予後不良とは、治療後の経過や見通しが良くないことを意味する医療用語で、主に後遺症の残存、治癒が望めない、進行が抑えられない、再発、重篤な副作用、延命困難、死亡という7つのカテゴリーに分類されます。予後は生命予後と機能予後に大別され、疾患によっては生命予後は良好でも機能予後が不良というケースも多く存在します。予後を判断する際には、診断名、症状、病期、病理像、病変部位、進行速度、遺伝子情報、血液検査、尿検査、合併疾患、年齢などを総合的に考慮する必要があります。wikipedia
医療現場において予後不良疾患を体系的に理解することは、治療方針の決定、患者・家族への説明、緩和ケアの導入タイミングの判断など、適切な医療提供に不可欠です。予後良好と予後不良の境界は明確ではなく、同じ疾患でも病期や予後不良因子の有無によって大きく異なることを認識しておく必要があります。yukawa-clinic+2
悪性腫瘍の中で特に予後不良とされる代表的疾患として、膵臓がん、肝臓がん、原発不明がん、小細胞肺がんが挙げられます。膵臓がんは「すべてのがんの中で最も予後が悪い」と言われており、5年生存率は極めて低く、早期発見が困難で診断時にすでに進行しているケースが多いことが特徴です。肝臓がんの5年生存率は40.4%と他の消化器がんと比較して著しく低く、肝硬変などの基礎疾患を有することが多いため全身状態の管理が困難です。gemmed.ghc-j+2
原発不明がんは全体の80%以上が予後不良群に分類され、平均生存期間は約7ヶ月と報告されています。原発不明がん1,000例の予後解析では、生存期間中央値は11ヶ月で、予後良好群(特定臓器からの転移が病理学的に強く疑われる場合)では長期予後が期待できますが、原発巣が推定できない場合の予後は極めて不良です。小細胞肺がんは進行が非常に早く、発見時にすでに進行・転移しているケースが多く、予後も悪いがんの一つとされています。chuoclinic+2
転移がんの予後と治療可能性に関する詳細情報(癌サポートネット)
がんの予後不良因子としては、高齢、全身状態不良(Performance Status 3以上)、合併症の存在(感染症など)、年齢60歳以上、リンパ節転移、遠隔転移、血清LDH高値、ヘモグロビン値低下などが重要な指標とされています。晩期非小細胞肺がん患者の予後解析では、臨床分期、ECOG評価スコア、体重減少、臨床症状、血行転移、一線治療後の化学療法方案数が予後に影響する因子として報告されています。takeda+2
神経変性疾患の中で最も予後不良とされるのが筋萎縮性側索硬化症(ALS)です。ALSは運動ニューロンが選択的に障害される進行性の神経変性疾患で、人工呼吸器を使用しない場合、通常2~5年で死亡することが多く、平均生存期間は約40ヶ月、中央値は31ヶ月と報告されています。発症時は一側上肢の筋力低下や筋萎縮から始まることが多く、進行すると四肢、顔面、舌などの筋肉の萎縮と筋力低下、嚥下障害が進行します。nanbyou+4
ALSの予後不良因子として確立しているのは、高齢発症、発症部位(呼吸障害、球麻痺での発症)、低栄養状態です。嚥下困難がある患者の予後は極めて不良で、誤嚥による呼吸器系合併症により1~3年以内に死亡につながることが多いとされています。重症度評価には改訂ALS機能評価スケール(ALSFRS-R)が用いられ、言語、歩行、食事動作、嚥下、呼吸などの12項目を48点満点で評価します。bsd.neuroinf+2
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の詳細情報(難病情報センター)
その他の神経変性疾患では、脊髄小脳変性症の多系統萎縮症型が予後不良とされ、パーキンソン症状や自律神経障害を伴う場合、進行が早く5~7年で寝たきりになることがあります。統合失調症の破瓜型は3病型の中で最も予後不良とされ、若年発症で症状が重篤です。統合失調症の予後不良因子には、発症年齢が低いこと、病前機能が不良であること、統合失調症の家族歴、陰性症状が多い、精神症の無治療期間が長いことなどが含まれます。osakamental+2
心血管・脳血管疾患領域では、心原性脳塞栓症が特に予後不良な疾患として知られています。久山町研究によると、1年生存率がラクナ梗塞で90%以上、アテローム血栓性脳梗塞で約80%であるのに対し、心原性脳塞栓症は約50%と著しく低く、死に至らない場合でも重度の機能障害が残ることが多いとされています。心原性脳塞栓症の最大の要因は心房細動で、心原性脳塞栓症患者の75%が心房細動を有していたと報告されています。j-circ+1
感染性心内膜炎も予後不良な疾患で、院内死亡率は15~20%、1年死亡率は40%近くに達します。予後不良因子として、耐性菌感染、基礎疾患の存在、治療の大幅な遅れ、大動脈弁または複数弁の病変、大きな疣贅、複数微生物による菌血症、人工弁感染、感染性動脈瘤、弁輪膿瘍、大きな塞栓イベントなどが挙げられます。糖尿病、急性腎障害、黄色ブドウ球菌感染症、15mmを超える疣贅、持続感染の徴候がある患者では敗血症性ショックの可能性が高くなります。msdmanuals
心原性脳塞栓症の予後と心房細動の関連(日本循環器学会)
重症外傷における致死的3徴(deadly triad)は、低体温(深部体温34℃以下)、アシドーシス(pH < 7.2)、凝固異常(non-mechanical bleedingの出現)で構成され、これらが揃うと予後を著しく不良にする重要因子となります。脳血管障害全般においては、基礎疾患である生活習慣病のコントロール不良が予後を悪化させ、発症時の血圧管理や禁煙の有無が予後に大きく影響することが知られています。jaam+2
関節リウマチにおける予後不良因子として、リウマチ因子(RF)陽性と抗CCP抗体(ACPA)陽性が最も重要とされています。これらが陽性のリウマチは、陰性の場合と比較して関節破壊が進行しやすく、予後不良因子の数が多いほど関節破壊の進行度が増すことが明らかになっています。その他の予後不良因子として、骨びらん、高疾患活動性、ESR(赤沈)>25mm/h、心筋症、冠動脈疾患、甲状腺中毒などが挙げられます。yukawa-clinic
好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)では、Five Factor Score(FFS)により予後評価が行われ、予後不良因子として①年齢65歳以上、②心病変、③消化器病変、④腎不全(クレアチニン≧150μmol/L)、⑤耳鼻科症状なし、の5つが抽出されています。EGPAにおいては特に心不全が5年死亡率と最も関連することが示されており(ハザード比2.8)、心病変の有無が予後を大きく左右します。gskpro
脾辺縁区淋巴腫(SMZL)では、確診後24か月以内の疾病進展(POD24)が予後不良因子として重要で、POD24群の総生存期間と無進展生存期間は非POD24群より著しく短いことが報告されています。多変量解析では、初期治療後疾病未緩解が影響POD24の独立危険因子であることが示されました。リンパ腫全般の予後因子としては、年齢、血清LDH、ヘモグロビン値、PS(パフォーマンスステータス)、病期、節外病変数などがあり、予後不良因子が少ないほど治療効果や予後が良いとされています。pmc.ncbi.nlm.nih+1
感染症領域では、壊死性筋膜炎が予後不良な疾患として知られています。初期症状は蜂窩織炎と同様に皮膚の発赤、熱感、浮腫ですが、皮下から筋膜での感染が進行すると予後は不良で、救命のために切断となることが多いとされています。また、Staphylococcus aureus菌血症においては、感染制御の観点から適切な治療が行われない場合、予後不良のリスクが高まります。semanticscholar+1
難病領域では、アレキサンダー病の大脳優位型が予後不良で、主に乳幼児期に発症し、けいれん、頭囲拡大、精神運動発達の遅れの3つの症状を特徴とし、けいれんのコントロールが機能予後・生命予後に関係します。自己貪食空胞性ミオパチーのダノン病は、重症の心筋症と進行性の四肢筋力低下・筋萎縮を来す予後不良な病気です。nanbyou+1
多脾症候群では生命予後は合併心奇形による影響が大きく、重症感染症も大きな予後規定因子となります。エプスタイン病では胎児期や新生児早期に発症した場合の生命予後は不良で、抜歯や細菌感染時の抗生物質投与が感染性心内膜炎予防のために重要です。進行性筋ジストロフィーは別組織で研究が行われている難治性疾患の一つとして位置づけられており、予後不良な神経筋疾患として認識されています。mhlw+2
予後不良疾患における患者管理では、疾患特異的な予後因子を把握し、早期から多職種連携による包括的なケアを提供することが重要です。生命予後の予測は患者の意向を反映した治療選択において重要ですが、医師は患者の生命予後を実際より長く予測する傾向があることが知られており、客観的な予後評価ツールの活用が求められます。seirei+1
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