セレギリン(デプレニル)は、「N・α-ジメチル-N-2-プロピニルフェネチルアミン、その塩類及びこれらのいずれかを含有する物」として、覚醒剤原料を指定する政令(指定政令第1号)の対象に入ります。
ここで重要なのは、エフェドリンやメチルエフェドリンのように「含有量○%以下なら覚醒剤原料から除外」といった“濃度規制による除外”が、セレギリンには設定されていない点です。
同じ資料の表でも、セレギリンの欄は濃度規制が「なし」と明記されており、医薬品(例:エフピーOD錠2.5、セレギリン塩酸塩錠2.5mg)であっても“覚醒剤原料である医薬品(医薬品覚醒剤原料)”として扱う前提になります。
現場で起きがちな混乱は、「2.5mg錠=低用量だから濃度規制の除外のように扱えるのでは?」という誤解です。
参考)ARKAT USA, Inc. - Publisher of…
しかし、濃度規制の考え方は“物質ごとに法令・政令で設定される”もので、セレギリンは除外ラインが無い=低用量でも除外されない、と理解する方が安全です。
この点を押さえると、在庫管理・廃棄・返却の運用設計が一段クリアになります。
参考リンク:医薬品覚醒剤原料(セレギリン等)の「濃度規制:なし」や、麻薬との取扱い差分が表で整理されています。
https://www.ajha.or.jp/topics/admininfo/pdf/2020/200313_4.pdf
厚生労働省の通知では、病院・薬局等における医薬品覚醒剤原料の取扱手順の多くが「麻薬の取扱いと同様になった」と整理されています。
具体的には、返却(患者・相続人等→病院・薬局等)、廃棄(交付・調剤済みに限り立会なし廃棄が可能、ただし届出が必要)、記録(帳簿の備付)などが“同様となった点”として挙げられています。
一方で、麻薬と異なる点として、医師等が施用や施用のための交付を行う際に「覚醒剤原料取扱者等の指定不要」、薬局が調剤して交付する際にも「指定不要」だと明記されています。
この「麻薬に近いが、麻薬そのものではない」という中間的な位置づけが、運用の抜け漏れを生みやすい背景です。
たとえば、“指定が不要だから管理も軽い”と誤認すると、鍵付き保管や帳簿・届出の要件を落とすリスクが出ます。
逆に、“麻薬と同じ”と誤認すると、返却可能な相手や届出様式の扱いを混同し、監査対応で苦しくなるケースがあります。
医療従事者向けに実務へ落とし込むなら、まず「指定の要否」と「管理義務の有無」を切り分け、後者(保管・記録・廃棄・事故対応)を院内ルールとして固定化するのがポイントです。
同通知の別紙には、“同様になった点/異なる点”が並列表で載っているため、教育資料としてそのまま使える完成度があります。
セレギリン塩酸塩錠2.5mg製剤は「1錠中:セレギリン塩酸塩 2.5mg」と明記されています。
また添付文書には、用法用量として漸増しつつ「1日10mgを超えないこと」とされ、用量増加に伴いMAO-B選択性が低下し得ること、非選択的MAO阻害による危険性があることが警告されています。
ここでの“濃度”は法令上の濃度規制(除外の閾値)の話と、臨床上の曝露(用量・血中濃度)や薬理選択性の話が混線しやすいので、教育時に用語を分けるのが有効です。
実務的には、次のように切り分けると説明が短くなります。
さらに意外と見落とされるのが、相互作用欄の注記です。CYP2D6/CYP3A4阻害薬で血中濃度が上昇し、MAO-B選択性が消失する可能性がある、と添付文書内で言及されています。
これは“薬理学的に実質的な非選択的MAOIに寄るリスクが上がる”ことを示唆しており、食事(チーズ等)や交感神経興奮薬との併用注意へ波及する説明として使えます。
「覚醒剤原料」というラベルが先に立ちがちですが、臨床現場では“相互作用と過量の事故防止”が患者安全の主要テーマになるため、院内勉強会の構成もここに厚みを持たせると実用的です。
参考リンク:セレギリンの警告(10mg/日超の回避)、相互作用、成分量(2.5mg/錠)など臨床・運用に直結する情報がまとまっています。
https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00053159.pdf
通知の手引きでは、医薬品覚醒剤原料の保管は「鍵をかけた場所において行う」と整理され、麻薬のように“麻薬以外の医薬品と区別し堅固な設備内”とまでは書き分けられています。
この差は小さく見えますが、監査・立入検査の場面では「鍵管理の実態(鍵の所在、持出記録、夜間体制)」が問われやすく、実務の詰め所になります。
病棟運用でありがちな事故は、①一時保管のつもりで施錠が曖昧、②担当交代で鍵の所在が不明、③返却薬の一時置き場が共有棚、の3パターンです。
記録(帳簿)についても、病院・薬局等の開設者や往診医師が帳簿を備え必要事項を記録する義務があると示されています。
このとき“帳簿=薬剤部だけの仕事”にすると、夜間・休日に病棟で動いた分が後追いになり、数量差異(所在不明)の温床になります。
運用設計のコツは、帳簿の最小単位を「PTPシート」「箱」「錠」など現場で実際に動く単位に合わせ、照合頻度を高めることです。
廃棄は、交付又は調剤済みの医薬品覚醒剤原料に限り、都道府県職員の立会いなしに廃棄できる(ただし廃棄後に届出が必要)という整理になっています。
ここは“立会いが不要”という部分だけが独り歩きしやすいので、廃棄後の届出、廃棄方法(復元不能性)、廃棄責任者、廃棄ログ(いつ・誰が・何を・なぜ)を院内規程に落とすのが実務上の要点です。
また、盗難・所在不明等の事故が起きた場合は速やかな届出が必要で、盗難なら警察への届出も必要とされています。
表(運用の抜け漏れチェック)
| 場面 | やること | ミス例 |
|---|---|---|
| 保管 | 鍵をかけた場所で保管し、鍵管理を固定化する | “短時間だから”で未施錠 |
| 記録 | 帳簿を備え、受払・廃棄等を追える形にする | 病棟移動分が後追いで欠落 |
| 廃棄 | 交付・調剤済みに限り立会いなし可だが、廃棄後の届出が必要 | 届出漏れ、廃棄証跡が残らない |
| 事故 | 喪失・盗難・所在不明は速やかに届出(盗難は警察にも) | “翌日探す”で初動が遅い |
検索上位の解説は「セレギリンは覚醒剤原料」「取扱い手引き」「保管・帳簿」といった制度説明が中心になりがちですが、現場の監査で刺さるのは“濃度という言葉の誤解”をどう潰しているかです。
特に新人教育では、「濃度規制がある物質(例:エフェドリン10%以下で除外)と、濃度規制がない物質(セレギリン)」を同じ枠で覚えてしまい、判断を誤るルートが定番です。
したがって教育資料では、“濃度規制あり/なし”を物質ごとに表で固定し、セレギリンは「なし」を赤字で強調するだけで事故確率が下がります。
もう一つの独自ポイントは、臨床側の「濃度=血中濃度」の連想です。
セレギリンは用量増加でMAO-B選択性が低下し得るという警告があるため、薬理学的な意味での“濃度上昇(曝露増加)”がリスクになること自体は事実です。
ただし、それは“覚醒剤原料としての濃度規制(法令の除外ライン)”とは別概念なので、院内では用語を分けて話す(例:「法令上の濃度規制」「臨床上の曝露」)と、教育が崩れません。
最後に、患者対応での盲点として「不要薬の返却・死亡時の取扱い」があります。通知では、患者・相続人等から病院・薬局等への返却が可能である点が明記されています。
この運用が整っていないと、在宅・施設から“家庭内保管のまま残る”状況が生じ、紛失・転用リスクを院外に押し出してしまいます。
薬剤部・地域連携・訪問看護と共有し、「返却先(交付を受けた病院等/薬局)」「返却時の受領フロー」「受領後の届出・廃棄」までを一本化すると、制度遵守とリスク低減を同時に達成できます。