ネリプロクト坐剤(および軟膏)は、製造販売元レオ ファーマ株式会社・販売元LTLファーマ株式会社から「諸般の事情により製造販売中止」と案内されています。公式通知のこの表現は、典型的に「安全性の重大懸念が確定した」などの断定を意味しない一方で、個別の背景(採算、製造、供給体制、契約、設備更新など)を特定できない形での告知になりやすい点が実務上のポイントです。
そのため医療者側は、患者から「何があったのか」を問われても推測で語らず、一次情報としては「企業が製造販売中止を決定した事実」と「いつから入手できないか」を提示し、治療継続の代替策へ会話を移すのが安全です。
通知では、薬価削除・保険請求の扱いにも触れられており、2023年4月1日以降は保険請求の対象外となる旨が明記されています。これは単に「店頭にない」だけでなく、医療保険制度上も継続処方の前提が崩れるため、処方提案や院内採用の棚卸しを早めに進める必要があった、という背景理解につながります。
また同通知では、流通影響を極力出さないよう特約店卸への出荷継続に努力する、といった“経過”の姿勢が示されています。供給停止の告知に比べると、一定期間の移行を織り込んだ終了設計であることが読み取れるため、現場では「突然ゼロ」ではなく、在庫・採用薬・患者数に応じた切替え計画を組む余地がありました。
参考:製造販売中止の一次情報(中止時期・経過措置・代替品)
https://www.ltl-pharma.com/common/pdf/221012_neriproct.pdf
参考:製造販売中止の一次情報(「諸般の事情」の記載、出荷終了予定、薬価削除の経過措置)
https://www.ltl-pharma.com/common/pdf/220523_neriproct.pdf
販売中止の実務でまず重要なのは、「いつまで処方・算定が可能か」と「いつまで物として入手できるか」がズレうる点です。LTLファーマの案内では、販売中止は2023年3月をもって、かつ2023年4月1日以降は保険請求の対象外とされています。さらに別通知では、特約店卸への出荷終了時期を2023年1月末予定、薬価削除の経過措置期間を2023年3月末予定、といった供給・制度のタイムラインが記載されています。
ここで現場が困りやすいのは、「患者はまだ症状がある」「次回受診までに切れる」「同等品が院内にない」という三重苦です。対応としては、次の順で整理すると混乱が減ります。
特に「2023年4月1日以降は保険請求の対象外」という一文は、医師の処方行動に直結します。患者説明では「販売中止=効果が悪いから」などの誤解が生まれやすいため、「制度上も扱いが変わるので、同じ目的の薬に切り替える」へ言い換えるだけでも、不要な不信を減らせます。
公式通知には、代替品として同種同効薬が明示されています。具体的には、ボラザG軟膏・ボラザG坐剤、強力ポステリザン(軟膏)が挙げられています。ここは“患者が自分で調べてたどり着ける情報”ではなく、企業が移行先の候補として提示している一次情報なので、院内の薬事・採用検討でも優先的に参照されやすい部分です。
ただし同種同効薬といっても、成分は同一ではないことが一般的です。したがって、医療従事者としての説明は「同じ症状領域(痔疾に伴う疼痛・炎症など)を狙う薬」という機能面の共通性に寄せ、成分差による禁忌・注意・副作用・妊娠授乳・併用などは添付文書で再確認する運用が安全です。
現場で起きがちな落とし穴は、「坐剤の継続」を優先しすぎて、患者の受容性(坐剤を避けたい、肛門周囲の疼痛で挿入が困難、清潔操作が難しい)を見落とすことです。販売中止は、剤形再設計(坐剤→軟膏、あるいは他成分の坐剤)を提案する好機でもあります。
「同種同効薬」と並ぶもう一つの現実的な移行先が、同一成分配合剤の後発品です。ネリプロクト坐剤の一般名は、ジフルコルトロン吉草酸エステル・リドカイン坐剤として流通情報に整理されており、同成分の製剤が存在します。後発品へ切り替えるメリットは、患者への説明が「成分は同じ(あるいは同等)で、製品名が変わる」という形になりやすい点です。
一方で医療者が注意すべきなのは、同一成分であっても、添加物や基剤、融点・硬さ、溶出の体感差などが患者の主観(使用感・挿入時の違和感・便意誘発など)に影響しうることです。特に痔疾の急性期では、痛みの訴えが強く、わずかな使用感の差が「薬が変わって効かない」と認知されやすいため、初回は“切替え直後の不安”を見越したフォロー(数日後の症状確認、必要時の再診目安)をセットにするとトラブルが減ります。
また、医療者向けには「くすりのしおり」等で主成分(ジフルコルトロン吉草酸エステル、リドカイン)や剤形の基本情報が示され、詳細はPMDA掲載の添付文書情報を参照する導線が用意されています。切替えの場面では、患者向けには“目的と使い方”を簡潔に、医療者側では“禁忌・感染症の除外・長期大量使用の注意”を添付文書で再確認、という二層構造が現場的に噛み合います。
参考:主成分・剤形・PMDA添付文書参照の案内(患者向け資料)
https://www.ltl-pharma.com/common/pdf/product/neriproct/neriproct_sup_siori_ja.pdf
検索上位の多くは「中止理由=諸般の事情」と結論が薄くなりがちで、現場の困りごと(患者の納得、受診中断、自己判断の市販薬切替え)に十分触れないことがあります。そこで医療従事者向けの実務として、“理由を推測しない説明テンプレ”を持っておくと、説明品質が安定します。
使える言い換えの型は次のとおりです(患者の不安を増やさず、かつ嘘を言わない)。
さらに意外と効くのが「薬が変わること」自体を“治療の再設計”として扱う視点です。痔疾は、排便習慣・便性・坐位時間・肛門周囲の清潔管理などで再燃しやすく、外用薬だけで解決しないケースも多いです。販売中止のタイミングを、生活指導(便秘対策、刺激物・飲酒の調整、排便時のいきみ回避、温浴)とセットで再説明すると、患者の納得が上がり、薬剤変更への抵抗も下がります。
最後に、医療従事者側のリスク管理として重要なのは、販売中止を「治療の中断理由」にさせないことです。薬が入手できない期間が生じると、患者は自己判断で市販薬へ移行したり、受診間隔を空けて悪化させたりします。公式通知に代替品が明示されている点を根拠に、施設内の採用薬・処方セット・患者配布資料を早めに更新し、“次に何を使うか”を見える化しておくことが、結局いちばん臨床的に効きます。