脱水症の輸液療法では、失われた体液の種類を正確に判断することが治療成功の鍵となります。脱水は大きく分けてナトリウム欠乏型脱水と水分欠乏型脱水に分類され、それぞれに適した輸液製剤を選択する必要があります。
ナトリウム欠乏型脱水では、体液のナトリウムが失われることで循環血液量が減少し、血圧低下による眩暈、頭痛、吐き気などの症状が現れます。この場合、等張電解質輸液である生理食塩液や乳酸リンゲル液が投与されます。これらの輸液は電解質濃度が血漿とほぼ等しいため、細胞内へ移動せず細胞外液量を効果的に増加させることができます。
一方、水分欠乏型脱水では、細胞外液と細胞内液の両方の水分が欠乏している状態で、血漿の浸透圧が上昇します。この病態には3号輸液などの維持液類や5%ブドウ糖液が適用されます。これらは低張電解質輸液として、体液より電解質濃度が低く設定されているため、細胞内まで水分を補給することが可能です。
輸液療法における投与速度は、患者の状態と脱水の程度によって慎重に決定する必要があります。重度の脱水症では、0.9%生理食塩液を1,000 mL/hrの速度で開始し、2~3時間で約3L程度を投与することが推奨されています。
しかし、過剰な輸液は心臓への負担となり、肺水腫などの重篤な合併症を引き起こす可能性があります。そのため、輸液中は以下の項目を継続的にモニタリングすることが重要です:
輸液療法開始後は、病態の変化や初期評価の見直しが必要になることがあります。特に急性期では、数時間から数十分単位での再評価が求められる場合もあります。
脱水症に対する輸液療法において、看護師は患者の安全と治療効果を確保するための重要な役割を担います。まず、脱水の原因を正確に理解することが治療の基盤となります。多量の出血、嘔吐・下痢、熱中症など、原因によって必要な輸液の種類が異なるためです。
患者教育も看護の重要な要素です。
また、輸液製剤の特性を理解し、適切な輸液ルートの管理を行うことも必要です。特に3号液のように維持療法に用いられる輸液では、1日に必要な水分量である約2,000mLを投与することで、主要電解質の1日必要量を補給できるという特徴があります。
輸液療法には様々な合併症のリスクが伴うため、予防と早期発見が重要です。輸液関連感染症は最も注意すべき合併症の一つで、無菌操作の徹底とカテーテル管理が予防の基本となります。
循環器系合併症では、急速な輸液により心不全や肺水腫が発症する可能性があります。特に高齢者や心機能低下患者では、輸液速度を慎重に調整し、呼吸状態や心拍数の変化を注意深く観察する必要があります。
電解質異常も重要な合併症です。不適切な輸液選択により、低ナトリウム血症や高ナトリウム血症が引き起こされることがあります。定期的な血液検査による電解質バランスの確認が必要です。
また、血管外漏出による組織障害も避けるべき合併症です。輸液部位の発赤、腫脹、疼痛を定期的にチェックし、早期発見に努めます。
近年の研究では、従来の輸液戦略に加えてデリスサシテーション(de-resuscitation)という概念が注目されています。これは、急性期の輸液蘇生後に過剰な体液貯留を避けるため、適切なタイミングで輸液を減量・中止する戦略です。
ROSEモデル(Resuscitation、Optimization、Stabilization、Evacuation)に基づく4段階のアプローチが提唱されており、各段階で異なる輸液管理が求められます。
小児における輸液療法では、体内総水分量が成人と異なることを考慮する必要があります。出生時の体内総水分量は体重の70-80%と多く、1歳以降は成人と同様の組成になります。このような生理学的特徴を理解した上で、年齢に応じた輸液処方を行うことが重要です。
小児脱水症の輸液療法における生理学的根拠と実践的アプローチに関する最新の知見
経静脈輸液療法の適切な実施には、体液区画における水分分布の理解と脱水症の2つの臨床病態(volume depletion、dehydration)の認識が不可欠です。これらの概念を正しく理解することで、より精度の高い輸液療法を実践できるようになります。