卵巣癌の標準的な初回治療として、TC療法(パクリタキセル+カルボプラチン)が確立されており、全体の約7割の患者において効果を示します。この治療法は3週間ごとに3~6サイクルの点滴注射で実施され、手術後の補助療法として非常に重要な役割を担っています。
TC療法の具体的な実施方法として以下の点が特徴的です。
さらに近年注目されているdose-denseTC療法では、パクリタキセルを毎週投与することで、全体の投与量を増加させ、従来のTC療法と比較してより良好な治療成績が報告されています。この治療法では6~9サイクルの治療が必要となりますが、再発率の低下と生存期間の延長が確認されています。
分子標的薬の導入により、卵巣癌治療は大きく変化しています。特にベバシズマブ(アバスチン)は血管新生阻害薬として、がん細胞への栄養供給を断つことでがんの増殖を抑制します。
ベバシズマブ併用療法の特徴。
📊 治療効果の向上
⚠️ 注意すべき副作用
PARP阻害薬による治療革新も注目すべき分野です。オラパリブ(リムパーザ)は、DNA修復機構の欠損を持つがん細胞を選択的に攻撃する薬剤として、2018年4月から保険適用となりました。BRCA遺伝子変異を持つ患者では特に高い効果が期待できますが、幅広い卵巣癌患者に対しても治療効果が認められています。
維持療法は卵巣癌治療において、再発予防の観点から極めて重要な位置を占めています。従来の抗がん剤による維持療法とは異なり、分子標的薬を用いた維持療法が中心となっています。
ベバシズマブ維持療法
III期・IV期の患者で初回治療に効果があった場合、ベバシズマブを12~16サイクル単剤で継続投与します。この治療により、再発までの期間延長と生存率改善が期待できます。
PARP阻害薬維持療法
維持療法の効果は非常に顕著で、海外の臨床試験では病状悪化までの期間が8.4か月(中央値)に延長され、従来治療の約2倍の効果が確認されています。また、1年以上継続できた患者が40%、5年以上継続できた患者も13%存在することが報告されています。
最新の治療薬開発により、従来の治療選択肢に加えて革新的な治療法が導入されています。特にプラチナ抵抗性・難治性卵巣癌に対する治療選択肢の拡大が注目されます。
免疫チェックポイント阻害薬
抗腫瘍免疫を改善することで、進行性または転移性卵巣癌に対して臨床効果を示しています。これらの薬剤は従来の化学療法とは全く異なる作用機序により、免疫系を活性化してがん細胞を攻撃します。
抗体薬物複合体(ADC)
強力な細胞毒性剤を高度に特異的なモノクローナル抗体に結合させた薬剤で、がん特異的な標的療法を実現しています。進行性または再発性卵巣癌において有効性が証明されており、次世代の標準治療として期待されています。
新たな分子標的薬
これらの新規薬剤は、従来の治療に抵抗性を示す患者や、標準治療が適用できない患者に対して新たな治療選択肢を提供しています。
現代の卵巣癌治療において、患者個々の遺伝子背景や腫瘍特性に基づいた個別化医療が重要性を増しています。これは従来の一律な治療アプローチから、患者固有の治療戦略への転換を意味します。
遺伝子検査に基づく治療選択
🧬 BRCA1/2遺伝子検査により、PARP阻害薬の適応を決定
🧬 HRD(相同組み換え修復欠損)検査によるオラパリブの使用判断
🧬 腫瘍の分子サブタイプ分類による最適な治療法選択
高悪性度漿液性卵巣癌の細分化
最新の研究により、高悪性度漿液性卵巣癌が3つのサブタイプに分類されることが明らかになりました。この分類により、各サブタイプに最適化された治療戦略の構築が可能となっています。
ライフスタイルと治療選択の調和
患者の年齢、生活環境、価値観を考慮した治療選択が重要です。例えば:
このような個別化アプローチにより、患者一人ひとりに最適化された治療が提供され、治療効果の向上と生活の質の維持が同時に実現されています。医療従事者としては、これらの多様な治療選択肢を理解し、患者との十分な相談のもとで最適な治療戦略を構築することが求められます。