免疫抑制患者では、T-SPOT陽性でも活動性結核でないケースが約40%に上ります。
T-SPOT.TB(以下T-SPOT)は、結核菌特異抗原であるESAT-6およびCFP-10に反応するエフェクターTリンパ球をELISPOT法で検出する検査です。ツベルクリン反応とは根本的に異なり、BCGワクチン接種歴の影響を受けないという点が最大の特徴といえます。
採血に使用する専用チューブは、オックスフォード・イムノテック社が提供する「T-SPOT専用採血チューブ」またはリチウムヘパリン管を使用します。EDTA管は不可です。
採血量は成人で8mL、小児では年齢・体重に応じて調整が必要です。採血後は静かに5〜10回転倒混和し、強い振とうは厳禁です。リンパ球が破損し、スポット数が低下して偽陰性を招く可能性があるためです。
採血後の検体は室温(18〜25℃)での保管が原則です。冷蔵(4℃以下)も高温(37℃以上)も細胞活性を損なうため、検体の温度管理は採血から処理完了まで一貫して守らなければなりません。採血室から検査室への搬送経路・時間を事前に確認しておくと安心です。
採血時に患者さんへの説明として注意したいのは、採血前の絶食を必須としない点です。食事の影響は基本的に受けませんが、採血前の激しい運動は白血球数の一時的な変動をもたらす可能性があるため、当日の激しい運動は控えるよう伝えるのが望ましいとされています。
検体処理は採血後8時間以内が絶対条件です。これを超えると、リンパ球の生存率が著しく低下し、偽陰性リスクが急上昇します。
実際の現場では「採血後に外来が立て込んでいた」「送検が翌日になってしまった」というケースが発生しがちです。こうした事態を防ぐためには、受付時に採血時刻を検体ラベルに明記し、検査担当者が受け取り時刻を記録するフローを徹底することが重要です。
検体受け取り後は、まず密度勾配遠心法(フィコール法)によって末梢血単核球(PBMC)を分離します。遠心条件は通常400×g、20分間、室温です。遠心速度が低すぎると分離が不完全になり、速すぎると細胞を傷つけます。条件の厳守が基本です。
PBMCを洗浄後、細胞数を調整してウェルに播種します。推奨細胞数は2.5×10⁵個/ウェルです。この数値から大きくずれると、陽性対照のスポット数にも影響が出るため、血球計算板またはセルカウンターでの確認は省略できません。
各ウェルには以下の4種類を添加します。
37℃・5% CO₂インキュベーター内で16〜20時間培養します。培養時間が16時間未満だとスポットが発現不足になり、20時間を超えるとスポットの輪郭が不明瞭になることがあります。時間管理が条件です。
参考リンク(検体処理と品質管理の詳細)。
医薬品医療機器総合機構(PMDA):T-SPOT.TB 添付文書(処理手順・判定基準記載)
培養終了後、プレートを洗浄し、酵素標識抗IFN-γ抗体による染色を行います。最終的に形成されたスポット(IFN-γ産生T細胞1個に相当)を目視またはスポットカウンターで計測します。
判定基準は以下の通りです。
| 判定 | 条件 |
|---|---|
| 陽性 | パネルAまたはパネルBのスポット数≧6、かつ陰性対照の2倍超 |
| 陰性 | パネルA・B共にスポット数≦4、または陰性対照との差が条件未満 |
| 判定保留(Borderline) | スポット数が5(または4〜5の境界値) |
| 判定不能 | 陽性対照のスポット数<20、または陰性対照のスポット数≧10 |
「判定保留」は単純に「グレーゾーン」として扱われがちですが、臨床的には非常に重要です。この場合は2〜4週後の再検査が推奨されており、患者の免疫状態・臨床症状・画像所見と総合的に判断する必要があります。再検査が条件です。
「判定不能」の原因で最も多いのは、陽性対照のスポット数が20未満になるケースです。これはリンパ球の細胞活性が低下していることを意味し、免疫抑制剤使用患者や高齢者で特に発生しやすいとされています。こうした背景を持つ患者では、検体採取のタイミングや検体品質に一層の注意が求められます。
判定不能が繰り返される場合は、インターフェロン-γ遊離試験(IGRA)の別法であるQFT(クォンティフェロン)との使い分けも選択肢に入ります。施設ごとのプロトコルを確認しておくと現場での判断がスムーズです。
参考リンク(T-SPOT判定基準の公式情報)。
日本結核病学会誌:IGRAの判定基準と臨床的解釈(T-SPOT・QFTの比較含む)
T-SPOTは感度・特異度ともに高い検査ですが、偽陽性・偽陰性が生じることは現場で決して稀ではありません。原因を知っておくことが、判定ミスの回避につながります。
偽陰性が起きやすい状況:
偽陽性が起きやすい状況:
特に抗TNF-α製剤(インフリキシマブ、アダリムマブなど)の投与前スクリーニングとしてT-SPOTを実施する際は、偽陰性リスクを念頭に置いた上で結果を解釈することが国際的なガイドラインでも強調されています。免疫状態の把握が原則です。
NTM感染との鑑別については、胸部CT所見や喀痰培養の結果と合わせて総合判断することが不可欠です。T-SPOT単独での判断は禁物といえます。陽性・陰性どちらの結果も、他の臨床情報なしに単独で診断根拠にすることは避けるべきです。
参考リンク(免疫抑制患者へのIGRA適用と偽陰性リスク)。
T-SPOTとQFT(クォンティフェロン-TB Gold Plus)はどちらもIGRA(インターフェロン-γ遊離試験)に分類されますが、実際の使い分けについては医療現場でもあいまいなままになりがちです。これは意外ですね。
最も重要な違いは検体処理の方式です。QFTは採血後すぐに専用チューブ内で抗原刺激を行う「全血法」であるのに対し、T-SPOTはPBMCを分離してから培養する「細胞分離法」です。そのためT-SPOTのほうが処理工程が多い反面、白血球数の影響を受けにくいという強みがあります。
具体的には、リンパ球減少症や白血球数が極端に少ない患者(化学療法中の患者など)では、T-SPOTのほうが判定不能率が低いとする報告があります。一方、QFTは採血後すぐに処理できるため、検体搬送距離が長い施設や外来中心の施設では運用しやすいという利点があります。
胸部X線との役割分担についても整理しておきましょう。胸部X線は活動性結核の形態的変化を捉えるものであり、T-SPOTは感染(潜在性結核感染:LTBI)の免疫学的証拠を得るものです。この2つは代替関係ではなく、補完関係にあります。
日本結核病学会の「潜在性結核感染症治療指針(2022年改訂版)」では、LTBIの診断にIGRA(T-SPOTまたはQFT)と胸部X線の両者を組み合わせることが推奨されています。画像と血液検査の組み合わせが基本です。
現場での運用上、「T-SPOTで陽性が出たが胸部X線が正常」というケースは珍しくありません。この場合はLTBIとして抗結核薬(イソニアジド6ヶ月投与など)による予防治療の適応を検討します。投与前には必ず肝機能検査と薬剤アレルギー歴の確認が必要です。処方前の確認が条件です。
参考リンク(潜在性結核感染症治療の公式ガイドライン)。
日本結核病学会:潜在性結核感染症治療指針(2022年改訂)─ IGRA・胸部X線の使い分け詳細記載