高尿酸血症と症状と治療薬
高尿酸血症の定義と症状:無症候性期から痛風発作への進行
高尿酸血症とは、血清尿酸値が7.0mg/dLを超えた状態を指します。この状態が長期間続くことで、過剰な尿酸が結晶となって体内に蓄積され、様々な症状や合併症を引き起こす可能性があります。
高尿酸血症の進行は、主に以下の段階に分けられます。
- 無症候性高尿酸血症期
- 尿酸値は高いものの、自覚症状はほとんどない
- この時期から適切な生活習慣の改善を行うことが重要
- 腎障害や高血圧、糖尿病など他の合併症のリスク増加
- 痛風発作期
- 尿酸結晶が関節内に析出し、急性の関節炎を引き起こす
- 初期は足の親指の付け根(第一中足趾関節)に発症することが多い(約70%)
- 激烈な痛みと関節の腫れを特徴とする
- 初回発作は数日〜2週間程度で自然軽快することが多い
- 発作を繰り返すたびに痛みの持続期間が延長する傾向がある
痛風発作のリスクは尿酸値によって大きく変動します。5年間の累積発症率は、尿酸値が7.0-7.9mg/dLでは約10%、8.0-8.9mg/dLでは約30%、9.0mg/dL以上では60%以上にも上ります。このことから、高尿酸血症の早期治療の重要性が理解できます。
高尿酸血症は「沈黙の疾患」とも呼ばれ、自覚症状がないまま進行することが多いため、健康診断などで高尿酸血症を指摘された場合は、将来の痛風発作や腎障害などのリスクを考慮し、適切な介入を検討する必要があります。
高尿酸血症の病型分類:産生過剰型と排泄低下型の特徴
高尿酸血症は、その成因から主に3つの病型に分類されます。
- 尿酸産生過剰型
- 体内でのプリン体から尿酸への代謝が過剰に行われる
- プリン体の摂取過多や代謝異常が原因
- 全体の約10〜15%を占める
- 尿酸排泄低下型
- 腎臓からの尿酸排泄機能が低下している
- 全体の約60%と最も多い病型
- メタボリックシンドロームや腎臓病・心不全患者に多く見られる
- 混合型
- 産生過剰と排泄低下の両方の要素がある
- 約25〜30%を占める
この病型分類は治療薬の選択において重要な指標となります。理論的には、尿酸産生過剰型には尿酸生成抑制薬を、尿酸排泄低下型には尿酸排泄促進薬を選択するのが合理的です。
しかし、実臨床では必ずしも病型のみで薬剤を選択するわけではありません。以下のような要因も考慮されます。
- 腎機能の状態
- 肝機能の状態
- 尿路結石の既往
- 併存疾患(高血圧、糖尿病など)
- 他の薬剤との相互作用
特筆すべきは、尿酸排泄低下型の患者さんでも尿酸生成抑制薬が有効であるという報告があり、実際の臨床現場では、尿酸排泄促進薬の肝毒性リスクや尿路結石のリスクを考慮して、排泄低下型の患者さんにも尿酸生成抑制薬が選択されることが多いという点です。
このため、患者の病型だけでなく、全身状態や併存疾患、ライフスタイルなど、総合的な判断に基づいて治療薬を選択することが重要です。
高尿酸血症の治療薬:尿酸生成抑制薬の種類と特徴
尿酸生成抑制薬は、プリン体から尿酸が合成される過程を阻害することで、血中の尿酸値を下げる薬剤です。主にキサンチンオキシダーゼ(XO)という酵素を阻害することで効果を発揮します。
現在、日本で使用される主な尿酸生成抑制薬は以下の3種類です。
- アロプリノール(商品名:ザイロリック)
- 用量:50mg、100mg
- 特徴。
- 長年使用されてきた実績がある(最も多くのエビデンス)
- 1日2回の服用が必要
- 腎臓で代謝されるため、腎機能低下患者では減量が必要
- 添付文書上は「痛風・高尿酸血症を伴う高血圧症」に適応(高尿酸血症のみでは適応外)
- フェブキソスタット(商品名:フェブリク)
- 用量:10mg、20mg、40mg
- 特徴。
- 腎機能低下患者(eGFR 30以上)でも通常量で使用可能
- 尿酸を下げる効果が高い
- 1日1回の服用で済む
- 肝代謝のため腎機能低下患者でも用量調整不要
- 腎臓病や心臓病の患者に好まれる傾向あり
- トピロキソスタット(商品名:トピロリック)
- 用量:20mg、40mg、60mg
- 特徴。
- 比較的新しい薬
- 1日2回の服用が必要
- 肝代謝のため腎機能低下患者でも用量調整不要
これらの薬剤選択において考慮すべき点。
- 服用回数:フェブキソスタットは1日1回、アロプリノールとトピロキソスタットは1日2回の服用が必要です。患者のアドヒアランス向上のためには、服用回数の少ないフェブキソスタットが有利です。
- 腎機能:アロプリノールは腎代謝のため、腎機能低下患者では用量調整が必要です。一方、フェブキソスタットとトピロキソスタットは肝代謝のため、腎機能低下患者でも比較的安全に使用できます。
- 効果:一般的にフェブキソスタットは、アロプリノールと比較して尿酸値低下作用が強いとされています。
しかし、2019年に発表された「CARES試験」では、フェブキソスタットとアロプリノールを比較した結果、フェブキソスタット群で心血管死亡のリスクが高かったという報告があり、現在も議論が続いています。このため、心血管疾患リスクの高い患者では注意が必要です。
高尿酸血症の治療薬:尿酸排泄促進薬の選択基準と副作用
尿酸排泄促進薬は、腎臓の尿細管における尿酸の再吸収を抑制し、尿中への尿酸排泄を促進することで血中尿酸値を下げる薬剤です。主に尿酸排泄低下型の高尿酸血症に用いられますが、実臨床では様々な要因を考慮して使用されています。
日本で使用される主な尿酸排泄促進薬は以下の3種類です。
- プロベネシド(商品名:ベネシッド)
- 特徴。
- 最も古い高尿酸血症治療薬の一つ
- 元々はペニシリンの効果を高めるために使用されていた(尿酸低下作用は偶然発見された)
- 尿酸を下げる効果は比較的弱い
- 現在ではほとんど処方されない
- ベンズブロマロン(商品名:ユリノーム)
- 特徴。
- 強力な尿酸排泄促進作用を持つ
- 重篤な肝毒性が報告され、世界的に使用が制限されている
- 導入後少なくとも半年間は肝機能の慎重なフォローが必要
- 他の高尿酸血症治療薬が使用できない場合に処方されることが多い
- ドチヌラド(商品名:ユリス)
- 特徴。
- 2020年に販売開始された比較的新しい薬
- 腎臓の近位尿細管の尿酸再吸収に関与するトランスポーター(URAT1)を選択的に阻害
- 従来の尿酸降下薬に比べて、効果的に再吸収を阻害し、多くの患者で高尿酸血症の治療目標である尿酸値≦6mg/dLを達成
尿酸排泄促進薬使用における注意点と副作用。
- 尿路結石のリスク。
- 尿中尿酸濃度の上昇により尿路結石のリスクが高まる
- 予防のために十分な水分摂取が必要
- 必要に応じて尿アルカリ化薬の併用を考慮
- 肝機能障害のリスク。
- 特にベンズブロマロンでは重篤な肝障害の報告あり
- 定期的な肝機能検査が必要
- 使用禁忌。
- 尿路結石の既往がある患者
- 重度の腎機能障害患者
- 肝機能障害のある患者(特にベンズブロマロン)
尿酸排泄促進薬を選択する際のポイント。
- 尿路結石の既往や尿中尿酸/クレアチニン比が高値の場合は、尿路結石の発症リスクを考慮
- 肝機能障害がある場合は、ドチヌラドの使用を検討(ベンズブロマロンは避ける)
- 尿路結石予防のため、尿アルカリ化薬(クエン酸製剤など)の併用を検討
- 十分な水分摂取(2L/日以上)の指導が重要
専門医の間では、尿酸排泄促進薬は尿路結石や肝障害のリスクがあるため、リスクの少ない尿酸生成抑制薬が第一選択として使用されることが多いのが現状です。しかし、尿酸生成抑制薬で効果不十分な場合や、副作用が出現した場合には、適切なモニタリングのもとで尿酸排泄促進薬の使用が検討されます。
高尿酸血症の治療薬選択:腎機能と併存疾患からの新たな視点
高尿酸血症の治療において、単に病型分類だけでなく、患者の全身状態、特に腎機能や併存疾患を考慮した薬剤選択が重要になってきています。従来の「産生過剰型には尿酸生成抑制薬、排泄低下型には尿酸排泄促進薬」という単純な図式を超えた、新たな治療薬選択の視点について探ってみましょう。
腎機能からみた薬剤選択
腎機能は高尿酸血症治療薬の選択において非常に重要な因子です。
- 腎機能正常または軽度低下(eGFR ≥ 60 mL/min/1.73m²)。
- すべての治療薬が使用可能
- 病型に応じて薬剤選択が可能
- 中等度腎機能低下(eGFR 30-59 mL/min/1.73m²)。
- フェブキソスタットやトピロキソスタットが推奨される
- アロプリノールは減量が必要
- ベンズブロマロンは効果減弱するため注意
- 高度腎機能低下(eGFR < 30 mL/min/1.73m²)。
- フェブキソスタットが第一選択(減量が必要な場合あり)
- アロプリノールは大幅な減量が必要
- 尿酸排泄促進薬は効果が期待できないため不適
興味深いことに、腎機能低下患者では高尿酸血症の治療が腎機能の保護に繋がる可能性が示唆されています。特にフェブキソスタットは腎保護効果が注目されており、CKD患者の腎機能悪化抑制に寄与する可能性があります。
併存疾患からみた薬剤選択
併存疾患も薬剤選択に大きく影響します。
- 心血管疾患がある場合。
- 最新のエビデンスでは、フェブキソスタットは心血管イベントリスクとの関連が指摘されているため、慎重な使用が求められる
- アロプリノールの方が望ましい場合も
- メタボリックシンドローム。
- 高尿酸血症とメタボリックシンドロームは密接に関連
- フルクトース摂取制限など生活習慣の改善が特に重要
- インスリン抵抗性改善薬との併用も考慮
- 肝機能障害。
- ベンズブロマロンは避ける
- アロプリノールは比較的安全だが、定期的な肝機能モニタリングが必要
- 高血圧。
- 利尿薬(特にチアジド系)は尿酸値を上昇させるため、可能であれば代替薬を検討
- ARBのなかでロサルタンは尿酸排泄促進作用があり有用
薬剤コンビネーション療法の可能性
近年、単剤での効果不十分例に対して、作用機序の異なる複数の薬剤を併用する「コンビネーション療法」の有用性が注目されています。例えば。
- 尿酸生成抑制薬(フェブキソスタットなど)+ 尿酸排泄促進薬(ドチヌラドなど)
- これにより、より効果的に尿酸値をコントロールできる可能性
遺伝子多型と薬剤反応性
最近の研究では、薬物代謝酵素やトランスポーターの遺伝子多型によって、高尿酸血症治療薬の効果や副作用が個人間で異なることが明らかになってきています。例えば。
- ABCG2遺伝子多型:尿酸の排泄に関与し、特定の多型を持つ患者ではフェブキソスタットの効果が高い
- HLA-B*5801:アロプリノールによる重症薬疹(SJS/TEN)のリスクと関連
将来的には、こうした遺伝子情報に基づいた個別化医療が高尿酸血症治療にも応用される可能性があります。
治療目標値の個別化
従来、高尿酸血症の治療目標は一律「6.0mg/dL以下」とされてきましたが、最近では患者の状態に応じて目標値を個別化する考え方も提唱されています。
- 痛風結節を有する重症例:5.0mg/dL未満
- 痛風関節炎の既往あり:6.0mg/dL以下
- 無症候性高尿酸血症:尿酸値や合併症によって判断(8.0mg/dL未満など)
高尿酸血症の治療は「一つのアプローチですべての患者に対応する」というものではなく、個々の患者の特性、併存疾患、生活背景などを総合的に評価し、最適な薬剤を選択することが求められています。
日本痛風・尿酸核酸学会による高尿酸血症・痛風の治療ガイドラインの最新情報はこちら