チアジドの種類と一覧について
チアジド系利尿薬の基本情報
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作用機序
遠位尿細管でのNa-Cl共輸送体阻害により利尿作用を発揮
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注意点
電解質異常に注意が必要、低用量から開始することが一般的
チアジドの基本情報と作用機序
チアジド系利尿薬は、臨床現場で最も広く使用されている利尿薬の一つです。その名称は化学構造に含まれるチアジド環に由来しています。英語では「Thiazide」と表記され、サイアザイドとも呼ばれることがあります。
チアジド系利尿薬の作用機序は、腎臓の遠位尿細管(接合尿細管)において管腔側のNa+-Cl-共輸送担体を阻害することによって、ナトリウムと塩素の再吸収を抑制し、利尿作用を示します。この作用により、体内の余分な水分が排出され、血圧降下効果が得られます。
特筆すべき点として、チアジド系利尿薬は血管拡張作用も持ち合わせており、これが血圧降下に寄与しています。また、長期投与によって末梢血管抵抗が減少するという特性もあります。
一般的な使用量でのナトリウム排泄量はループ利尿薬よりも少ないものの、長時間作用することが特徴です。体内の電解質バランス、特にカリウム、マグネシウム、カルシウムなどに影響を与えるため、定期的な血液検査によるモニタリングが推奨されています。
チアジド系利尿薬の主な種類と特徴
日本で使用されているチアジド系利尿薬の主な種類には以下のようなものがあります。
- トリクロルメチアジド(Trichlormethiazide)
- 商品名:フルイトラン(Fluitran)
- 用量:1mg、2mg
- 薬価:準先発品で10.1円/錠、後発品で約6.4円/錠
- 特徴:比較的強力な利尿作用を持ち、長時間作用型
- ヒドロクロロチアジド(Hydrochlorothiazide)
- 商品名:ダイクロトライド、後発品では「ヒドロクロロチアジドOD錠/錠」
- 用量:12.5mg、25mg
- 薬価:後発品で約5.9円/錠
- 特徴:チアジド系の代表的薬剤で、世界中で広く使用されている
- ベンチルヒドロクロロチアジド
- 商品名:べハイド錠、べハイドRA錠/配合錠
- 特徴:ヒドロクロロチアジドにベンチル基が付加された構造
- クロロチアジド(Chlorothiazide)
- 特徴:チアジド系で最初に開発された薬剤
- 化学式:C₇H₆ClN₃O₄S₂
- 分子量:295.71 g・mol⁻¹
これらのチアジド系利尿薬は、単剤で使用されるだけでなく、他の降圧薬との配合剤としても広く用いられています。例えば、アンジオテンシンII受容体拮抗剤とトリクロルメチアジドの組み合わせた医薬品なども開発されています。
チアジド系利尿薬の特徴として、経口投与後比較的速やかに吸収され、効果の発現も早いことがあげられます。トリクロルメチアジドの場合、投与後2〜3時間で効果が現れ、6〜12時間持続します。
チアジド系類似薬の種類と特性
チアジド系類似薬(チアジド様利尿薬)は、チアジド環を持たないものの、チアジド系利尿薬と同様の作用機序を持つ利尿薬です。日本で使用されている主な薬剤には以下のようなものがあります。
- クロルタリドン(Chlorthalidone)
- 商品名:ハイグロトン錠
- 効能・効果:高血圧症(本態性等)、心性浮腫、腎性浮腫、肝性浮腫
- 特徴:チアジド系よりも長時間作用型(約48時間持続)
- インダパミド(Indapamide)
- 商品名:ナトリックス錠
- 効能・効果:本態性高血圧症
- 特徴:血管拡張作用が強く、代謝への影響が比較的少ない
- メフルシド(Mefrusiide)
- 商品名:バイカロン錠
- 効能・効果:高血圧症(本態性、腎性)、心性浮腫、腎性浮腫、肝性浮腫
- トリパミド(Tripamide)
- 商品名:ノルモナール錠
- 効能・効果:本態性高血圧症
- メチクラン(Meticrane)
チアジド系類似薬は、チアジド系利尿薬と比較して、より脂溶性が高い特徴を持っています。そのため、一部の薬剤では作用時間が延長し、1日1回の服用で効果が持続します。また、電解質異常の発現パターンや代謝への影響も若干異なることが知られています。
特に、インダパミドやクロルタリドンは、近年の大規模臨床試験で優れた降圧効果と心血管イベント抑制効果が示されており、国際的なガイドラインでも第一選択薬として推奨されるようになってきています。
チアジド系利尿薬の適応症と使用上の注意点
チアジド系利尿薬の主な適応症には以下のものがあります。
- 高血圧症
- 浮腫性疾患
- 心性浮腫(うっ血性心不全)
- 腎性浮腫
- 肝性浮腫
- 薬剤(副腎皮質ホルモン、フェニルブタゾン等)による浮腫
- その他
チアジド系利尿薬を使用する際の注意点として、以下のようなものがあります。
- 電解質異常:低カリウム血症、低ナトリウム血症、低マグネシウム血症などが発現する可能性があります。特に低カリウム血症は不整脈のリスクとなるため注意が必要です。
- 代謝異常:耐糖能異常、高尿酸血症、脂質代謝異常などが報告されています。糖尿病患者や痛風患者では特に注意が必要です。
- 光線過敏症:チアジド系利尿薬は光線過敏症を引き起こす可能性があります。長時間の日光曝露を避け、必要に応じて日焼け止めの使用を推奨します。
- アレルギー反応:サルファ薬アレルギーのある患者では交差アレルギーの可能性があります。
- 妊娠・授乳中の使用:胎盤を通過するため、妊娠中の使用は原則として避けるべきです。
チアジド系利尿薬は低用量から開始し、効果と副作用のバランスを考慮しながら用量調節することが一般的です。特に高齢者では、より低用量から開始し、慎重な用量調節が求められます。
チアジドと他の利尿薬との比較:マトリックス型経皮吸収製剤の可能性
利尿薬は大きく分けて以下の種類があります。
- チアジド系利尿薬:前述の通り
- ループ利尿薬
- 代表薬:フロセミド(ラシックス)、トラセミド(ルプラック)など
- 特徴:ヘンレのループでのNa+再吸収を阻害、強力な利尿作用
- チアジド系との違い:より強力な利尿作用、電解質異常がより顕著
- カリウム保持性利尿薬
- 代表薬:スピロノラクトン(アルダクトンA)、トリアムテレン(トリテレン)
- 特徴:アルドステロン拮抗作用またはナトリウムチャネル阻害により作用
- チアジド系との違い:カリウム排泄を増加させない
- 炭酸脱水素酵素阻害薬
- 代表薬:アセタゾラミド(ダイアモックス)
- 特徴:近位尿細管でのHCO3-再吸収阻害
- チアジド系との違い:代謝性アシドーシスを引き起こす可能性
- 浸透圧性利尿薬
- 代表薬:マンニトール(マンニットールS)
- 特徴:糸球体で濾過されるが再吸収されない
- チアジド系との違い:急性の状況(脳浮腫など)で使用、静注のみ
興味深い最近の研究開発として、チアジド系利尿薬を含むマトリックス型経皮吸収製剤の開発が進められています。これは以下のような利点が期待されています。
- 安定した血中濃度:経口薬と比較して血中濃度の急激な上昇を避け、副作用リスクが軽減される可能性
- 服薬コンプライアンスの向上:貼付剤による投与は、高齢者など複数の薬剤を服用している患者の服薬忘れを減らせる可能性がある
- 肝初回通過効果の回避:肝臓での代謝を回避することで、より少ない用量で効果を発揮できる可能性
この経皮吸収製剤には、チアジド系利尿薬やチアジド系類似薬を含有し、アクリル系粘着基剤にアルキルグリコシドなどを配合することで薬剤の浸透性を高める工夫がなされています。
研究が進めば、チアジド系利尿薬の新たな投与経路として、特に高齢者や服薬管理が難しい患者での利用価値が高まる可能性があります。
チアジド系利尿薬は発見から70年以上経過した今でも、その有効性と安全性から高血圧治療の基本薬として広く使用されています。近年では低用量での使用が主流となり、代謝への悪影響を最小限に抑えながら、優れた降圧効果と心血管イベント抑制効果を発揮しています。
また、複数の降圧薬を組み合わせた配合剤の一成分としても重要な位置を占めており、服薬錠数の削減による服薬アドヒアランスの向上に貢献しています。特に、レニン・アンジオテンシン系阻害薬とチアジド系利尿薬の組み合わせは相乗的な降圧効果が期待できる組み合わせとして広く用いられています。
今後も、さらなる副作用軽減や使用便宜性の向上を目指した新たな製剤開発が期待される分野です。