メピバカインとリドカインの違いと使い分け

局所麻酔薬として広く使用されるメピバカインとリドカインには、作用発現時間、持続時間、血管作用、毒性などの面で重要な違いがあります。両者の薬理学的特性と臨床使用における相違点を理解することで、適切な麻酔薬の選択が可能になりますが、どのように使い分けるべきでしょうか?

メピバカインとリドカインの違い

メピバカインとリドカインの主な相違点
作用発現と持続時間

メピバカインは作用発現時間がリドカインとほぼ同等ですが、作用持続時間がより長い特徴を持ちます

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血管作用の違い

メピバカインには血管収縮作用があり、リドカインは血管拡張作用を持つため出血管理に影響します

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安全性プロファイル

メピバカインはリドカインより毒性が低く、中枢神経系への影響も比較的少ない傾向があります

メピバカインの薬理学的特性

 

メピバカインはアミド型局所麻酔薬であり、神経細胞膜のナトリウムチャネルを抑制することで知覚神経の求心性伝導を遮断します。その伝達麻酔作用はプロカイン塩酸塩の2倍、リドカイン塩酸塩と同等の強さを示すことが動物実験で確認されています。作用発現時間は硬膜外麻酔では6.5分程度で、作用持続時間は149分と報告されています。jstage.jst+4
メピバカインの解離定数(pKa)は7.6で、リドカインの7.9よりも低く、これにより細胞膜を通過しやすく作用発現が比較的早い特徴を持ちます。蛋白結合率は77-78%で、分配係数は130とリドカインよりも低い値を示します。jstage.jst+2
メピバカインの重要な特徴として、血管に対する作用があります。リドカインが血管拡張作用を持つのに対し、メピバカインはわずかながら血管収縮作用を有するため、出血を抑える効果が期待できます。このため、血管収縮薬を添加せずに使用できる利点があります。kobe-n-dent+1

リドカインの作用機序と臨床特性

リドカインは神経細胞膜の速い電位依存性ナトリウムチャネルの不活性化を延長することで、ニューロンにおける信号伝導を変化させます。作用発現は速やかで、組織浸透性が非常に高く、持続時間は30分から3時間程度です。wikipedia+2
リドカインの薬理学的特性として、解離定数(pKa)は7.9、蛋白結合率は64%、分配係数は366とメピバカインよりも高い脂溶性を示します。硬膜外麻酔における作用発現時間は5-15分で、単独使用時の効果持続時間は80-120分、エピネフリン添加時は120-180分です。jstage.jst
リドカインには血管拡張作用があり、これにより出血しやすくなる傾向があります。このため、臨床使用では血管収縮薬であるアドレナリン(エピネフリン)を配合することが一般的です。リドカイン単独使用での極量は200mgですが、エピネフリン添加時は500mgまで増量可能です。jstage.jst+3

メピバカインとリドカインの作用持続時間の比較

メピバカインはリドカインと比較して作用持続時間が長いことが複数の研究で示されています。ヒト伝達麻酔において、メピバカインはリドカインと同等の作用発現時間を示しながら、より長い作用持続時間を実現します。jstage.jst+3
硬膜外麻酔におけるメピバカインの作用持続時間は、ブピバカインの1/2から2/3倍程度で、リドカインよりも明確に長い傾向があります。二重盲検法による比較研究では、リドカインとメピバカインの間で麻酔力、効果持続時間、毒性等について同等であるとされながらも、メピバカインの方がやや作用時間が長いことが示唆されています。anesth+2
歯科領域での研究では、3%メピバカインによる下顎孔伝達麻酔は、8万倍希釈エピネフリン含有2%リドカインと比較して、同等以上の麻酔効果と持続時間を示すことが報告されています。この特性により、メピバカインは血管収縮薬を添加しなくても十分な麻酔時間を確保できる利点があります。semanticscholar+1

メピバカインとリドカインの毒性と安全性の違い

メピバカインは極量が500mgで比較的安全と考えられており、リドカイン単独使用時の極量200mgよりも高い投与量が可能です。痙攣発生閾値において、メピバカインはリドカインより多少高いことが動物実験で示されていますが、人での中毒はほぼ同程度の血中濃度で生じると考えられています。anesth+1
中枢神経系への毒性について、リドカインは中枢抑制作用を示すため大量投与で眠気が出現しますが、メピバカインは血管拡張作用を持たないという特徴があります。局所麻酔薬中毒の症状は、両薬剤とも血中濃度の上昇に伴い中枢神経系および心血管系の症状として現れます。kanri.nkdesk+2
代謝については、メピバカインは主に肝臓で速やかに代謝され尿中に排泄されます。代謝時間はリドカインより遅く、ブピバカインよりも早いとされています。消失半減期は成人で2-3時間、新生児で9時間と報告されています。maruishi-pharm+3
メピバカインの毒性はリドカインより低いとされていますが、やや弱い麻酔薬となります。血管収縮薬を含まない製剤では、エピネフリンによる循環器系への影響を避けられるため、心疾患を有する患者にとって安全性が高いとされています。semanticscholar+1

メピバカインとリドカインのエピネフリン配合の違い

リドカインは血管拡張作用を持つため、臨床使用ではエピネフリン(アドレナリン)を配合することが標準的です。歯科用局所麻酔薬には1/8万(12.5μg/mL)の濃度でアドレナリンが添加されており、カートリッジ1.8mLあたり22.5μgのアドレナリンが含まれます。teradacho-otonakodomo+1
エピネフリン配合による効果として、末梢血管を収縮させることで麻酔効果の持続と増強が得られます。これにより局所麻酔薬の吸収が緩徐になり、作用時間が長くなるとともに、局所麻酔薬中毒になりにくくなります。また出血が少なくなることで手術が容易になるという利点もあります。identali+1
一方、メピバカインは自身が血管収縮作用を有するため、エピネフリンを添加せずに使用できる特徴があります。これは心疾患患者、高血圧患者、甲状腺機能亢進症患者など、エピネフリンの使用が制限される症例において重要な利点となります。sports-doctor93+2
硬膜外麻酔において、2%メピバカイン液25mL(500mg)をアドレナリン添加(1:200,000)して投与した場合、単独群と比較して最高血中濃度が36%低下し、最高濃度到達時間の遅延が認められました。この結果は、血管収縮薬の添加が最高血中濃度の低下と最高濃度到達時間の延長をもたらすことを示しています。anesth+1

メピバカインとリドカインの臨床使用における選択基準

メピバカインは術中、術後にリドカインと症例により使い分けて使用されます。作用発現時間、作用持続時間などの性質と手術手技の侵襲度、テストドーズでの使用かどうかを考慮して決定します。硬膜外麻酔においては、リドカイン、メピバカイン、ロピバカインの3つの麻酔薬の特徴を生かして使用する必要があります。jstage.jst+1
歯科領域では、リドカインが最も一般的に使用される局所麻酔薬で、速効性があり麻酔効果も長時間持続します。比較的副作用が少なく、患者に安心して投与できる特徴があります。メピバカインはリドカインに類似し、局所の血管収縮作用があるため、血管収縮薬を含まない製剤として使用されます。yodosha+3
障害者の循環動態における研究では、1:80,000エピネフリン添加2%リドカインと3%メピバカインの比較検討が行われています。この研究は、循環器系への影響を考慮した薬剤選択の重要性を示唆しています。semanticscholar
濃度の選択については、等しい投与量の場合、より高濃度の局所麻酔薬使用でより強力な神経遮断効果を得られることが示されています。全身麻酔併用の場合、高濃度の局所麻酔薬を使用する方が全身麻酔薬の必要量は少なく、安定した麻酔深度が得られます。jstage.jst
日本臨床麻酔学会誌の総説では、硬膜外麻酔における局所麻酔薬の選択と投与方法について詳細に解説されており、リドカイン、メピバカインの使い分けに関する基準が示されています。
日本麻酔科学会の局所麻酔薬ガイドラインでは、メピバカインの薬理作用、薬物動態、臨床使用上の注意点が詳述されており、適正使用のための重要な情報源となっています。