わきが(腋臭症)のにおいは「汗そのもの」ではなく、腋窩で分泌された成分が皮膚常在菌などにより分解・変化して強いにおいとして認識される、という理解が指導の土台になります。
重曹わきが対策が話題になる背景には、「におい成分が酸性寄りならアルカリで中和できるのでは」という発想があり、実際に“においをやわらげる”目的で重曹水を紹介する医療機関系の解説も見られます。
一方で、患者が「重曹で治る」と誤解すると、受診や標準的治療(制汗や抗菌など)の開始が遅れ、QOL低下が長引きやすい点が臨床的な落とし穴です。
医療従事者としては、腋臭症は体質(遺伝的背景を含む)に左右され、汗や皮脂の分泌を根本から止めない限り“完治”は難しい、という説明を先に置くとトラブルが減ります。
重曹は弱アルカリ性で、酸性のにおいを中和する・においを軽減する、といった説明が一般向けに多く、重曹水スプレーや入浴への少量添加が例として挙げられます。
ただし「腋臭症を治す効果はない」「一時的ににおいを抑える範囲」と明確に述べる美容医療側の解説もあり、臨床コミュニケーションでは“限界”をセットで伝える必要があります。
においが弱まったように感じるケースは、(1)皮脂や角質が落ちて基材が減る、(2)アルカリ寄りの環境変化で細菌活性が変わる、(3)衣類側の皮脂汚れ処理で残臭が減る、など複合要因が現実的です。
患者に対しては「汗を止める=制汗」「菌を抑える=抗菌」「基材(皮脂・角質)を減らす=洗浄」のどこに作用しているのかを分けて説明すると、重曹への過剰期待が下がり、治療選択の合意形成がしやすくなります。
重曹は皮脂汚れを分解しやすい反面、皮膚に直接塗布すると刺激が強く、肌荒れや皮膚トラブルにつながる可能性がある、という皮膚科系の注意喚起があります。
「弱アルカリ性で皮脂を落とす」という性質は、使いすぎると必要な皮脂まで奪って乾燥しやすくなるため、赤み・ヒリつき・かゆみが出た場合は中止し、炎症が続くなら受診を勧めるのが安全です。
特に腋窩は摩擦・剃毛・制汗剤の重ね塗りが起きやすい部位で、接触皮膚炎の背景が重なると症状が増悪しやすいので、「毎日」「濃い」「こする」は避ける指導が重要です。
入浴での重曹使用についても、入れ過ぎはアルカリ性が強くなり肌荒れの可能性がある、浴槽200Lに対し大さじ1〜3杯程度が目安、という注意点が示されています。
セルフケアとして紹介されがちな方法は、重曹を水に溶かしたスプレー(乾燥したワキに使用、こまめに塗布)や、浴槽に重曹を入れる重曹風呂です。
一方で、重曹の“外用”は濃度・頻度・摩擦で刺激性が変わるため、医療従事者としては「まず低頻度・低刺激で試す」「異常があれば即中止」「傷・炎症部位には使わない」を明文化しておくと事故が減ります。
患者が見落としやすいのが衣類側の残臭と黄ばみで、汗や皮脂が蓄積した衣類はにおいの温床になります。
黄ばみ・残臭対策として、重曹を使ったつけ置きや洗浄が有用とされる解説があるため、皮膚に塗るより衣類ケアに寄せて提案するのは実務的に安全寄りの選択肢です。
参考:腋臭症の標準的な診療の考え方(診断・治療選択のCQ、デオドラントや腋毛処理の位置づけ)
https://jsprs.or.jp/docs/guideline/keiseigeka7.pdf
検索上位の記事は「効く・効かない」「作り方」に寄りがちですが、医療現場で重要なのは、重曹で一時的にしのいでいるうちに腋窩の刺激性皮膚炎を作ってしまい、結果的に“しみるから洗えない・塗れない”状態に落ち込むケースを防ぐことです。
腋窩の皮膚炎が起きると、患者はデオドラントや制汗剤を自己中断しがちで、におい不安が増幅し、過剰洗浄→さらに悪化、という循環に入りやすくなります。
このときの実務的な声かけは、「重曹は治療ではなく補助」「まず皮膚を荒らさない」「困りごとの主は“におい”か“汗”かを分ける」の3点で、患者の自己対処を整理できます。
汗が主訴なら、多汗症のガイドラインに沿った治療(外用・注射など)へつなげるほうが合理的で、においへの不安も同時に下がりやすい、という導線を作れます。
また「重曹を塗って悪化した」患者には、責めるのではなく、刺激が出やすい方法だったと説明し、衣類洗浄など皮膚外の対策へ切り替える提案が実装しやすいです。
最後に、セルフケアの範囲で改善が乏しい・生活支障が大きい場合は、医療機関での治療選択肢(保存的治療から侵襲的治療まで)を提示すること自体が心理的負担を減らします。