プロテアーゼは、タンパク質やペプチドを形成するペプチド結合を切断する酵素の総称であり、触媒部位を形成するアミノ酸残基の種類によって複数のタイプに分類されます。これらの酵素は細胞内外でさまざまな生理的過程に関与しており、タンパク質の分解・調整を通じて細胞や体内の機能を調節する重要な役割を果たしています。wikipedia+3
プロテアーゼの分類方法は主に3つの観点から行われます。第一に、触媒部位を形成するアミノ酸残基による分類で、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、メタロプロテアーゼの4つの主要なグループに分けられます。第二に、作用最適pHによる実用的な分類があり、酸性プロテアーゼ、中性プロテアーゼ、アルカリ性プロテアーゼに区分されます。chibanian+5
セリンプロテアーゼは、活性部位にセリン残基を含むことからこの名前が付けられており、プロテアーゼの中でも最も広範囲に分布しているファミリーです。セリンプロテアーゼの活性部位は、セリン残基に加えてヒスチジン残基とアスパラギン酸残基を含んでおり、これら3つのアミノ酸がSer-His-Aspの順で水素結合を形成するよう空間的に配置されています。この水素結合ネットワークにより、セリン残基側鎖の酸素原子の求核性が高められ、基質ペプチドの主鎖にあるカルボニル基の炭素原子に求核攻撃を行います。katosei.jsbba+3
消化酵素のトリプシン、キモトリプシン、エラスターゼなどがセリンプロテアーゼに分類され、これらは膵臓で分泌されて小腸で食物のタンパク質を分解する役割を担っています。血液凝固系においてもセリンプロテアーゼは中心的な役割を果たしており、凝固因子の多くがこのファミリーに属します。セリンプロテアーゼの活性は、SERPIN(セリンプロテアーゼインヒビター)と呼ばれる阻害因子ファミリーによって高度に制御されており、これには血液凝固や血栓溶解、補体活性化、免疫応答、プログラム細胞死などの調節が含まれます。yakugakulab+5
システインプロテアーゼは、活性部位にシステイン残基を持つプロテアーゼであり、システインのチオール基が触媒反応において重要な役割を果たします。セリンプロテアーゼと同様に、システイン側鎖スルファニル基が近傍のヒスチジン側鎖イミダゾール基によって活性化され、切断部位アミド結合のカルボニル基を求核攻撃します。この反応により切断反応中間体としていったんプロテアーゼとのチオ酸エステルが形成され、これが加水分解されることでプロテアーゼが再生されます。patents.google+2
代表的なシステインプロテアーゼには、植物由来のパパイン、フィシン、ブロメラインなどがあり、これらは肉の軟化処理などに実用的に利用されています。また、細胞内では細胞死に関わるカスパーゼファミリーがシステインプロテアーゼに分類されます。カスパーゼは細胞死実行因子として有名ですが、近年の研究では細胞死以外の生理機能を制御することも報告されています。ライソゾーム内ではカテプシンL、カテプシンSなどのシステインプロテアーゼが存在し、タンパク質分解に関与しています。hbi-enzymes+6
アスパラギン酸プロテアーゼは、活性部位にアスパラギン酸残基を持つプロテアーゼで、2つのアスパラギン酸残基が協調して触媒反応を行います。このファミリーには、胃で分泌される消化酵素のペプシン、腎臓で分泌される血圧調節酵素のレニンなどが含まれます。また、HIVウイルスの増殖に必要なHIVプロテアーゼもアスパラギン酸プロテアーゼに分類される99残基からなる小型タンパク質で、ホモ二量体を形成することでアミド結合切断に必要な活性部位を形成します。webview.isho+4
メタロプロテアーゼは、活性部位で金属イオン(通常は亜鉛)を利用するプロテアーゼで、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMPs)がこのファミリーの代表例です。MMPsはコラーゲンやエラスチンを分解する酵素のファミリーを形成しており、炎症に伴う組織の再形成や修復に大きな役割を果たしています。MMP1(間質コラーゲナーゼ)、MMP9(ゼラチナーゼB)、MMP12(ヒトマクロファージメタロエラスターゼ)などが知られており、細胞外マトリックスの分解と再構築を通じて血管新生、創傷治癒、腫瘍浸潤などのプロセスに関与しています。bsd.neuroinf+5
プロテアーゼは切断するペプチド結合の位置によっても分類され、この分類は臨床応用において重要な意味を持ちます。エンドペプチダーゼ(内因性プロテアーゼ)は、タンパク質の内部のペプチド結合を切断する酵素で、トリプシン、キモトリプシン、ペプシンなどがこれに該当します。一方、エキソペプチダーゼ(外因性プロテアーゼ)は、タンパク質の末端からアミノ酸を1つずつ切り取る酵素です。jstage.jst+1
エキソペプチダーゼはさらにカルボキシペプチダーゼとアミノペプチダーゼに細分類され、前者はタンパク質のカルボキシル末端のアミノ酸に一次特異性を示し、後者はアミノ末端に特異性を示します。この作用部位の違いは、酵素の基質特異性と直接関連しており、特定のアミノ酸配列を認識して切断するプロテアーゼの選択性を決定します。臨床的には、この基質特異性を利用してプロテアーゼ阻害剤の設計が行われており、特定の疾患に関与するプロテアーゼのみを選択的に阻害する治療戦略が開発されています。pmc.ncbi.nlm.nih+3
プロテアーゼには細胞外作用型と細胞内作用型の2種類があり、作用機序そのものは変わりませんが、シグナル配列を持ち細胞外へ分泌されるかどうかによって機能は大きく異なります。細胞外プロテアーゼは、シグナル配列を持ち細胞外へ分泌されるタンパク質分解酵素で、細胞外マトリックスの再構築、血液凝固、補体活性化、神経可塑性などの重要な生理機能を担っています。e-kanpo+1
細胞外プロテアーゼのほとんどは、活性中心部位の特徴からセリンプロテアーゼかメタロプロテアーゼに分類されます。これらは神経活動、発達、損傷、疾患において様々な役割を果たしており、例えばトロンビンは発達、虚血、損傷、アルツハイマー病に関与し、低濃度では回復を促進しますが高濃度では神経変性や細胞死を引き起こします。ニューロプシンやニューロトリプシンは神経活動依存的に発現し、シナプス形成やメモリー形成に関与することが知られています。一方、細胞内プロテアーゼは主にリソゾーム内やサイトゾルで機能し、タンパク質の品質管理やシグナル伝達の調節を担っています。webview.isho+2
プロテアーゼとその阻害剤は、高血圧、糖尿病、血栓症、白血病、ウイルス感染症など、多様な疾患の治療において重要な役割を果たしています。近年、COVID-19治療薬として開発されたメインプロテアーゼ阻害剤は、その代表例です。ファイザー社のNirmatrelvir(商品名:Paxlovid)は、SARS-CoV-2のメインプロテアーゼを標的とした阻害剤であり、2022年2月に日本で特例承認されました。pmc.ncbi.nlm.nih+6
しかし、既存薬よりも高い抗ウイルス活性を持つ新規阻害剤の開発も進められており、日本の研究グループは既存のNirmatrelvirよりも高活性な化合物TKB272を創製しました。また、パパイン様プロテアーゼを標的とする新規阻害剤も開発されており、既存薬耐性株にも有効となる可能性があります。がん治療においては、プロテアソーム阻害剤(ベルケイド、カイプロリス、ニンラーロなど)が多発性骨髄腫やリンパ腫の治療に使用されていますが、耐性症例の出現が課題となっています。このため、プロテアソーム機能代償機構を標的とした新規治療戦略の開発も進められています。isct+3
HIVプロテアーゼ阻害剤は、抗HIV療法において中心的な役割を果たしており、リトナビル(ノービア)などが他のプロテアーゼ阻害剤と組み合わせて使用されています。高血圧治療においては、レニン阻害剤やACE阻害剤などのアスパラギン酸プロテアーゼ阻害剤が広く用いられています。さらに、プロテアーゼ阻害剤の新技術として、ビオチンとストレプトアビジンを利用した酵素活性の「オン・オフ」制御システムが開発されており、これにより酵素活性を自由に調節できる可能性が示されています。kobegakuin+3
東京医科歯科大学のSARS-CoV-2メインプロテアーゼ阻害剤に関する研究成果
COVID-19治療薬開発における高活性プロテアーゼ阻害剤の設計と体内動態評価について詳細な情報が記載されています。
ペプチド化学を基盤とするプロテアーゼ阻害剤の設計
セリンプロテアーゼとシステインプロテアーゼの触媒機構、およびHIVプロテアーゼやSARS-CoVプロテアーゼに対する阻害剤設計の詳細が解説されています。
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