酪酸は、炭素数が4個の短鎖脂肪酸(C4H7O2−)であり、腸内細菌が食物繊維やオリゴ糖などの難消化性多糖類を発酵・分解する過程で産生されます。短鎖脂肪酸には酢酸(炭素数2個)、プロピオン酸(炭素数3個)、酪酸(炭素数4個)の3種類が代表的で、これらは総称して炭素数2~6個の脂肪酸を指します。brand.taisho+3
酪酸を産生できるのは酪酸菌(酪酸産生菌)と呼ばれる腸内細菌のみであり、この特異性が酪酸の重要性を高めています。酪酸菌は腸内フローラの一部として大腸に存在し、水溶性食物繊維を基質として酪酸を生成します。腸内における酪酸の濃度は通常10~15 mM程度であり、この濃度範囲が大腸上皮細胞のエネルギー源として適切に機能します。mdc+3
食品から直接酪酸を摂取することは困難で、ぬか漬けや臭豆腐などごく限られた発酵食品にしか含まれていません。そのため、腸内での酪酸産生を促進するためには、酪酸菌のエサとなる水溶性食物繊維を積極的に摂取することが推奨されます。bio-three+1
酪酸は大腸上皮細胞の主要なエネルギー源として、腸管上皮細胞が必要とするエネルギーの約70%を供給しています。大腸上皮細胞は酪酸をモノカルボン酸トランスポーター(MCT1)やナトリウム依存性モノカルボン酸トランスポーター(SMCT1)を介して腸管腔から細胞質内に取り込み、β酸化によって代謝してATPを産生します。tandfonline+3
この代謝過程において、酪酸は大腸管腔内の酸素を大量に消費する特性があります。大腸上皮細胞が酪酸をエネルギー源として代謝する際に酸素を消費することで、大腸内は低酸素状態に保たれます。この低酸素環境は、偏性嫌気性菌であるビフィズス菌や酪酸菌などの有用な腸内細菌にとって好適な生育環境となり、逆に大腸菌やカンピロバクター菌などの好気性の有害菌の増殖を抑制します。symgram.symbiosis-solutions+2
酪酸の大腸上皮細胞へのエネルギー供給は、腸管のバリア機能維持に不可欠です。酪酸が不足すると、大腸上皮細胞の機能が低下し、腸管バリアの脆弱化や炎症反応の増加につながる可能性があります。bifidus-fund+2
Butyrate and the Intestinal Epithelium: Modulation of Proliferation and Inflammation in Homeostasis and Disease
酪酸の腸管上皮細胞における代謝メカニズムと増殖・炎症への影響に関する詳細な解説が掲載されています。
酪酸は免疫系の調節において極めて重要な役割を果たしており、特に制御性T細胞(Treg細胞)の分化誘導を促進する作用が注目されています。制御性T細胞は、過剰な免疫応答を抑制し、自己免疫疾患や炎症性疾患の発症を防ぐ重要な免疫細胞です。karadacare-navi+4
酪酸による制御性T細胞の分化誘導メカニズムは、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)の阻害作用に基づいています。酪酸はクラスIおよびクラスIIのヒストン脱アセチル化酵素を阻害し、特にクラスI HDACに対しては2~5 mMの濃度で50%阻害活性を示します。この阻害作用により、Foxp3遺伝子のプロモーター領域におけるヒストンのアセチル化が亢進し、制御性T細胞への分化が選択的に促進されます。first.lifesciencedb+2
短鎖脂肪酸の中でも、酪酸はヒストン脱アセチル化酵素に対して最も強い阻害活性を持ち、プロピオン酸は中程度、酢酸はほとんど阻害活性を示しません。この阻害活性の強さと制御性T細胞の分化誘導活性には正の相関関係があり、酪酸の免疫調節における優位性を示しています。first.lifesciencedb
酪酸による制御性T細胞の増加は、腸管免疫においてTNF-α、IL-6などの炎症性サイトカインの産生を抑制し、腸管内の炎症を鎮静化させます。また、腸管バリア機能を強化し、病原体や有害物質の侵入を防ぐことで、炎症性腸疾患(IBD)や自己免疫疾患の発症抑制に寄与しています。seikagaku.jbsoc+1
腸内細菌が作る酪酸が制御性T細胞への分化誘導のカギ
理化学研究所による酪酸と制御性T細胞の分化誘導機構に関する研究成果の詳細報告です。
酪酸を含む短鎖脂肪酸は、腸管上皮細胞でエネルギー源として利用された後、残りが血流に乗って全身の組織に運ばれ、短鎖脂肪酸受容体を介して様々な生理機能を調節します。代表的な短鎖脂肪酸受容体には、Gタンパク質共役受容体(GPCR)に属するGPR41(FFAR3)、GPR43(FFAR2)、GPR109A、Olfr78があります。bifidus-fund+1
GPR41は主にプロピオン酸と酪酸によって活性化され、腸管の腸内分泌細胞や自律神経に高発現しています。一方、GPR43は主に酢酸とプロピオン酸によって活性化され、脂肪組織や免疫細胞に多く発現しています。これらの受容体が活性化されると、Gi/o経路を介して細胞内cAMP濃度の抑制とMAPKの活性化が起こり、さらにGPR43ではGq経路も活性化されて細胞内Ca2+濃度が上昇します。brh+1
短鎖脂肪酸受容体GPR43の活性化は、脂肪組織における脂肪の蓄積を抑制し、肥満の予防に寄与することが明らかになっています。循環血液中の短鎖脂肪酸濃度でも十分にこれらの受容体を活性化できるため、腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸は腸内だけでなく、血流を介して末梢組織にも作用し、宿主の代謝機能に広範な影響を及ぼします。kyoto-u+2
短鎖脂肪酸受容体を介したシグナル伝達は、エネルギー代謝系や免疫系の制御、恒常性維持などに役立っており、糖尿病、心血管疾患、肥満などの生活習慣病の予防や治療における新たな標的として期待されています。pmc.ncbi.nlm.nih+2
酪酸を含む短鎖脂肪酸は、メタボリックシンドロームや生活習慣病の予防に対して多面的な効果を発揮します。特に、酪酸と酢酸は白色脂肪細胞に作用し、脂肪の蓄積を抑制する作用が報告されています。白色脂肪細胞には酢酸を感知するセンサーがあり、血液によって運ばれた酢酸をこのセンサーが感知すると、脂肪細胞への過剰なエネルギー取り込みをブロックします。toyokeizai+3
酪酸とプロピオン酸は、腸粘膜の修復とバリア機能の強化において重要な役割を果たします。酪酸はムチンの産生を促進し粘膜層を強化するとともに、腸粘膜の維持と修復に寄与するムチン関連ペプチドであるTrefoil Factors(TFF)の発現を増加させます。さらに、大腸上皮細胞のタイトジャンクション構築を促進することで、腸管バリア機能を強化し、病原体や有害物質の体内侵入を防ぎます。glico+2
短鎖脂肪酸の免疫調節作用は、慢性炎症の抑制を介して動脈硬化、糖尿病、高血圧などの生活習慣病の発症リスクを低減する可能性があります。特に、制御性T細胞の増加による抗炎症作用は、慢性低度炎症(chronic low-grade inflammation)と肥満の関連において重要な意義を持ちます。pmc.ncbi.nlm.nih+2
ただし、酪酸の濃度には適切な範囲があることに注意が必要です。酪酸の濃度が高くなりすぎると、アポトーシスを誘発して腸のバリア機能を破壊する可能性も報告されています。そのため、腸内細菌叢における酪酸産生菌の割合は、多すぎず少なすぎない適切なバランスを保つことが重要です。symgram.symbiosis-solutions
酪酸産生を増やすための最も効果的な方法は、水溶性食物繊維を豊富に含む食品を積極的に摂取することです。水溶性食物繊維は酪酸菌のエサとなり、発酵・分解されることで酪酸が産生されます。水溶性食物繊維を多く含む食品には、海藻類(わかめ、昆布、もずく)、果実類(りんご、バナナ、キウイフルーツ)、野菜類(ごぼう、にんじん、オクラ)、大麦、オートミール、こんにゃくなどがあります。mdc+2
日本人の食物繊維摂取量は、成人男性で1日あたり約20g以上、成人女性で約18g以上が目標とされていますが、多くの現代人はこの目標量に達していません。食物繊維の摂取量を増やすためには、主食を白米から大麦や玄米を混ぜたものに変更したり、野菜や海藻を毎食に取り入れたりする工夫が有効です。mdc
酪酸菌を直接摂取する方法としては、サプリメントや整腸剤の利用が考えられます。宮入菌(Clostridium butyricum MIYAIRI 588)などの酪酸菌製剤は、腸内で酪酸を産生し、腸内環境の改善に寄与します。酪酸菌は芽胞を形成するため、胃酸や胆汁酸に対して高い耐性を持ち、生きたまま腸に到達できる特性があります。miyarisan+4
酪酸菌の摂取に加えて、酪酸菌と相乗効果を発揮する乳酸菌やビフィズス菌を併用することも推奨されます。酪酸菌は乳酸菌が産生した乳酸を利用して酪酸を産生するため、両者を組み合わせることで腸内環境の改善効果が高まります。fukuoka-tenjin-naishikyo+2
酪酸菌で短鎖脂肪酸を増やす!健康な大腸を目指そう
酪酸菌の働きと短鎖脂肪酸を増やすための実践的な方法が詳しく解説されています。
| 短鎖脂肪酸の種類 | 炭素数 | 主な産生菌 | 主な生理作用 | 主な受容体 |
|---|---|---|---|---|
| 酢酸 | 2個 | ビフィズス菌、乳酸桿菌 | 脂肪蓄積抑制、免疫グロブリンA産生促進 | GPR43 |
| プロピオン酸 | 3個 | バクテロイデス属 | 腸粘膜修復、肝臓での糖新生調節 | GPR41、GPR43 |
| 酪酸 | 4個 | 酪酸菌(フィーカリバクテリウム属、ロゼブリア属など) | 大腸上皮細胞のエネルギー源、制御性T細胞分化誘導、HDAC阻害 | GPR41、GPR109A |
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