過強陣痛は、陣痛が異常に強くなる状態で、正常な分娩経過を阻害する重要な産科合併症です 。正常分娩では子宮口が4~6cmの時の陣痛周期はおよそ3分間隔ですが、過強陣痛では1分30秒以内になるなど、陣痛の周期に明らかな異常が現れます 。
参考)https://medicalnote.jp/diseases/%E9%81%8E%E5%BC%B7%E9%99%A3%E7%97%9B
具体的な症状としては、子宮内の圧力が上昇し、陣痛の周期が短くなり、陣痛が持続する時間が異常に長くなることが特徴的です 。これらの症状のうち1つでも認められた場合、過強陣痛と診断されます 。
参考)https://doctors-me.com/disease/3996
さらに、体型の痩せた妊婦では、お腹に帯状のくびれ(収縮輪)が見えることがあり、これは子宮の上部と下部の境目に現れる過度な子宮収縮の重要なサインとなります 。30分程度の観察で平均して10分間に5回を超える収縮(頻収縮)が見られることも、過強陣痛を疑う重要な所見です 。
参考)https://medicaldoc.jp/cyclopedia/disease/d_female/di1711/
過強陣痛の主な原因として、子宮収縮促進薬(陣痛促進剤)の使用が挙げられます 。現在は産科診療ガイドラインに沿った適切な使用方法が推奨されていますが、薬剤に対する体質的な過敏性や投与量の調整が不十分な場合に過強陣痛が発症する可能性があります 。
産道の抵抗が大きくなりすぎる場合も過強陣痛の原因となり、児頭骨盤不均衡、軟産道強靭、胎位・胎勢の異常、回旋異常などが挙げられます 。これらの要因により、子宮が赤ちゃんを出そうとして過剰に収縮することで過強陣痛が発生します 。
その他の原因として、狭い骨盤、精神的な興奮や自律神経の不安定、常位胎盤早期剥離なども過強陣痛のリスク要因として知られています 。これらの要因は単独で起こることもあれば、複数の要因が重なって起こることもあります 。
過強陣痛は胎児にとって極めて深刻な影響を与える可能性があります。過度な子宮収縮により、胎児は強い圧力にさらされ、酸素不足(低酸素状態)となり、胎児機能不全の状態に陥ることがあります 。
参考)https://www.avance-lg.com/customer_contents/iryou/sanka/jintsusokushinzai-akachan-eikyou/
胎児機能不全が発症すると、胎児心拍数の低下として現れ、重度の場合は脳性麻痺などの重篤な後遺症を残すリスクが高まります 。過強陣痛による強い圧迫が持続すると、子宮胎盤循環障害や臍帯圧迫により、胎児の酸素供給がさらに制限されます 。
参考)https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1409902037
極端な場合には、胎児仮死や子宮内胎児死亡に至ることもあり、新生児の脳性麻痺の原因となることが報告されています 。そのため、分娩監視装置による持続的な胎児心拍数陣痛図のモニタリングが不可欠です 。
過強陣痛の治療において最も重要なのは、迅速かつ適切な対応です。子宮収縮促進薬を使用している場合は、まず促進薬を中止することが最優先となります 。薬剤の使用を停止すれば過強陣痛が改善することも多く、母体や胎児の状態に大きな問題がなければ、促進薬を使用せずに自然な陣痛で分娩を継続できます 。
しかし、薬剤を中止してもお母さんの血中には薬の成分がしばらく残るため、すぐに過強陣痛がおさまらないこともあります 。このため、胎児機能不全が認められたり、母体の状態が悪化している場合には、促進薬を中止した上で子宮収縮抑制薬を点滴投与することがあります 。
より緊急の場合、特に胎児機能不全が長く続いている場合、胎児心拍数の低下が持続する場合、子宮破裂の疑いがある場合などには、上記の対応を行った上で緊急帝王切開術を実施します 。過強陣痛による母体への影響として軟産道の裂傷、弛緩出血、さらには子宮破裂などの重篤な合併症が生じる可能性があるため、迅速な対応が生命を救うことにつながります 。
参考)https://www.hashi-sanfu.com/tidbits/post284/
過強陣痛の予防において最も重要なのは、適切な分娩管理と十分な監視体制の確立です。陣痛促進剤の使用時には、産科診療ガイドラインに沿った投与方法を厳格に守ることが不可欠で、個人の感受性の違いを考慮し、ごく少量から開始し、陣痛の状況により徐々に増減することが重要です 。
参考)https://www.pmda.go.jp/files/000219118.pdf
分娩監視装置を用いた胎児心拍数と子宮収縮状態の持続的なモニタリングは、過強陣痛の早期発見と適切な対応のために欠かせません 。分娩第1期では15分間隔、第2期では5分間隔での評価が推奨されており、2時間ごとに血圧と脈拍数のチェックも必要です 。
参考)https://www.jaog.or.jp/lecture/6-%E5%AD%90%E5%AE%AE%E9%A0%BB%E5%8F%8E%E7%B8%AEtachysystole%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6/
妊娠中の管理として、児頭骨盤不均衡や胎位異常などのリスク要因を早期に発見し、適切な分娩方法を選択することも重要な予防策です 。また、精密持続点滴装置を用いた正確な薬剤投与や、プロスタグランジン製剤との適切な間隔をあけた投与なども、過強陣痛の予防に有効です 。
過強陣痛には確立された予防法はないため、症状が現れた時点での迅速で適切な対処により合併症を最小限に抑えることが重要であり、医療従事者による十分な説明と同意のもと、安全な分娩管理を行うことが求められます 。