空打ち(エアショット)は、注射針内やカートリッジ側の微小な空気を排出し、薬液が針先から確実に出る状態を作るための操作です。
「患者に投与する前に、薬液がきちんと流路を通っているか」を目で確認できる点も重要で、単なる儀式ではありません。
現場で起きやすいのは、「針交換直後」や「保管温度の変化が大きい場面」で気泡が増え、初回の押し出しで“空振り”が起きるケースです。
空振りのまま本投与に進むと、設定した単位を押しても実際は空気が押し出されてしまい、投与不足(=高血糖や症状悪化のリスク)につながります。
特に「空打ち3単位」が話題になるのは、“いつもの2単位では不十分になりうる製剤・デバイス条件”があるからです。
実際、院内向けの解説でも「ほとんどは空打ち2単位だが、ランタスXRのみ空打ち3単位なので注意」と明記されています。
(参考:空打ち2単位が基本で、ランタスXRは3単位とする注意点)
「2単位が一般的」という前提があるため、3単位の指示は患者だけでなくスタッフ側でも“例外扱い”され、伝達漏れが起きやすいのが落とし穴です。
実際に、医療者向け資料・院内掲示の説明では「ほとんどの製剤は空打ち2単位だが、ランタスXRのみ空打ち3単位」とされています。
(参考:製剤ごとの空打ち単位の違いと注意点)
なぜ「2→3」に増えると困るのかというと、単純にインスリン消費が増えるだけではありません。
例えば、1日1回投与でも、1か月で空打ち分だけで約90単位(3単位×30回)消費します。1日2回なら約180単位です。
この差が「月末に1本足りない」「旅行前に残量が不安」「予備を持たずに外出して切れた」といった実害につながります。
また、患者の理解が浅いと「3単位もったいないから1単位でいい」「出てる気がするから空打ちしない」と自己流の省略が起きます。
この“節約行動”は、投与量の不確実性を増やすだけでなく、後述するトラブルシューティングも難しくします(高血糖の原因が手技なのか、食事・感染・薬効なのかが混ざるため)。
空打ちの実務はシンプルですが、失敗パターンが決まっているため、医療従事者は「患者が何を間違えがちか」を先回りして確認するのが効果的です。
よくある失敗は次の通りです(新人指導・患者指導で頻出)。
加えて、患者の生活状況によっては「夏の車内放置」「冷え込みの強い部屋での保管」など温度変化が大きく、気泡や粘度変化が出やすいことがあります。
この場合、空打ちが“たまたま成功する日”と“失敗する日”が混在し、患者が再現性を学びにくいのが厄介です。
指導のコツは、患者の言葉を行動に変換して確認することです。
「いつも空打ちしてます」ではなく、「針先を上に向けた?」「押し切った?」「何単位に合わせた?」を具体で聞き、可能ならその場でデモを見ます。
在宅自己注では、空打ちの単位数は“正確な投与”だけでなく、“消耗品と廃棄”の設計にも影響します。
特に針は原則として毎回交換が推奨され、使用済み針は家庭ごみではなく、ペットボトル等の耐穿刺性容器に入れて次回来院時に回収、という運用を案内する施設もあります。
(参考:針交換・廃棄物の持参方法など在宅自己注の注意点)
空打ち3単位が絡むと、患者が「針もったいない」「薬もったいない」の二重の心理になりやすく、自己流が加速します。
そこで、医療従事者は“安全の優先順位”を明確に言語化する必要があります。
例:患者説明で使いやすい整理(言い換え可能)
また、患者が“空打ち分を含めた必要量”を理解していないと、処方日数の見積りや残量管理が破綻します。
現場では、初回導入時に「1回の投与で、実投与に加えて空打ち分が必ず減る」ことを、数式の形で見せると納得されやすいです。
例:1回あたりの消費=(指示単位)+(空打ち単位)→ これが毎回必ず差し引かれる。
検索上位の記事は「やり方」「何単位か」「ランタスXRは3単位」までは触れますが、医療現場で本当に効くのは“教育設計”です。
つまり、「正しい手技」を教えるだけでなく、「誤った手技の兆候をどう検出するか」「現場の連携でどう潰すか」まで作り込むと、事故が減り、問い合わせ対応も軽くなります。
意外に見落とされやすいのは、空打ちを“患者の技術問題”に閉じないことです。
例えば、薬剤部が渡す指導資材(手技シート)に「ほとんど2単位、ただし例外で3単位」を明記し、看護側の指導と同一文言に寄せるだけで、患者は混乱しにくくなります。
この「同一情報の反復」が、AI時代の情報過多の中ではむしろ効きます(患者はネットで1単位説・2単位説も見てくるため)。
また、現場でのチェック項目を“トラブル起点”で作ると強いです。
最後に、スタッフ教育の小技として、製剤別の“例外カード”を作る方法があります。
外来・病棟・薬局のどこでも同じ表現で共有できるよう、「空打ち:基本2、例外3(該当製剤)」の1行だけを、ポケットに入るサイズで統一します。
この手の運用改善は、ガイドラインを丸暗記するよりも、実際のインシデント(投与不足・残量トラブル・患者混乱)を確実に減らす方向に働きます。

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