抗結核薬の種類と一覧|分類・効果・副作用

結核治療に使用される抗結核薬を第一選択薬から多剤耐性結核専用薬まで分類別に解説。作用機序、標準治療法、副作用、薬価まで詳細にまとめた医療従事者必見の内容とは?

抗結核薬の種類と一覧

抗結核薬の分類と特徴
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第一選択薬(First-line drugs)

最も強力な抗菌作用を持つRFP、INH、PZA、EB、SMの5剤

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第二選択薬(Second-line drugs)

第一選択薬より抗菌力は劣るが多剤併用で効果を発揮

多剤耐性結核専用薬

MDR-TBのみに使用するデラマニドとベダキリン

抗結核薬の第一選択薬と作用機序

第一選択薬は結核治療の中核となる最も重要な薬剤群です。これらは強力な殺菌効果を持ち、標準治療の基盤となっています。

 

リファンピシン(RFP)
商品名リファジンとして知られるリファンピシンは、RNAポリメラーゼを阻害することで殺菌効果を示します。肺、喀痰、炎症のある髄膜などへの組織移行性が良好で、結核化学療法の中核薬剤です。薬価は先発品リファジンカプセル150mgが13.1円/カプセルと比較的安価です。

 

イソニアジド(INH)
商品名イスコチンで知られるイソニアジドは、結核菌の細胞壁成分であるミコール酸の合成を阻害します。主に活発に分裂している結核菌に対して作用し、胸水、腹水、血液脳関門を通過する優れた組織移行性を持ちます。経口摂取後1-2時間で最高血中濃度に達し、イスコチン錠100mgの薬価は10.1円/錠です。

 

ピラジナミド(PZA)
ピラマイドとして知られるピラジナミドは、体内でピラジン酸に変換され、結核菌の細胞内pHを低下させることで抗菌作用を発揮します。治療初期に有効で、リファンピシン、イソニアジドとの併用により再発率が低下します。日本では散剤のピラマイド原末のみが販売されており、薬価は23円/gです。

 

エタンブトール(EB)
エサンブトールやエブトールとして販売されるエタンブトール塩酸塩は、結核菌の細胞壁合成を阻害することで菌の成長と分裂を妨げます。主に他の抗結核薬との併用で使用され、エサンブトール錠125mgは6.1円/錠、250mgは20円/錠の薬価です。

 

ストレプトマイシン(SM)
ストレプトマイシン硫酸塩は、放線菌から抽出されるアミノグリコシド系抗生物質で、結核菌に対して強力な殺菌作用を持ちます。注射剤として使用され、ストレプトマイシン硫酸塩注射用1g「明治」の薬価は792円/瓶です。

 

抗結核薬の第二選択薬と適応

第二選択薬は第一選択薬に比べて抗菌力は劣りますが、多剤併用により効果が期待される薬剤群です。主に薬剤耐性菌感染例や副作用により第一選択薬が使用できない場合に使用されます。

 

レボフロキサシン(LVFX)
フルオロキノロン系抗菌薬であるレボフロキサシンは、結核治療においても重要な役割を果たします。日本結核病学会の調査では、1,290例中64例(5.0%)で副作用が報告され、関節痛腎機能障害、発疹、発熱、肝機能異常が主な副作用でした。クラビット点眼液の薬価は0.5%が59.2円/mL、1.5%が53.2円/mLです。

 

カナマイシン(KM)
アミノグリコシド系抗生物質のカナマイシンは、注射薬として使用されます。カナマイシンカプセル250mg「明治」は40円/カプセル、注射液1g「明治」は320円/管の薬価です。ストレプトマイシン、エンビオマイシン、カプレオマイシンとの併用は禁忌とされています。

 

その他の第二選択薬

  • エチオナミド(TH):結核菌の脂質合成を阻害
  • エンビオマイシン(EVM):アミノグリコシド系で注射薬として使用
  • パラアミノサリチル酸(PAS):葉酸合成阻害により静菌的に作用
  • サイクロセリン(CS):細胞壁合成阻害、サイクロセリンカプセル250mg「明治」は340.1円/カプセル

抗結核薬の多剤耐性結核専用薬

多剤耐性結核(MDR-TB)は、イソニアジドとリファンピシンの両方に耐性を示す結核菌による感染症です。2022年の世界結核レポートによれば、多剤耐性患者数は約41万人と推定されています。日本では2022年の新規登録肺結核患者4,086人のうち、多剤耐性は26人(0.6%)でした。

 

デラマニド(DLM)
商品名デルティバで知られるデラマニドは、多剤耐性結核のみに使用される新しい抗結核薬です。デルティバ錠50mgの薬価は5,999.2円/錠と高額ですが、従来の治療に抵抗性を示す症例に対して重要な選択肢となります。

 

ベダキリン(BDQ)
商品名サチュロのベダキリンも多剤耐性結核専用薬で、サチュロ錠100mgの薬価は22,277.5円/錠と極めて高額です。これらの薬剤は、多剤耐性結核の治療成功率向上に寄与する画期的な薬剤として期待されています。

 

抗結核薬の標準治療法と併用療法

結核の標準治療は多剤併用療法が基本となります。現在広く使用されている標準治療法には2つの方法があります。

 

IREP法(短期強化療法)
RFP+INH+PZAにEBまたはSMの4剤併用で2ヶ月間治療した後、RFP+INH(+EB)で4ヶ月間治療する方法です。原則としてこの方法を選択し、標準的治療期間は6ヶ月間です。

 

IRE法
PZAが使用不可の場合に選択される方法で、RFP+INH+EBまたはSMで6ヶ月間治療後、RFP+INH(+EB)で3ヶ月間治療します。重篤な肝障害患者や80歳以上の高齢者などの場合に用いられ、標準的治療期間は9ヶ月間です。

 

治療期間の延長が必要な症例
以下の場合は3ヶ月間延長し、IREP法は9ヶ月、IRE法は12ヶ月まで行うことができます。

肺外結核(髄膜炎・骨関節結核など)では、9-12ヶ月の治療期間が基本とされています。

 

抗結核薬の副作用と薬価の実際

抗結核薬は長期間服用する必要があるため、副作用の管理が治療成功の鍵となります。

 

皮疹の発現頻度と対応
抗結核薬服用患者における皮疹の発現頻度は38%と高く、掻痒感を伴うこともあり患者のQOLを著しく低下させる可能性があります。重篤な皮疹は26例で認められ、抗結核薬の減量や中止が必要でした。

 

肝機能障害のリスク
特にピラジナミドは肝機能障害のリスクが高く、定期的な肝機能検査が必要です。イソニアジドとリファンピシンの併用では、リファンピシンの肝薬物代謝酵素誘導作用により、イソニアジドの肝毒性を有する代謝物の産生が増加します。

 

薬価の現実的考察
第一選択薬は比較的安価で、イスコチン錠100mgが10.1円/錠、リファジンカプセル150mgが13.1円/カプセルと経済的負担は少ないです。一方、多剤耐性結核専用薬は極めて高額で、サチュロ錠100mgが22,277.5円/錠、デルティバ錠50mgが5,999.2円/錠となっており、医療費への影響は深刻です。

 

イソニアジド不活性型の臨床的意義
日本人にはイソニアジドの迅速型不活性化が多く、副作用の発現率に影響を及ぼすとされています。しかし、イソニアジドの代謝型と臨床効果との相関性は認められていないため、個別化治療の指標としては限定的です。

 

結核治療における抗結核薬の選択と管理は、薬剤の分類と特性を十分に理解し、患者の状態に応じた適切な治療法を選択することが重要です。副作用の早期発見と対応、治療完遂への支援が治療成功の要となります。

 

日本結核病学会による結核治療ガイドライン - 抗結核薬の分類と使用方法について
抗結核薬による皮疹の発現頻度に関する研究 - 副作用管理の重要性について