問題となります。jstage.jst+1

気管挿管による循環動態への影響

気管挿管は循環動態にも大きな影響を及ぼします。特にICUにおける重症患者への挿管では、ショック、呼吸不全、代謝性アシドーシスなどの病態がベースにあるため、挿管操作自体が循環動態破綻を引き起こすリスクが高くなります。挿管操作中の合併症として高血圧、不整脈、徐脈が知られており、これらは生命に関わる重大な状況を引き起こす可能性があります。jseptic+2
心停止患者に対する気管挿管では、胸骨圧迫の中断というデメリットが存在します。特にAHA(アメリカ心臓協会)では10秒以上の胸骨圧迫中断を避けるように強調しており、挿管のために胸骨圧迫を中断する場合は10秒未満とし、10秒以内に挿管できなければバッグバルブマスク換気に戻ることを推奨しています。このため、最初の10分程度の初動時にはバッグマスク換気が問題なければ挿管を急ぐ必要はないとされています。bls
ER/ICUの緊急挿管では約40%で低酸素血症・低血圧・心停止などの合併症が起こり得るため、適応判断と準備は厳密に行う必要があります。肥満患者では血流障害が起きやすく、このリスクがさらに高まることが知られています。anesth+1
気管挿管の合併症とケアの詳細(看護roo!)
気管挿管の各種合併症について、看護師向けに詳しい解説と対応方法が記載されています。

 

MSDマニュアル プロフェッショナル版:気管挿管
医療従事者向けに気管挿管の合併症と管理方法について包括的な情報を提供しています。

 

抜管後喉頭浮腫の診断と管理(Dr.Gajumaru)
抜管後喉頭浮腫のリスク因子、カフリークテスト、予防的ステロイド投与について詳細な解説があります。

 

 




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