バイタルサインは体温・脈拍・呼吸・血圧の4つを基本とし、医療従事者が患者の生命兆候を評価する重要な指標です。これらの数値測定に加えて、随伴症状の観察を行うことで、患者の全身状態をより正確に把握できます。
バイタルサインの基準値は成人の場合、体温36~37℃、脈拍60~90回/分、呼吸12~20回/分、血圧120/80mmHg未満とされています。しかし、これらの数値が基準値内であっても、随伴症状が出現している場合は注意が必要です。例えば、血圧が正常範囲内でも、めまいや冷汗などの随伴症状がある場合、循環動態の異常を疑う必要があります。
随伴症状の観察は、患者の主訴だけでなく、医療従事者が積極的に確認すべき項目です。患者自身が「主訴とは関係ない」と判断して申告しない症状でも、医学的には重要な情報となることが少なくありません。そのため、問診時には鑑別診断を念頭に置き、想定される随伴症状を具体的に尋ねることが求められます。
バイタルサインに異常が見られた際、随伴症状を系統的に確認することで、原因疾患の推測や緊急度の判断が可能になります。特に血圧異常では、随伴症状の有無が対応の緊急性を大きく左右します。
血圧が異常に高い場合、脳血管疾患では意識障害・痙攣・頭痛・嘔気嘔吐・めまい・瞳孔不同・麻痺などの随伴症状が出現します。心血管疾患では胸痛・呼吸困難・冷汗・頸静脈怒張・動悸・腹痛・背部痛などが特徴的です。これらの随伴症状を伴う高血圧は、緊急度・重症度ともに高い状態として対応する必要があります。
発熱時の随伴症状観察も重要です。気道の炎症では咳嗽・痰・胸痛が、腸管の炎症では腹痛が随伴します。感染症が疑われる場合、咳・鼻水・喉の痛みの有無、症状の出現時期、持続期間、同様の症状を呈する人が身近にいないかを確認します。
めまいの随伴症状としては、悪心・嘔吐・耳鳴り・難聴・発熱・運動失調・知覚障害などがあります。難聴や耳鳴りを伴う場合はメニエール病や突発性難聴の疑いがあり、運動失調や知覚障害がある場合は小脳梗塞など脳に問題が起こっている可能性が高く、緊急対応につなげる必要があります。
随伴症状の評価では、OPQRST法という問診技法が有効です。この方法は、O(Onset:発症様式)、P(Provocative/Palliative factor:増悪・寛解因子)、Q(Quality:性質)、R(Related symptom:随伴症状)、S(Severity:重症度)、T(Time course:経過)の6つの観点から症状を評価します。
R(随伴症状)の評価において重要なのは、患者が最も辛いと感じる症状以外の症状も確認することです。患者自身が自覚する痛みが最も辛い症状であっても、随伴症状のほうが病気の特徴を表していることがあります。そのため、疑っている疾患がある場合には、その疾患で想定される随伴症状があるか積極的に尋ねる必要があります。
バイタルサインと随伴症状を統合したアセスメントでは、まず第一印象から緊急度・重症度を判断します。意識障害・冷汗・顔面蒼白・呼吸困難などのショック徴候や痙攣を認める場合は、詳細なバイタルサイン測定以前に、患者に触れて五感を用いて観察し、ショック状態であるか判断する必要があります。
随伴症状の記録では、症状の部位・性状・程度・持続時間を詳細に記載します。例えば腹痛の場合、痛みの部位・性状・強度に加え、痛みの移動の有無・体位による症状の変化・腹部の触診所見・腸蠕動音の聴取結果も併せて評価し、緊急性の判断を行います。
バイタルサインと随伴症状の記録は、SOAP形式を用いることで系統的に整理できます。S(主観的情報)には患者や家族の訴え、O(客観的情報)にはバイタルサインや検査結果など観察したデータ、A(評価)にはSとOから患者の状態を分析した問題点、P(計画)には評価結果に基づいた具体的な看護計画を記載します。
随伴症状の記録で重要なのは、誰が見ても理解できる具体性です。「発熱」「転倒」など、何が起こったのかを端的に書くことがポイントです。看護師以外の医療関係者が見て内容を把握できる状態が望ましいため、「不明熱の原因精査中」など、客観的な表現を用いることが求められます。
医師への報告時には、バイタルサインの異常値だけでなく、随伴症状も併せて伝えることで、より正確な状態把握につながります。報告の際は、「食欲低下」「嘔吐」「顔色不良」などの随伴症状を具体的に伝え、患者の全体像が理解できるよう心がけます。
測定のタイミングも記録に含めることが重要です。運動・入浴・食事の直後は数値に影響するため避け、30分~1時間ほど経過してから測定します。毎日決まった時間帯に測定することで、活動による一時的な変化を考慮でき、日々の結果のばらつきを最小限に抑えられます。
医療従事者がバイタルサインと随伴症状を観察する意義は、治療の効果や経過を知る指標にする、病気の危険度を察知する、新たな異常を知る手段にする、緊急時には生命維持の指標とするなど、多岐にわたります。これらを見ることは、アセスメントと看護ケアの評価を行ううえで重要です。
バイタルサイン測定と随伴症状観察によって、入浴・排泄などの日常生活行動が患者の体調にどの程度の影響を及ぼすのか、患者の予備力がどの程度あるのかを知ることができます。また、個々の患者に合った看護計画を立てるための参考になるとともに、行った看護ケアの評価にもなります。
高齢者の観察では、大きな変化ではなく細かな変化に気づくことが重要です。脳疾患・心疾患・消化管出血は緊急度が高く、特に注意が必要です。また、高齢者の脱水は気づきにくい重要な疾患であり、慢性心不全のむくみ、突然の血糖異常、認知症に伴う急性疾患なども見逃してはなりません。
バイタルサインと随伴症状の観察を通して、医療従事者は患者の状態変化を早期に発見し、適切な治療や診療につなげることができます。保健師助産師看護師法において、看護師の役割は傷病者の療養上の世話や診療の補助を行うことであり、そのためにはバイタルサインチェックによって循環・呼吸機能などを日々チェックし、異常の際は医師へ早期に報告することが求められます。
処置やケアを行った後にバイタルサインと随伴症状を観察することで、数値がどのように変化したかを確認でき、提供したケアは適切であったのか、新たな処置が必要となるのかといった判断を行うこともできます。このように、バイタルサインと随伴症状の総合的な観察は、質の高い医療を提供するための基盤となる重要な業務です。
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