トラムセット配合錠の副作用発現率は非常に高く、添付文書によると消化器系副作用が最も頻繁に見られる。最も多い副作用は悪心で41.4%、嘔吐が26.2%、便秘が21.2%と報告されている。これらの副作用は、トラマドール塩酸塩がμ-オピオイド受容体に作用することに加え、ノルアドレナリンとセロトニンの再取り込みを阻害することで生じる。
副作用モニター調査では、1年間で7症例10件の副作用報告が寄せられ、消化器系の副作用が4件と最多を占めた。特に注目すべき点は、1日2錠という少量投与でも副作用が発現する症例があることで、投与量に関わらず注意深い観察が必要である。
投与初期の副作用は特に頻度が高く、「悪心、嘔吐」については服用1日目で発現する症例が2例報告されている一方、12日後に発現した症例も存在し、発現時期には個人差があることが明らかとなっている。
神経系副作用としては、めまい、傾眠、倦怠感が代表的で、これらは投与初期に高い頻度で発現する。特に90歳代の高齢者だけでなく、50歳代の患者でも「全身のふるえ、ふらつき、めまい、眠気」が報告されており、年齢に関わらず注意が必要である。
トラマドールによる稀な副作用として、けいれん発作がある。この副作用は低用量から高用量まで幅広い投与量で発現する可能性があり、トニック・クロニック型の短時間の発作として現れることが多い。19歳男性でオピオイド依存症患者において、用量増加に伴って複数回のけいれん発作が発現し、てんかんと診断されバルプロ酸ナトリウムの投与が開始された症例も報告されている。
自動車運転や危険を伴う機械操作については、傾眠やめまいなどの副作用により判断能力や運動能力が低下する可能性があるため、患者への適切な指導が不可欠である。
副作用対策として最も重要なのは、患者への適切な説明である。愛媛大学整形外科では「この薬を飲むと、半分ぐらいの人に吐き気が起こります。しかし3日間、吐き気止めを飲むと10人に1人だけになります」という具体的な説明を行い、患者の不安軽減に努めている。
予防的な薬物療法では、悪心・嘔吐に対してメトクロプラミド(プリンペラン)5mg を3-4錠、3日間処方することが推奨されている。便秘に対してはプルゼニド1錠を併用し、それぞれ「胃炎」「便秘症」の病名を付与することが実臨床では行われている。
投与開始方法については、1日2錠から開始することで副作用の頻度を大幅に減少させることができ、この場合は特別な説明を行わずに処方可能とする施設もある。これは投与初期の副作用発現率が32%であることを考慮した実践的な対応策である。
長期投与に関する研究では、投与開始後3ヶ月までの副作用発現率が最も高く、その後は徐々に減少することが確認されている。3年間の長期投与試験では、めまい・傾眠・倦怠感、悪心・嘔吐、便秘が主要な副作用として継続して観察されたが、投与初期と比較して発現頻度は低下した。
興味深い知見として、1年を過ぎても悪心・嘔吐の副作用が継続してみられる症例があるが、これは同一症例における軽度な悪心の持続であり、多くの患者では時間経過とともに耐性が形成されることが示されている。
依存性については、トラマドール塩酸塩はモルヒネなどと異なり依存性が少ないため医療用麻薬には該当しないが、長期使用により依存性が生じる可能性がある。依存性が生じると「薬が効きにくくなる」「薬の使用を求めるようになる」「薬が切れるとからだがつらくなる」といった症状が現れる。
アレルギー反応として、1錠服用後すぐに全身蕁麻疹が発現した症例が報告されており、即時型アレルギー反応に対する注意が必要である。また、約6ヶ月間の投与後にヘモグロビンが減少した症例も存在し、長期投与時には血液学的検査の定期的な実施が推奨される。
肝機能への影響については、アセトアミノフェン成分による重篤な肝障害に注意が必要で、特に1日総量が1500mgを超える高用量投与や長期投与の場合は、定期的な肝機能チェックが必須である。トラムセット配合錠は1錠にアセトアミノフェン325mgを含有するため、1日4錠(推奨最大用量)でも1300mgとなり、他のアセトアミノフェン含有製剤との併用時には特に注意が必要となる。
高齢者における副作用発現については、65歳以上の患者で比較的顕著なVASスコアの低下傾向がみられた一方で、副作用も発現しやすい傾向があるため、より慎重な投与開始と経過観察が求められる。
急激な中止による離脱症状として、精神的不安定、落ち着きのなさ、ふるえ、不眠などが生じることがあるため、減量は段階的に行う必要がある。
呼吸抑制や昏睡、心停止といった重篤な副作用は過量投与時に発現する可能性があり、これらの症状に対する十分な理解と救急対応の準備が医療従事者には求められる。
民医連による副作用モニター情報では、トラムセット配合錠の実臨床における副作用の詳細な分析データ
日本緩和医療学会誌での非がん性慢性疼痛に対するトラマドール長期投与の安全性評価
PubMed Central掲載のトラマドール中毒とその管理・合併症に関する包括的レビュー