インスリンの「空打ち(試し打ち)」は、ペン型注入器で注射を行う前に、少量の薬液を噴出させて内部の空気を追い出し、薬液の流れ(流路)が確保されていることを確認する操作です。日本薬剤師会の解説でも、カートリッジ内に大きな気泡が混入すると正確な注入ができなくなり、必要に応じて空打ちで抜くこと、さらに空打ちは空気の排出だけでなく「注入器の故障や針の装着ミスを発見するために必要」と明確に記載されています。
実務上ここが重要で、空打ちは「患者が安心する儀式」ではなく、投与精度と医療安全を担保する工程です。特に、自己注射患者では「今日は出が悪い気がする」「たぶん大丈夫」で進んでしまうことがあるため、医療者側が“なぜ必要か”を言語化して教える価値が高いポイントになります。
📌空打ちの目的(医療者が説明する言葉の型)
患者教育では、「空気が入ると効かないことがある」よりも、「空打ちを省くと、予定した単位が体に入らない可能性がある」という“結果”を伝える方が行動変容につながりやすい印象があります。日本薬剤師会資料の「正確なインスリン液の注入が出来なくなる」という表現は、そのまま説明に転用しやすいです。
空打ちの前提として、「観察」があります。日本薬剤師会の資料では、新しいインスリン製剤を使用する際に、使用前にカートリッジをよく観察し、ひび・割れの有無、大きな気泡が入っていないかを確認することが推奨されています。これを行う理由は単純で、構造的な破損や大きな気泡は、空打ちだけでは解決しない(あるいは気づけない)リスクになるからです。
👀観察で見るポイント(短時間で回せる)
意外に見落とされがちなのが、「小さな気泡」と「大きな気泡」の扱いです。日本薬剤師会の記載では、空打ちで小さな気泡は取り除けないが、取り除けない程度の小さな気泡は注入量精度に影響しない、とされています。さらに、小豆大(直径5mm程度)の気泡は製造段階で入る可能性がある点も明記されています。
つまり、すべての気泡を“ゼロ”にする方向で患者を追い込むと、空打ちを過剰に繰り返して無用な廃棄を増やしたり、焦り・手技崩れを招いたりします。医療者としては「どの気泡が危ないか」を線引きして伝えるのが現場的です。
🧠指導で使える言い換え例
空打ちの“単位数”は患者が最も気にする論点ですが、医療者向けには「標準」と「例外時の考え方」をセットで持っておくと説明がブレません。日本薬剤師会資料では、カートリッジを交換した場合は必ず空打ちを行い、「通常2単位ずつ」実施し、薬液が出るまで繰り返すとされています。
また、空打ちを繰り返すうちに「インスリンが出ず、注入ボタンが重くなる」場合は、直ちに空打ちを中止して針を交換するよう記載されており、ここは医療安全のコアです。現場では「力で押し切る」「何度も連打する」などが事故・針折れ・漏れ・誤作動につながるため、言い切りで止めるのがポイントになります。
✅実施手順(ペン型の基本フロー:短く、再現しやすく)
📍「針交換を最優先する」判断基準
日本薬剤師会資料にある通り、原因として針の詰まり、針が正しく装着されていないことが考えられます。
参考:空打ち(試し打ち)の目的、2単位ずつの実施、薬液が出ない/ボタンが重い場合の針交換などの具体的記載
https://www.nichiyaku.or.jp/files/co/pharmacy-info/insulin_h23.pdf
空打ちの話題は「注射前」だけで完結しがちですが、投与精度の観点では“注入後の保持”までセットで指導した方が、結果として「空打ちの価値」が伝わります。日本薬剤師会資料では、注入後は確実に注入するために、5~10秒以上注入ボタンを押したまま保持し、そのまま針を抜くこと、途中で指を離すと血液がカートリッジ内に逆流する恐れがあることが示されています。
ここは、空打ちの目的(正確な注入)と同じ方向を向いたポイントです。「空打ちを頑張るのに、注入後すぐ抜いて漏れていた」だと意味が薄れます。
🧩空打ちと注入後保持を“1つの物語”で説明するコツ
この2つは別工程ですが、患者には一連の“精度管理”として伝えた方が納得感が出ます。
✅注入後の確認ポイント(患者の自己評価を支援)
日本薬剤師会資料でも、注射後に針を外さないとカートリッジ内に空気が入る、針先から漏れ出す恐れがあるため、注射後は針を外すよう指導する、とされています。
検索上位は「空打ち手順」「何単位?」に寄りがちですが、医療従事者向け記事として価値が出るのは、空打ちを“医療安全の文脈”に接続する視点です。日本薬剤師会資料は、インスリン製剤でインシデントが増えつつあること、取り間違いが重大事故につながり得ること、さらに単位(UNITS)とmLの誤認が事故要因になり得ることを具体例付きで示しています。
空打ちの話をするときに、単位の話は避けて通れません。なぜなら、患者が「2単位」を“量が少ないから適当でよい”と捉えると、空打ちの省略や手技の省略につながるからです。一方で医療者側も「単位=mLではない」という基本を新人教育で徹底しないと、現場の口頭指示や記録の曖昧さが事故の温床になります。
⚠️意外と効く「空打ち×インシデント」の結び方
📌新人スタッフ教育に向くチェックテスト(例)
この視点を入れると、単なる“やり方”記事から、現場の質改善につながる“指導の根拠”記事になります。特に、チーム医療で患者指導が分業される施設ほど、「なぜその手順か」を共通言語にしておくことが、指導のばらつき(=患者の手技のばらつき)を減らします。
参考:空打ちの必要性(空気排出・故障や装着ミスの発見)、通常2単位ずつ、出ない/ボタンが重い場合の針交換、注入後5~10秒保持、単位とmL誤認のインシデント例
https://www.nichiyaku.or.jp/files/co/pharmacy-info/insulin_h23.pdf