人の腸内には約1000種類、100兆個もの細菌が生息しており、この細菌群を「腸内フローラ」と呼びます。腸内細菌は働きによって、善玉菌、悪玉菌、日和見菌の3つに大きく分けられます 。
参考)https://www.meiji.co.jp/oligostyle/contents/0023/
善玉菌の代表例として、ビフィズス菌や乳酸菌があります。これらの菌は乳酸や酢酸などの酸を作り出し、腸内を酸性にすることで悪玉菌の増殖を抑制します。さらに腸の運動を活発にし、食中毒菌や病原菌の感染予防、ビタミン合成など様々な健康維持機能を持っています 。
一方、悪玉菌は大腸菌(毒性株)、ウェルシュ菌、黄色ブドウ球菌などで構成されており、増殖すると腸内をアルカリ性に傾け、有害物質を生み出します。日和見菌は腸内環境により善玉菌または悪玉菌のどちらかの働きをする特徴があります 。
腸内細菌が食物繊維やオリゴ糖を分解する際に産生される短鎖脂肪酸は、健康維持において極めて重要な代謝物です。主な短鎖脂肪酸には酢酸、プロピオン酸、酪酸があります 。
参考)https://scfa.or.jp/contents/scfa
短鎖脂肪酸は腸のpHを適正に保ち、病原菌の増殖を抑制する働きがあります。特に酪酸は腸の粘膜を保護し、腸の炎症を抑える重要な役割を果たしています。また、これらの物質は肥満抑制、アレルギー予防、持久力向上など、多様な健康効果をもたらします 。
腸内細菌によるこれらの代謝物質の産生は、私たちが摂取した未消化物を栄養源として行われるため、食事内容が腸内環境に直接影響を与えることがわかります 。
参考)https://www.nippn.co.jp/BrandB/eiyou/column/20.html
腸内細菌と人の免疫システムには密接な相互作用が存在します。腸には体全体の半分以上の免疫細胞が集まっており、腸内細菌はこれらの免疫細胞に適度な刺激を与えて免疫機能を鍛える役割を果たしています 。
参考)https://institute.yakult.co.jp/feature/002/03.php
病原菌が食べ物や飲み物と一緒に口から侵入した際、腸に住み着いている細菌は後から侵入してきた病原菌の定着を妨げ、増殖を抑制します。この現象はコロナイゼーションレジスタンスと呼ばれ、自然な感染防御メカニズムとして機能しています 。
プロバイオティクスは腸管免疫組織内に到達し、免疫系を修飾することで全身免疫系にも影響を与えます。T細胞の活性化、腸管上皮細胞の増殖、IgA産生の促進、炎症抑制といった複数の経路を通じて免疫機能を発揮します 。
参考)https://www.nyusankin.or.jp/wp/wp-content/uploads/2020/03/Nyusankin_480_a.pdf
健康な腸内フローラを維持するためには、腸内細菌の多様性を高めることが重要です。研究により、健康な人では腸内フローラの多様性が高く、疾患のある人では多様性が低下する傾向が明らかになっています 。
参考)https://mykinso.com/mykinsomedia/532
多様性を高めるためには、プロバイオティクス(有益な菌を直接補給)とプレバイオティクス(腸内細菌のエサとなる食品成分)を組み合わせて摂取することが効果的です 。
参考)https://goodcho.aub.co.jp/dietary-diversity/
プロバイオティクスとして、ヨーグルト、味噌、納豆、キムチなどの発酵食品を継続的に摂取し、プレバイオティクスとして食物繊維やオリゴ糖を含む玄米、きのこ類、海藻類、果物を多品目にわたって摂取することが推奨されます 。
最新の研究により、腸内細菌が脳の機能にまで影響を与える「腸脳相関」が注目されています。腸内細菌は生理活性を持つ代謝物を産生し、脳機能を左右する可能性が示されています 。
参考)https://alinamin-kenko.jp/yakuhou/feature/intestinalbacteria/vol01.html
興味深い例として、空腹時のイライラは腸内細菌が栄養源を要求するために産生する物質による信号である可能性が指摘されています。これは腸内細菌が私たちの行動や感情に直接的な影響を与えている証拠と考えられています 。
さらに、自閉症、認知症、アルツハイマー病、パーキンソン病といった神経系疾患と腸内細菌の関係も解明が進んでおり、腸内細菌研究は現代医療のトップランナーとしての位置を占めています。これらの発見は、腸内環境の改善が全身の健康維持につながる科学的根拠を提供しています 。