チアジド系利尿薬は、臨床現場で最も広く使用されている利尿薬の一つです。その名称は化学構造に含まれるチアジド環に由来しています。英語では「Thiazide」と表記され、サイアザイドとも呼ばれることがあります。
チアジド系利尿薬の作用機序は、腎臓の遠位尿細管(接合尿細管)において管腔側のNa+-Cl-共輸送担体を阻害することによって、ナトリウムと塩素の再吸収を抑制し、利尿作用を示します。この作用により、体内の余分な水分が排出され、血圧降下効果が得られます。
特筆すべき点として、チアジド系利尿薬は血管拡張作用も持ち合わせており、これが血圧降下に寄与しています。また、長期投与によって末梢血管抵抗が減少するという特性もあります。
一般的な使用量でのナトリウム排泄量はループ利尿薬よりも少ないものの、長時間作用することが特徴です。体内の電解質バランス、特にカリウム、マグネシウム、カルシウムなどに影響を与えるため、定期的な血液検査によるモニタリングが推奨されています。
日本で使用されているチアジド系利尿薬の主な種類には以下のようなものがあります。
これらのチアジド系利尿薬は、単剤で使用されるだけでなく、他の降圧薬との配合剤としても広く用いられています。例えば、アンジオテンシンII受容体拮抗剤とトリクロルメチアジドの組み合わせた医薬品なども開発されています。
チアジド系利尿薬の特徴として、経口投与後比較的速やかに吸収され、効果の発現も早いことがあげられます。トリクロルメチアジドの場合、投与後2〜3時間で効果が現れ、6〜12時間持続します。
チアジド系類似薬(チアジド様利尿薬)は、チアジド環を持たないものの、チアジド系利尿薬と同様の作用機序を持つ利尿薬です。日本で使用されている主な薬剤には以下のようなものがあります。
チアジド系類似薬は、チアジド系利尿薬と比較して、より脂溶性が高い特徴を持っています。そのため、一部の薬剤では作用時間が延長し、1日1回の服用で効果が持続します。また、電解質異常の発現パターンや代謝への影響も若干異なることが知られています。
特に、インダパミドやクロルタリドンは、近年の大規模臨床試験で優れた降圧効果と心血管イベント抑制効果が示されており、国際的なガイドラインでも第一選択薬として推奨されるようになってきています。
チアジド系利尿薬の主な適応症には以下のものがあります。
チアジド系利尿薬を使用する際の注意点として、以下のようなものがあります。
チアジド系利尿薬は低用量から開始し、効果と副作用のバランスを考慮しながら用量調節することが一般的です。特に高齢者では、より低用量から開始し、慎重な用量調節が求められます。
利尿薬は大きく分けて以下の種類があります。
興味深い最近の研究開発として、チアジド系利尿薬を含むマトリックス型経皮吸収製剤の開発が進められています。これは以下のような利点が期待されています。
この経皮吸収製剤には、チアジド系利尿薬やチアジド系類似薬を含有し、アクリル系粘着基剤にアルキルグリコシドなどを配合することで薬剤の浸透性を高める工夫がなされています。
研究が進めば、チアジド系利尿薬の新たな投与経路として、特に高齢者や服薬管理が難しい患者での利用価値が高まる可能性があります。
チアジド系利尿薬は発見から70年以上経過した今でも、その有効性と安全性から高血圧治療の基本薬として広く使用されています。近年では低用量での使用が主流となり、代謝への悪影響を最小限に抑えながら、優れた降圧効果と心血管イベント抑制効果を発揮しています。
また、複数の降圧薬を組み合わせた配合剤の一成分としても重要な位置を占めており、服薬錠数の削減による服薬アドヒアランスの向上に貢献しています。特に、レニン・アンジオテンシン系阻害薬とチアジド系利尿薬の組み合わせは相乗的な降圧効果が期待できる組み合わせとして広く用いられています。
今後も、さらなる副作用軽減や使用便宜性の向上を目指した新たな製剤開発が期待される分野です。