MRIの検査原理と診断への活用法

MRIは磁場と電波を使い体内の水素原子核から信号を得て画像化する検査方法で、X線被ばくなしに脳や内臓の詳細な断層像を撮影できる。CTとの違いや安全性、最新技術まで幅広く解説します。なぜMRIは病気の早期発見に重要なのでしょうか?

MRIの基本原理と検査方法

MRI検査のメカニズム
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強力な磁場の発生

装置内で10000ガウス(1テスラ)の静磁場が水素原子を整列させる

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電波による刺激

RFパルスが水素原子核を励起し共鳴現象を引き起こす

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信号の画像化

戻ってくる微弱な電波をコンピュータで処理し断層像を作成

MRIの磁気共鳴原理

MRI(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像法)は、強力な磁場と電波を使用して体内の水素原子核から発生する微弱な電波信号を受信し、画像化する検査方法です。人体の約70%を占める水分に含まれる水素原子核(プロトン)が、この検査の主役となります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1121941/

 

通常、人体内のプロトンはランダムな方向を向いていますが、MRI装置の強力な静磁場(約1テスラ=10000ガウス)の中に入ると、磁場の方向に沿って整列します。この状態でFMラジオと同じ周波数帯の電波(RFパルス)を照射すると、プロトンが共鳴現象を起こして別の方向を向きます。
参考)https://jp.medical.canon/general/general_mri

 

電波の照射を停止すると、励起されたプロトンは元の状態に戻ろうとして微弱な電波信号を放出します。この戻る速度(緩和時間)は組織の種類によって異なるため、受信コイルが捉えた信号をコンピュータで解析することで、各組織の違いを画像のコントラストとして表現できます。
参考)https://nerima-neuro.com/mri%E3%81%AE%E5%8E%9F%E7%90%86%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%E3%82%8F%E3%81%8B

 

MRI検査の実際の流れ

MRI検査は、まず検査前に金属類の除去から始まります。時計、眼鏡、アクセサリーなどの磁性体は画像に影響を与えるだけでなく、強い磁場によって発熱し火傷の原因となる可能性があります。ペースメーカーや人工内耳などの体内植込み型医療機器を使用している患者は、磁場の影響で正常動作しなくなる恐れがあるため検査を受けることができません。
参考)https://ganjoho.jp/public/dia_tre/inspection/mri.html

 

検査時は検査部位に応じた受信コイル(RFコイル)を装着し、検査台に仰向けに寝た状態でトンネル状の装置内に入ります。撮像中は装置から「コンコン」という特徴的な機械音が鳴り続けますが、これは必要な断層像を得るための傾斜磁場によるものです。
参考)http://www.ichikawahigashi.com/mri/

 

検査時間は撮影部位や目的によって異なりますが、通常15分から45分程度かかります。CT検査と比較して時間が長いため、体を動かすと画像が劣化してしまうので、同じ姿勢を保つことが重要です。撮影部位によっては息止めが必要な場合もあります。
参考)https://smartdock.jp/contents/inspection/is056/

 

MRIで使用される受信コイルの役割

受信コイルは、プロトンから発せられる微弱な電波信号を効率的に捉えるアンテナの役割を果たします。ラジオが空中の電波を受信して音声に変換するように、受信コイルは人体から放出された信号を受け取り、画像データとして処理するための重要な装置です。
検査部位ごとに最適化された専用の受信コイルが用意されており、頭部用、腹部用、脊椎用、乳房用など様々な形状があります。これらのコイルは検査部位に密着させることで、より高感度で鮮明な画像を得ることができます。
造影検査が必要な場合は、ガドリニウム系造影剤を静脈内に注射して行います。造影剤は病変部と正常組織のコントラストを向上させ、より詳細な診断情報を提供します。ただし、造影剤アレルギーの既往や腎機能障害がある場合は事前に医師への報告が必要です。

MRIの傾斜磁場システム

MRI装置には静磁場の他に、画像の位置情報を特定するための傾斜磁場システムが組み込まれています。傾斜磁場は、静磁場に重ね合わせることで体内の各位置で微妙に異なる磁場強度を作り出し、信号の発生源を特定できるようにします。
参考)https://www.physicsresjournal.com/articles/ijpra-aid1062.pdf

 

この傾斜磁場は、X軸、Y軸、Z軸の3方向に独立して制御可能で、任意の断面や三次元的な画像再構成を可能にします。検査中に聞こえる機械音は、この傾斜磁場コイルに高速で電流を流すことによって発生する振動音です。
最新のMRI装置では、傾斜磁場の切り替え速度を向上させることで、より高速な撮像や動態画像の取得が可能になっています。これにより心臓の拍動や血流の動きをリアルタイムで観察できる機能的MRI(fMRI)などの高度な検査も実現しています。

 

MRIによる独自の画像コントラスト

MRI検査の最大の特徴は、同一組織でも撮影条件(シーケンス)を変更することで異なるコントラストの画像を得られることです。T1強調画像では脂肪組織が明るく、水分の多い組織が暗く描出されます。一方、T2強調画像では水分を多く含む組織や病変部が明るく表示されるため、炎症や腫瘍の検出に適しています。
さらに、脂肪抑制画像では脂肪組織からの信号を消去することで、その中に存在する病変をより明確に描出できます。拡散強調画像(DWI)では、水分子の動きを画像化することで、急性期の脳梗塞や悪性腫瘍の早期発見が可能です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8155849/

 

これらの多様な撮影シーケンスを組み合わせることで、CTでは判別困難な軟部組織の微細な変化や、血管構造、機能的変化まで包括的に評価できるのがMRIの大きな利点です。
参考)https://smartdock.jp/contents/inspection/is010/