浸透圧利尿薬の種類と一覧:作用機序と適応症

浸透圧利尿薬には主にD-マンニトール、グリセリン、イソソルビドがあり、脳浮腫や眼圧亢進の治療に使用されます。各薬剤の特徴と適応症について詳しく解説していますが、どのような症例で使い分けるべきでしょうか?

浸透圧利尿薬の種類と一覧

浸透圧利尿薬の主要3種類
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D-マンニトール

脳圧降下・腎不全予防に使用される注射薬

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イソソルビド

脳圧降下・眼圧降下に使用される内服薬

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グリセリン

頭蓋内圧亢進・脳浮腫治療の注射薬

浸透圧利尿薬の基本的な作用機序と特徴

浸透圧利尿薬は、尿細管内の浸透圧を高く保つことによって水の再吸収を抑制し、尿量を増加させる薬物です。これらの薬剤は糸球体でろ過されて原尿中に排出されるものの、腎尿細管では再吸収されないという特徴があります。

 

通常、血漿は腎臓の糸球体でろ過されて原尿となり、原尿は尿細管を通過する過程でNa+と水の再吸収により濃縮されます。尿細管ではNa+の再吸収に伴い水が受動的に尿細管管腔側から血管側へ移動し、管腔内の浸透圧は保たれます。

 

浸透圧利尿薬が投与されると、管腔内の浸透圧が上昇し、水・Na+の再吸収を抑制して尿量を増加させます。この作用機序により、他の利尿薬とは異なる特徴的な効果を示します。

 

浸透圧利尿薬の主な特徴:

  • 腎尿細管で再吸収されない
  • 管腔内浸透圧を上昇させる
  • 水とNa+の再吸収を抑制
  • 電解質の排泄を伴わない利尿効果
  • 血液脳関門を通過しにくい

D-マンニトールの種類と臨床応用

D-マンニトールは浸透圧利尿薬の代表的な薬剤で、主に注射薬として使用されます。脳圧降下、脳容積の縮小、眼内圧降下、急性腎不全の予防と治療に適応があります。

 

市販されているD-マンニトール製剤:

  • マンニットT注15% 500mL(薬価:561円)
  • 20%マンニットール注射液「YD」 300mL(薬価:444円)
  • マンニットールS注

D-マンニトールは高張液として投与され、浸透圧を上昇させて水の再吸収を抑制します。特に脳浮腫の改善目的として用いられることが多く、脳外科手術時の脳容積縮小や頭部外傷による脳圧亢進時に重要な役割を果たします。

 

注目すべき点として、D-マンニトールは血液脳関門を通過しにくいため、脳組織への直接的な影響を避けながら脳圧を効果的に下げることができます。この特性により、術中・術後・外傷後の急性腎不全に対しても浸透圧利尿により予防および治療効果を発揮します。

 

D-マンニトールの適応症:

  • 脳圧降下・脳容積の縮小
  • 眼内圧降下
  • 急性腎不全の予防と治療
  • 脳外科手術時の脳容積縮小
  • 薬物中毒時の利尿促進

イソソルビドの種類と適応症

イソソルビドは経口投与可能な浸透圧利尿薬として広く使用されており、多様な製剤が市販されています。脳腫瘍時の脳圧降下、頭部外傷に起因する脳圧亢進時の脳圧降下、緑内障の眼圧降下、メニエール病などに適応があります。

 

市販されているイソソルビド製剤一覧:

  • イソバイドシロップ70%(薬価:2.9円)
  • イソソルビド内用液70%分包30mL「CEO」(薬価:103.9円)
  • イソソルビド内服ゼリー70%分包20g「日医工」(薬価:76.8円)
  • イソバイドシロップ70%分包30mL(薬価:83.8円)
  • イソバイドシロップ70%分包20mL(薬価:60.8円)

イソソルビドの最大の利点は経口投与が可能であることです。これにより外来患者や長期管理が必要な患者に対しても使いやすく、緑内障やメニエール病の維持療法として重要な位置を占めています。

 

イソソルビドの特徴的な適応:

  • 腎・尿管結石時の利尿促進
  • 緑内障の眼圧降下
  • メニエール病の症状改善
  • 脳腫瘍・頭部外傷による脳圧亢進

興味深いことに、イソソルビドは結石の排出促進にも使用されます。これは浸透圧利尿による尿量増加効果を利用したもので、小さな腎・尿管結石の自然排出を促進する目的で処方されることがあります。

 

グリセリン製剤の種類と使用法

グリセリン製剤は濃グリセリン・果糖として注射薬で使用され、主に重篤な脳圧亢進や脳浮腫の治療に用いられます。グリセオール注として市販されており、頭蓋内圧亢進・頭蓋内浮腫の治療に特化した製剤です。

 

グリセリン製剤の主要適応症:

  • 頭蓋内圧亢進・頭蓋内浮腫の治療
  • 脳外科手術後の後療法
  • 脳外科手術時の脳容積縮小
  • 眼内圧下降および眼科手術時の眼容積縮小
  • 脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血による意識障害・神経障害の改善

グリセリン製剤の特徴は、果糖との配合により代謝面での安全性が向上していることです。果糖は肝臓で速やかに代謝されるため、糖尿病患者においても比較的安全に使用できる利点があります。

 

また、グリセリン製剤は脳血管障害による急性期の脳浮腫に対して特に効果的とされており、脳梗塞や脳内出血、くも膜下出血患者の意識障害や神経症状の改善に重要な役割を果たしています。

 

グリセリン製剤使用時の注意点:

  • 静注時の血管痛を軽減するため緩徐投与が必要
  • 血糖値への影響を考慮した投与量調整
  • 脱水症状の監視が重要
  • 心不全患者では慎重投与

浸透圧利尿薬の副作用と注意点における臨床判断

浸透圧利尿薬の使用において最も注意すべき副作用は脱水です。これは浸透圧利尿による過度な水分喪失が原因で、特に高齢者や腎機能低下患者では重篤な脱水症状を引き起こす可能性があります。

 

主な副作用と対策:

  • 脱水:定期的な水分バランスの確認と適切な補液
  • 電解質異常:血中電解質濃度の定期的監視
  • 循環血液量減少:血圧・心拍数の継続的監視
  • 腎機能悪化:クレアチニン値の追跡

興味深い臨床的観察として、浸透圧利尿薬は他の利尿薬と異なり電解質の排泄を伴わない利尿を引き起こします。このため、血中の電解質濃度が高まる傾向があり、高ナトリウム血症や高カリウム血症のリスクが増加します。

 

臨床における使い分けの判断基準:

  1. 急性期脳圧亢進 → D-マンニトール(即効性重視)
  2. 慢性期眼圧管理 → イソソルビド(経口投与可能)
  3. 重篤な脳浮腫 → グリセリン製剤(代謝安全性)

また、これらの薬剤は他の利尿薬(ループ利尿薬サイアザイド系利尿薬、カリウム保持性利尿薬、バソプレシンV2受容体アンタゴニスト)とは作用機序が根本的に異なるため、併用時には相互作用や副作用の重複に注意が必要です。

 

投与前の必須確認事項:

  • 腎機能(クレアチニン、BUN)
  • 心機能(特に心不全の既往)
  • 電解質バランス(Na、K、Cl)
  • 循環血液量の状態
  • 血糖値(糖尿病患者の場合)

浸透圧利尿薬の適切な使用により、重篤な病態における生命予後の改善が期待できますが、副作用への十分な注意と適切な監視体制が治療成功の鍵となります。

 

浸透圧利尿薬の詳細な薬理学的解説 - 日本薬学会