2025年大阪・関西万博のオランダパビリオンは、「コモングラウンド:新たな幕開けの共創」をテーマに、水との共生とクリーンエネルギー技術を紹介する施設です。建物中央には直径約11メートルの巨大な白い球体「man made sun-次世代への太陽」が設置され、持続的に利用可能なクリーンエネルギーと日の出を表現しています。この球体は1970年大阪万博の太陽の塔の「黄金の顔」とほぼ同じサイズに設計され、日蘭の変わらぬ友情とパートナーシップを讃えています。
参考)オランダパビリオン 
パビリオンの外壁は波打つスラットによって水を比喩的にデザインし、水面を表現する鏡面のような屋根は、木造リングの上から見下ろすと空が反射して球体が浮いたように見える設計となっています。国土の約4分の1が海抜0メートル以下にあるオランダは、干拓で国土を作ってきた歴史を持ち、水との深い関わりをテーマに掲げています。
参考)2025年大阪・関西万博〈オランダ パビリオン〉デザイン概要…
オランダパビリオンの設計は、建築事務所RAU、体験型デザインスタジオTellart、エンジニアリング・コンサルタント会社DGMR、大阪の総合建設会社淺沼組で構成される日蘭コンソーシアム「A New Dawn」が担当しました。
参考)https://www.netherlandsandyou.nl/web/japan/w/2025-
パビリオンの中心に浮かぶ光輝く球体は、水からクリーンエネルギーを生み出す新技術の象徴として設計されています。訪問者は球体の中に足を踏み入れ、パビリオンの旅のハイライトとなる没入型の体験を味わうことができます。オランダは水の電気分解で水素を作る化学反応を含む、水からクリーンエネルギーを生成する技術を世界に紹介しています。
参考)ART TOURISM 「EXPOで巡るべきパビリオン特集」…
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館内で展示されるH2フューエルは、水素を粉末状で保存し、必要なときに安全に放出できる革新的な技術です。この技術は、水素エネルギーの貯蔵と輸送における課題を解決する可能性を持っており、医療施設における非常用電源システムとしての応用も期待されています。来場者は入館時に「エネルギーオーブ」と呼ばれる光る球体を手渡され、館内の各所でオーブをかざしながら体験型の展示を楽しむことができます。youtube
参考)オランダパビリオンで学んだ、水とパートナーになる未来の技術|…
オーブの光は地球が持つ資源量を表しており、ストーリー仕立ての展示の中で循環型経済を楽しく理解してもらうために重要な役割を果たしています。オーブは壁に近づけると色が変わったり、心臓の鼓動のように他の人のオーブと連動する体験型の仕掛けが用意されています。
参考)【万博を先出し!】オランダパビリオンを特別に体験!ボールの光…
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オランダパビリオンの最大の特徴は、完全循環型の建築設計です。設計を担当したトーマス・ラウ氏は、循環型建築の国際的なリーダーであり、材料と天然資源の再利用を哲学の中心に据えています。パビリオンで使用されるすべての建材には「マテリアル・パスポート」と呼ばれるシステムが導入され、資材や材料の性質や使い道がシステム上で管理されています。
参考)【大阪・関西万博】挑戦の数が未来を創る「チーム淺沼組」の軌跡…
このシステムにより、万博終了後にパビリオンを解体しても、すべての資材が再利用可能となります。ラウ氏は2012年にヨーロッパの建築環境に初めて循環型経済を導入した人物であり、「所有からの解放」という思想を提唱しています。すべての建材にはナンバリングが施され、解体後の追跡と再利用が可能な設計となっています。
参考)大阪万博2025 オランダパビリオン設計者トーマス・ラウ氏イ…
循環型建築の考え方は、医療施設の設計にも応用可能です。病院や診療所の改修・建て替え時に発生する大量の建築廃材を最小限に抑え、建材の再利用を前提とした設計を行うことで、医療施設の環境負荷を大幅に削減できます。オランダでは既に、将来的な解体・再利用を前提に設計された集合住宅やビルが実現しており、理論上の話ではなく実践段階に入っています。
参考)オランダパビリオンから読み解く、循環型建築のあり方。サーキュ…
オランダは海岸沿いに広がる湿地、干潟や泥炭地を埋め立てて土地を広げてきた歴史を持っています。最古の堤防はローマ帝国時代に遡り、初期の干拓は11世紀から13世紀の間に始まりました。近代的な干拓のはじまりは1612年のベームスター干拓地であり、以来オランダでは堤防に囲まれ風車・排水路・水門で雨水や地下水を排水する干拓地が広がりました。1世紀あたり平均350平方キロメートル、計7,000平方キロメートルの国土を広げてきたとされています。
参考)https://www.suiko.jp/rkk/pdf/6_6.pdf
パビリオンの入り口には円形のオブジェがあり、水が張られています。これは音の振動を利用して水に波紋を表現するアート作品であり、音と水の調和の形を示しています。音が聞こえると水面が波立ち、さまざまな波形を創り出す様子を眺めることで、心が落ち着く体験が得られます。
参考)オーブと歩む〝水との共生〟 水の国オランダが伝えるメッセージ…
オランダは治水政策において世界をリードしており、2016年までは流量超過確率1/10,000~1/1,250という日本よりも高い確率規模での整備を行い、量的整備が概ね完了しています。近年では、増水時に堤防で水をせき止めるのではなく、河川周辺に水が流れ込むための空間を確保することで河川の水位上昇を抑える「Room for the River」というアプローチを採用しています。このような水管理技術は、医療施設における浸水対策や雨水管理システムの設計に応用可能です。
参考)https://www.mdpi.com/2073-4441/5/2/593/pdf?version=1433834865
オランダパビリオンで紹介される循環型建築と持続可能なエネルギー技術は、医療施設の設計と運営に重要な示唆を与えます。医療施設は24時間365日の稼働が求められるため、エネルギー消費量が非常に大きく、環境負荷の削減が課題となっています。水素エネルギーシステムは、災害時の非常用電源として活用できるだけでなく、平常時の電力供給源としても機能する可能性を持っています。youtube
循環型建築の概念を医療施設に適用することで、建設時の環境負荷を削減し、将来の改修や建て替え時に建材を再利用することが可能になります。マテリアル・パスポートのような建材管理システムを導入すれば、医療機器や設備の管理にも応用でき、資源の有効活用と廃棄物削減につながります。
参考)海外パビリオンの今 ”循環型”を目指すオランダ...閉幕後に…
オランダの水管理技術も医療施設の防災計画に有用です。病院や診療所は災害時の医療拠点となるため、浸水リスクへの対策が不可欠です。オランダの治水技術や雨水管理システムを参考にすることで、気候変動に伴う豪雨災害に対する医療施設の強靭性を高めることができます。
参考)https://www.mdpi.com/2073-4441/13/8/1099/pdf
オランダパビリオンでは、オランダ出身の絵本作家ディック・ブルーナが描いたミッフィーが子どもたちの案内役として登場します。2025年はミッフィー誕生70周年と日蘭交流425周年を同時に迎える特別な年であり、パビリオン内の各所にミッフィーが配置されています。ミッフィーは正直で純真で勇気があり、いつも新しいことに興味津々な性格で、思いやりを持って友だちと接する姿が「コモングラウンド」のテーマを体現しています。
参考)キッズアンバサダーのミッフィー 
パビリオン内の展示は、気候変動や自然破壊といった世界規模の問題に向き合うオランダの取り組みを紹介する硬派な内容となっています。オーブを持ちながら館内を進むことで、インタラクティブに循環型経済や持続可能な社会について学ぶことができます。ミッフィーやオーブなど一見お子様向けと思える要素も、実は「共に世界規模の問題に対して取り組もう」という意図の表れです。
参考)【大阪万博2025】オランダパビリオン完全ガイド! - Os…
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出口付近のショップでは、ユーロ紙幣と同じ素材を使用して作られた日蘭交流425周年記念紙幣や、ストロープワッフルなどのオランダ伝統菓子、ミッフィーの限定グッズが販売されています。陶器やTシャツなどのミッフィーグッズに加え、オランダの雑貨ブランドによるアイテムも取り揃えられており、お土産としても人気を集めています。
参考)【大阪・関西万博2025】ミッフィーが待つ海外パビリオン《オ…
パビリオンは夜になると球体が淡い紫色に輝き、幻想的な雰囲気を醸し出します。この美しい夜景は、持続可能なクリーンエネルギーによる新しい「幕開け」を象徴しており、多くの来場者がカメラを向ける人気スポットとなっています。
参考)大阪万博のオランダパビリオン、水との共生 「エネルギーオーブ…
大阪・関西万博公式サイト オランダパビリオンページ
オランダパビリオンの基本情報とテーマの詳細が確認できます。
オランダパビリオン公式ホームページ
パビリオンの展示内容、コンセプト、ミッフィーとのコラボレーションについて詳しく解説されています。
淺沼組 大阪・関西万博特設サイト
オランダパビリオン建設プロジェクトの舞台裏と循環型建築の取り組みが紹介されています。