肺カルチノイド神経内分泌腫瘍症状診断治療

希少な肺神経内分泌腫瘍である肺カルチノイドの分類、症状、診断方法、治療選択肢について詳しく解説します。定型と非定型の違いや予後についても知りたくありませんか?

肺カルチノイド神経内分泌腫瘍

肺カルチノイドの基本概要
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希少性と発症頻度

全肺腫瘍の1-2%を占める希少な神経内分泌腫瘍

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分類と悪性度

定型カルチノイド(80%)と非定型カルチノイド(20%)に分類

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発症年齢

40-60歳代に多く、通常の肺癌より若年発症傾向

肺カルチノイドは、肺の神経内分泌細胞から発生する比較的希少な腫瘍です。この疾患は全肺腫瘍の1-2%を占めており、呼吸器科医でも年間1-2例程度しか診察する機会がない希少疾患として知られています。

 

肺神経内分泌腫瘍は、気管支上皮基底部に存在する神経分泌顆粒を持つkulchitsky細胞由来の腫瘍と考えられており、細胞の核分裂像と壊死巣の有無により定型カルチノイドと非定型カルチノイドに分類されます。発症年齢は主に40-60歳代で、通常の肺癌患者と比較して若年発症の傾向があります。

 

この腫瘍の最大の特徴は、進行が比較的遅いことですが、局所浸潤やリンパ節転移、血行性転移を起こす可能性があるため、悪性腫瘍として取り扱われています。また、腫瘍細胞が作るホルモンの影響で、食欲不振や倦怠感などの様々な症状が引き起こされることもあります。

 

肺カルチノイド分類定型非定型悪性度

肺カルチノイドは、組織学的特徴に基づいて定型カルチノイドと非定型カルチノイドの2つに大別されます。この分類は治療方針や予後を決定する上で極めて重要です。

 

定型カルチノイド

  • 全体の70-80%を占める最も一般的なタイプ
  • 悪性度は低く、増殖速度も遅い
  • 核分裂像が少なく、壊死巣が認められない
  • 予後は比較的良好で、5年生存率は90%以上
  • 中枢気道に発生することが多い

非定型カルチノイド

  • 全体の10-20%を占める
  • 悪性度は中程度で、定型より進行が早い
  • 核分裂像が多く、壊死巣が存在する
  • 転移のリスクが高い
  • 末梢の肺野に発生することが多い

両者の鑑別は病理組織学的検査によって行われ、核分裂像の数(10視野あたり2個未満が定型、2-10個が非定型)と壊死の有無が重要な指標となります。非定型カルチノイドは定型と比較して明らかに悪性度が高く、リンパ節転移や遠隔転移のリスクが増加するため、より積極的な治療が必要となります。

 

肺カルチノイド症状発生部位診断

肺カルチノイドの症状は、腫瘍の発生部位と大きさによって大きく異なります。発生部位は中枢型と末梢型に分類され、それぞれ特徴的な症状パターンを示します。

 

中枢型(肺門型)の症状

  • 血痰や喀血が最も頻繁に見られる症状
  • 持続する咳嗽
  • 気管支狭窄による喘鳴
  • 反復性肺炎
  • 胸痛
  • 呼吸困難

中枢型では腫瘍が気管支内腔にポリープ状に発育するため、気管支閉塞に伴う症状が現れやすく、症状を有する患者の割合が高くなります。

 

末梢型の症状

  • 無症状であることが多い(約50%の患者)
  • 健康診断の胸部X線検査で偶然発見される
  • 症状がある場合は胸痛や咳嗽が主体

特殊な症状(腫瘍随伴症候群)
肺カルチノイドでは、腫瘍から分泌されるホルモンによる腫瘍随伴症候群が発生することがあります。

  • クッシング症候群(副腎皮質刺激ホルモンの過剰分泌)
  • 先端巨大症(成長ホルモン放出ホルモン)
  • ゾリンジャー-エリソン症候群(ガストリンの過剰分泌)
  • カルチノイド症候群(3%未満で発生)

診断においては、CT検査が最も有用で、球状または卵形の境界明瞭な腫瘤として描出されます。約30%の症例で腫瘤内に点状の石灰化が認められ、これは診断の手がかりとなります。

 

肺カルチノイド治療手術選択肢

肺カルチノイドの治療は、腫瘍のタイプ、進行度、患者の全身状態を総合的に評価して決定されます。外科的切除が第一選択となることが多く、完全切除が可能であれば良好な予後が期待できます。

 

外科治療

  • 標準的な肺葉切除:最も一般的な術式
  • 縮小手術(区域切除):リンパ節転移のない定型カルチノイドの場合
  • 二葉切除や全摘術:腫瘍の位置や範囲によって選択
  • 気管支形成術:中枢型で気管支温存が可能な場合

手術適応の決定には以下の因子が重要です。

  • 腫瘍の組織型(定型 vs 非定型)
  • 腫瘍の大きさと局在
  • リンパ節転移の有無
  • 遠隔転移の有無
  • 患者の呼吸機能と全身状態

非手術療法
手術不能例に対しては以下の治療選択肢があります。

  • 化学療法:小細胞肺癌に準じたEP療法やCAV療法
  • 放射線療法:局所制御目的
  • 分子標的治療:研究段階
  • 光免疫療法:特定の施設で実施

新しい治療アプローチ
近年、神経内分泌腫瘍に対する新しい治療法として、ソマトスタチンアナログやmTOR阻害薬などの分子標的治療薬の有効性が報告されており、今後の治療選択肢の拡大が期待されています。

 

肺カルチノイド予後転移リスク因子

肺カルチノイドの予後は、組織型、病期、治療法によって大きく左右されます。定型カルチノイドと非定型カルチノイドでは予後に明確な差があり、適切な病期診断と治療選択が重要です。

 

定型カルチノイドの予後

  • 5年生存率:90%以上
  • 10年生存率:85-95%
  • リンパ節転移率:10-15%
  • 遠隔転移率:5%以下
  • 局所再発率:完全切除後2-5%

非定型カルチノイドの予後

  • 5年生存率:60-70%
  • 10年生存率:50-60%
  • リンパ節転移率:40-50%
  • 遠隔転移率:20-25%
  • 局所再発率:10-15%

転移リスク因子
以下の因子が転移リスクの増加と関連しています。

  • 腫瘍径(2cm以上でリスク増加)
  • 非定型カルチノイドの組織型
  • 中心壊死の存在
  • 核分裂像の増加
  • Ki-67増殖指数の高値
  • 血管侵襲の存在

好発転移部位

  • 肝臓(最も頻繁)
  • 骨(特に脊椎、肋骨)
  • 副腎
  • 反対側肺

転移パターンは組織型によって異なり、定型カルチノイドでは局所リンパ節転移が主体であるのに対し、非定型カルチノイドでは血行性転移の頻度が高くなります。

 

長期経過観察の重要性
肺カルチノイドは進行が遅い腫瘍のため、手術後も長期間の経過観察が必要です。特に非定型カルチノイドでは、術後5年以降にも再発や転移が発生する可能性があるため、10年以上の継続的なフォローアップが推奨されています。

 

肺カルチノイド鑑別診断と画像特徴

肺カルチノイドの診断において、他の肺腫瘍との鑑別は臨床上重要な課題です。特に画像診断における特徴的所見を理解することで、より正確な診断が可能となります。

 

CT画像の特徴的所見

  • 形状:球状または卵形の境界明瞭な腫瘤
  • 辺縁:平滑またはやや分葉状
  • 石灰化:約30%の症例で腫瘤内に点状石灰化
  • 発生部位:中枢気道の分岐部近くに多い
  • 気管支内病変:小結節としてHRCTで観察可能

主要な鑑別疾患
1. 腺癌との鑑別

  • カルチノイド:境界明瞭、石灰化あり、血管収束なし
  • 腺癌:不整形、スピクラ状、胸膜陥入あり

2. 扁平上皮癌との鑑別

  • カルチノイド:末梢発生でも球形を保つ
  • 扁平上皮癌:不整形、空洞形成傾向

3. 小細胞肺癌との鑑別

  • カルチノイド:増殖速度が遅い、明瞭な腫瘤形成
  • 小細胞肺癌:急速増大、リンパ節腫大が目立つ

4. 肺過誤腫との鑑別

  • カルチノイド:造影効果あり、内部は均一
  • 過誤腫:popcorn様石灰化、脂肪成分

診断確定のための検査

  • 気管支鏡検査:中枢型では直視下生検が可能
  • CTガイド下肺生検:末梢型に対して実施
  • 免疫組織化学染色:クロモグラニンA、シナプトフィジン陽性
  • 電子顕微鏡検査:神経分泌顆粒の確認

機能的診断法

  • オクトレオチドシンチグラフィ:ソマトスタチン受容体の発現評価
  • FDG-PET:定型カルチノイドではSUV値が低い傾向

近年、液体生検(リキッドバイオプシー)による循環腫瘍細胞の検出や、AIを用いた画像診断支援システムの開発も進んでおり、早期診断や治療選択の精度向上が期待されています。

 

肺カルチノイドの診断には多角的なアプローチが必要であり、画像所見、臨床症状、病理組織学的検査を総合的に評価することで、適切な治療選択と予後改善につながります。

 

厚生労働省による肺神経内分泌腫瘍の診療ガイドライン
https://ganjoho.jp/public/cancer/pulmonary_neuroendocrine_tumor/index.html
MSDマニュアルによる気管支カルチノイドの詳細な解説
https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/05-%E8%82%BA%E7%96%BE%E6%82%A3/%E8%82%BA%E8%85%AB%E7%98%8D/%E6%B0%97%E7%AE%A1%E6%94%AF%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%83%81%E3%83%8E%E3%82%A4%E3%83%89