結核病の初期症状は風邪と酷似しているため、医療従事者にとって見逃しやすい疾患の一つです。最も特徴的なのは、咳、痰、微熱といった症状が2週間以上持続することです。
具体的な症状として以下が挙げられます。
診断において重要なのは、これらの症状が良くなったり悪くなったりを繰り返すという特徴です。風邪の場合は通常1週間程度で改善しますが、結核では症状の遷延が見られます。
画像診断では胸部X線やCT検査で空洞陰影や小結節陰影を確認しますが、肺炎様の画像を呈することもあり、画像のみでの診断は困難です。確定診断には喀痰検査による結核菌の検出が必要となります。
患者の10%程度が感染から1年以内に発症し、残り80-90%は生涯発症しないか、免疫力低下時に発症するという特徴も理解しておく必要があります。
結核治療に使用される薬剤は第1選択薬と第2選択薬に分類されます。
第1選択薬(必須薬剤)
第2選択薬
耐性菌や第1選択薬に耐えられない場合に使用されます。
近年、モキシフロキサシン、ベダキリン、プレトマニド、リネゾリドを含む新規レジメンも開発されており、薬剤耐性結核に対する治療選択肢が拡大しています。
現在の標準治療は1996年以来確立されており、INH、RFP、EB(またはSM)、PZAの4剤2ヶ月投与後、INH+RFPの2剤6ヶ月治療が基本です。
A法(標準的治療法)
B法(代替治療法)
最新のガイドラインでは、適切な患者において4ヶ月間の短期治療レジメンも推奨されるようになっています。これにより、従来の6ヶ月治療と同等の効果を保ちながら、治療期間の短縮が可能となりました。
治療中は直接服薬確認治療(DOTS)を実施し、服薬コンプライアンスを確保することが重要です。治療の中断は薬剤耐性菌の発生リスクを高めるため、患者教育と支援体制の構築が不可欠です。
潜在性結核感染症(LTBI)の治療では、INH単剤6-9ヶ月またはINH+RFP 3-4ヶ月の治療が推奨されています。
抗結核薬の副作用は治療継続に大きく影響するため、早期発見と適切な対処が重要です。
肝障害
最も頻度が高く重篤な副作用で、INH、RFP、PZAすべてで発生します。症状として食思不振、倦怠感、微熱、嘔気が現れますが、無症状の場合もあります。定期的な肝機能検査による監視が必要です。
末梢神経障害
INHによる副作用で、手足のしびれや感覚障害として現れます。ビタミンB6(ピリドキシン)の併用により予防可能です。
視神経障害
エタンブトールの特徴的な副作用で、かすみ目や色覚異常として現れます。定期的な視力検査と患者への症状確認が重要です。
その他の重要な副作用
副作用発生時の対処法として、薬剤の中止または減量、代替薬への変更を検討します。重篤な肝障害の場合は直ちに全薬剤を中止し、肝機能正常化後に慎重に再開する必要があります。
結核は空気感染する2類感染症であり、医療機関における感染対策は極めて重要です。
院内感染対策
患者が感染性を失うまでの期間は、有効な薬物療法開始後2-3ヶ月とされています。この間は厳格な隔離が必要ですが、菌の活動停止後は外来治療への移行が可能です。
多剤耐性結核への対応
従来の第1選択薬に耐性を示す多剤耐性結核(MDR-TB)に対しては、新規治療薬の導入が進んでいます。ベダキリン、プレトマニド、リネゾリドを含むレジメンにより、治療成績の向上が期待されています。
接触者健診の実施
感染者が確認された場合、保健所による接触者健診が実施されます。医療従事者も曝露リスクが高いため、定期的な健康診断とインターフェロンγ遊離試験(IGRA)による感染チェックが重要です。
予防的治療の適応
潜在性結核感染症と診断された場合、発病予防のためINH単剤またはINH+RFP併用による治療を検討します。特に免疫抑制状態の患者では積極的な予防的治療が推奨されます。
結核は現在でも年間約1万人の新規患者が報告される重要な感染症です。早期診断、適切な治療、確実な感染対策により、良好な治療成績と感染拡大防止を図ることができます。医療従事者として最新の知識を習得し、日常診療に活かすことが求められています。
参考:結核の診断と治療に関する詳細情報
厚生労働省による潜在性結核感染症治療レジメンの見直し
参考:最新の結核治療ガイドライン
国立感染症研究所による結核治療の現状