医療現場では、同じ成分・同じ規格に見えるのに、外箱の記載が「製造元」「販売元」「製造販売元」など商品ごとに揺れていて混乱しがちです。結論から言うと、これらの表記は“どの会社が何をしたか”だけでなく、“誰が市場に出し、責任の中心になるか”を示す手がかりになります。特に医薬品・医療機器・体外診断用医薬品など薬機法領域では、一般消費財の感覚で「作った会社=責任者」と短絡すると、問い合わせ先の判断を誤ります。
まず「製造元」は文字通り、製品を製造した会社(あるいは製造工程の主体)を指す文脈で使われます。一方「販売元」は、流通に乗せて販売チャネルへ供給する会社として使われることが多く、製造と販売が分離されているケース(OEM、委託製造、共同販売など)で登場しやすい概念です。一般向け解説でも、販売元は“製造元から仕入れて販売する側”と整理されています。
ただし医療従事者が押さえるべきは、表示の「○○元」だけで機械的に判断しないことです。なぜなら薬機法領域では「製造」「販売」より上位に、“市場に流通させる主体=製造販売”という概念があり、ここが責任の核になり得るからです。外箱に「製造販売元」と書かれている場合、その会社は“自社で製造したかどうか”とは独立に、当該製品を日本市場に流通させる立場として読めます。
現場で役に立つ読み方としては、次の順で見ます。
この読み方は、単に“用語の意味”を理解するだけでなく、医療安全上の初動(リコール、トレーサビリティ、情報提供)を速くする実務テクニックです。
参考:薬機法の用語としての「製造販売」の定義と、製造販売業が製造業・販売業と別の許可であること(全体像の根拠)
宮城県「医薬品の製造販売業・製造業について」(製造販売の定義、製造販売業者の責任、許可の整理)
薬機法領域で一段深い理解に進むなら、「製造販売=製造+販売」ではなく、薬機法上の独立概念として捉えるのが重要です。行政資料では「製造販売」とは、製造(他に委託して製造をする場合を含む)または輸入した医薬品等を販売・授与等すること、と定義されています。つまり“製造工程を自社で持つか”とは切り離されており、委託製造や輸入でも「製造販売」に含まれます。
ここで医療従事者の実務に直結するのが、「最終的な責任」の所在です。行政の説明では、製造販売業者は市場にある製品に対して最終的な責任を負い、副作用情報・クレーム・事故情報等を収集し、市販後安全管理を行い、必要に応じて回収も行う、とされています。さらに、製造所で適正な品質管理の下で製品が製造されているかを管理監督する義務もある、とされています。
つまり、製造販売元が別に存在する場合、現場から見て重要なのは次の整理です。
ここで、意外に見落とされやすいポイントがあります。それは「製造販売業許可だけでは製造できない」という点です。行政資料では、製造販売業許可のみでは医薬品を製造できず、製造するには製造業許可が必要だと明示されています。現場からすると「製造販売元=工場を持っている会社」と思い込みがちですが、必ずしもそうではありません。製造販売元が委託先(製造業者)を管理監督しつつ、市場責任を負う構造が成り立ちます。
この理解は、病院・薬局での問い合わせ設計にも効きます。たとえば、異物混入の疑いが出たとき、工程の話は製造元に近い領域ですが、回収・ロット範囲・代替供給・当局報告などの判断は製造販売元が握っていることが多い、という現実があります。問い合わせをたらい回しにしないために、「まず製造販売元にロットと症状(事象)を伝える」運用を院内手順に落とすと、対応が安定します。
参考:薬機法上「製造販売」が市場流通に乗せる行為であり、最終責任を負うという整理(定義と責任の根拠)
GVA法律事務所「薬機法とは~薬機法の基本~ 第5回 医薬品の製造販売①」(製造販売の定義、製造と製造販売の切り分け、責任者の整理)
「違いは分かった。でも現場でいつ使うのか?」という点を、医療従事者の業務フローに沿って具体化します。ポイントは、問い合わせ内容によって“正しい相手”が変わることです。
まず、よくあるのが「ロット照会」「納入履歴」「欠品・代替品」「返品条件」です。これらは物流・契約に近いので、販売元(または卸)と話した方が早いことが多いです。一方で「副作用疑い」「不具合(作動不良)」「異物」「表示ミス」「添付文書の記載疑義」など、品質・安全性に直結する内容は、製造販売元(製造販売業者)が最終責任を負う主体として設計されているため、最初の窓口に置くのが合理的です(内部で製造元へエスカレーションされることはあります)。
回収(リコール)局面では、さらにこの違いが効きます。製造販売業者は、市場にある製品について問題があると判断された場合に必要に応じて回収などを行う、と行政資料で説明されています。つまり、回収判断・回収範囲・対外通知・再発防止の枠組みは、製造販売元が中心になりやすい、ということです。医療機関側は、院内の在庫・使用履歴・患者への影響評価に集中するためにも、窓口の一本化が重要になります。
実務で使えるチェックリスト(院内手順に転記しやすい形)を置きます。
ここで“意外な落とし穴”として、電話口で「それは製造元の管轄です」「それは販売元の管轄です」と言われたときに、情報が散逸してしまう点があります。院内では「最初に伝える情報セット(製品名、規格、ロット/製造番号、発生日、事象、保管状態)」を固定化しておくと、相手がどこであっても次の部署へ回しやすくなり、現場の再説明コストが減ります。
根拠としてのポイントは、「製造販売業者が市場にある製品に対して最終責任を負い、市販後の安全管理や回収を行う」という行政の整理です(用語の“きれいな定義”より、現場行動を支える事実関係として重要)。
混同が起きやすいのは、次のような“構造が複雑な商品”です。医薬品・医療機器の世界ではむしろこちらが普通で、単純な「作って売る」モデルばかりではありません。薬機法上、「製造販売」には委託製造や輸入が含まれるため、表示上も責任分担が複層化しやすいからです。
代表例を整理します。
ここで押さえるべきは、「製造販売業は平成17年度から新たに設置された許可で、製造業や販売業とは別のもの」という行政の説明です。これが意味するのは、“販売が上手い会社”と“品質と安全を管理できる会社”を制度上は分けて考えている、ということです。医療従事者が表示を見るときも、この思想を頭に置くと理解が速くなります。
あまり知られていない(しかし現場で効く)視点として、「保管だけでも“製造”に含まれ得る」点があります。行政資料では、製造には包装・表示・保管行為も含まれ、保管のみ行う場合でも製造業許可(包装・表示・保管区分)が必要になるケースがある、と説明されています。つまり、外箱のどこかに“保管拠点”が関与していても不思議ではなく、品質問題のときに「温度逸脱はどこで起きたか?」が争点になりやすい背景があります。院内でも、保管温度・搬送条件・開封後管理のログを残す意義がここにつながります。
この章の要点は、表示の会社名が増えれば増えるほど、責任が薄まるのではなく、むしろ「最終責任を負う主体(製造販売業者)」を見つける重要性が上がる、ということです。
検索上位の解説は、用語の意味(製造元=作る、販売元=売る)で終わりがちです。しかし医療機関にとって本当に効くのは、「違いを知った後に、院内の連絡ルートをどう設計するか」です。ここを整えると、インシデント対応の初動、医薬品安全管理、監査・立入時の説明力が上がります。
提案はシンプルで、院内で“問い合わせ種別→窓口”を固定し、記録の粒度を決めることです。たとえば次のように、部署横断で運用を揃えます。
さらに監査対応の観点では、「当院は、製造販売業者が最終責任主体であることを前提に、品質・安全に関わる事象は製造販売元へ一次連絡し、ロット情報を固定様式で提供する」という説明ができると、属人的対応から脱却できます。行政資料にも、製造販売業者が市場にある製品に対して最終責任を負うこと、品質管理と市販後安全管理を行う能力が求められることが示されており、この設計は制度趣旨とも整合します。
最後に、現場でありがちな“あるある”を一つ。販売担当者(販売元側)が親切で、つい何でもそこに連絡してしまうケースです。関係性としては合理的ですが、回収や副作用疑いのように「記録と責任の線」が重要な局面では、最終責任主体(製造販売元)に情報が正式に集約されるようルートを作っておくと、後からの説明が格段に楽になります。
この独自視点の狙いは、用語解説を“覚える知識”で終わらせず、“院内の仕組み”に変換して事故を減らすことです。