カルテの家族歴を「特記なし」と書くだけで、訴訟で過失を認定された判例が実在します。
家族歴とは、患者の血縁者が過去または現在に抱えている疾患の情報を指します。カルテにおいては、現病歴・既往歴と並ぶ重要な基礎情報です。
一般的なカルテ記載では、三親等程度までの血縁者を対象とするのが原則です。 ただし遺伝性疾患が疑われる場合は、少なくとも3世代分の詳細な記録が求められます。 johboc(https://johboc.jp/guidebook2017/toc/1index/1-2/)
三親等とは具体的に、父母(一親等)・祖父母・兄弟姉妹(二親等)・曾祖父母・叔伯父母・甥姪(三親等)を指します。 これだけで人数にすると10名以上に上ることも珍しくありません。 daylight-law(https://www.daylight-law.jp/inheritance/third-degree-kinship/)
三親等が基本です。
記載すべき共通情報としては、以下が挙げられます。 ilacy(https://www.ilacy.jp/healthcare/post_200124.html)
診断精度に直結する情報ばかりです。これらを漏れなく記録することが、その後の診療方針を左右します。
実際のカルテ記載では、SOAP形式のS(主観的情報)欄に家族歴を含めるか、または独立した「家族歴」欄に記載する方式が一般的です。 igaku-shoin.co(https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2012/PA02989_04)
具体的な記載例として、「父:高血圧(60代発症)、心筋梗塞にて78歳死亡/母:2型糖尿病(50代発症)、健在」のように、続柄・疾患名・発症年齢・現在の状況をセットで書くことが推奨されます。 igaku-shoin.co(https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2012/PA02989_04)
「兄が高血圧、心疾患なし」というシンプルな例も教科書では示されています。 こうした一文でも、続柄・疾患・否定情報の3要素が揃っている点がポイントです。 igaku-shoin.co(https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2012/PA02989_04)
つまり「疾患の有無と続柄」がセットで必須です。
「特記なし」や「なし」だけの記載は原則NGです。なぜなら、実際に聴取したのか、聴取したが情報がなかったのかが区別できないためです。「聴取不能(患者の記憶なし)」「情報提供拒否」など、聴取した事実を明示する形にしましょう。
また、情報源の記録も重要です。「患者本人より聴取」「家族より聴取」「○年○月確認」といった付記があると、カルテとしての信頼性が格段に上がります。 johboc(https://johboc.jp/guidebook2017/toc/1index/1-2/)
| 記載パターン | 内容例 | 評価 |
|---|---|---|
| ❌ 不十分 | 家族歴:なし | 聴取したかどうか不明 |
| ❌ 不十分 | 家族歴:特記事項なし | 同上、法的リスクあり |
| ✅ 適切 | 父:高血圧60代~、母:健在、兄弟:なし(本人より聴取) | 続柄・疾患・情報源が明確 |
| ✅ 遺伝性疾患 | 3世代家系図+各疾患発症年齢・死因を付記 | 遺伝リスク評価に対応 |
医療現場でカルテの家族歴記載が軽視されがちですが、実は法的証拠としての重みは極めて大きいです。
裁判では「カルテに記載された事実はあったこと、記載のない事実はなかったこと」として推定される傾向があります。 東京地判平成15年11月28日の判決でも、「診療録の記載に従って診療経過が認定される」と明示されています。 iryojikokenkyuukai.cocolog-nifty(http://iryojikokenkyuukai.cocolog-nifty.com/blog/2023/06/post-8248c2.html)
これは痛いですね。
つまり、家族歴を聴取していても「書き忘れた」だけで、「聴取しなかった」と判断されるリスクがあります。 例えば家族に大腸がんがあると患者から聞いていたのに記載がなければ、適切なスクリーニング指示を怠ったとして過失を問われる可能性があります。 doctor-agent(https://www.doctor-agent.com/service/medical-malpractice-Law-reports/2023/vol243)
医療訴訟においてカルテは主要な証拠です。 証拠保全の観点からも、家族歴の記載は「後から追記できない形」で記録されることが求められます。電子カルテでは記載日時・修正履歴が自動記録されるため、後から改ざんすることはほぼ不可能です。 songai-nagasesogo(https://songai-nagasesogo.com/column/995/)
記載は1回で完結させるのが原則です。
johboc(https://johboc.jp/guidebook2017/toc/1index/1-2/)
参考:カルテ記載と医療訴訟上の証拠としての位置づけについては以下が詳しいです。
遺伝性疾患が疑われるケースでは、通常の文章形式の家族歴だけでは情報量が不足します。家系図(ジェノグラム・ペディグリー)の作成が強く推奨されます。 johboc(https://johboc.jp/guidebook2017/toc/1index/1-2/)
家系図の基本記号は国際的に統一されています。 vintage.ne(https://vintage.ne.jp/blog/2023/10/306)
少なくとも3世代分の記載が望ましいです。 johboc(https://johboc.jp/guidebook2017/toc/1index/1-2/)
特にHBOC(遺伝性乳癌卵巣癌症候群)や大腸がんなど、遺伝リスクが高い疾患では、発症年齢・片側/両側の別・治療歴まで記入する必要があります。 odori-clinic(https://odori-clinic.com/column/kisyou/)
意外な落とし穴があります。遺伝情報の共有度を示す「第1度近親者・第2度近親者」という概念は、法律上の「1親等・2親等」とは異なります。 たとえば「叔父・叔母」は法律上3親等ですが、遺伝情報の観点では第2度近親者に分類されます。この違いを混同すると、リスク評価が不正確になります。 johboc(https://johboc.jp/guidebook_g2022/q13/)
これは意外ですね。
家系図作成のポイントとして、「いつ・どこで・誰が・誰から得た情報か」を記録することが不可欠です。 家族の状況は変化するため、年1回程度の見直しも推奨されています。ジェノグラムには必ず作成日を記入しましょう。 crc-japan(https://www.crc-japan.net/wp-content/uploads/2021/03/genogram_202204.pdf)
参考:遺伝性腫瘍における家系図記載の詳細は以下が権威ある情報源です。
総論2.家族歴聴取と家系図記載法|JOHBOC(日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構)
多くの医療従事者が「家族歴は初診時に1回聴けばよい」と考えがちです。しかし、これが診断の見落としを生む原因になることがあります。
家族の状況は常に変化します。 初診時に「家族に大腸がんなし」と記載されていても、その後親族が発症することは珍しくありません。大腸がんには家族歴が強く関連することが研究で明らかになっており、一親等に大腸がんがある場合は発症リスクが約2〜3倍に上昇するとされています。 crc-japan(https://www.crc-japan.net/wp-content/uploads/2021/03/genogram_202204.pdf)
定期的な更新が条件です。
実践的なポイントを整理すると、以下の通りです。
johboc(https://johboc.jp/guidebook2017/toc/1index/1-2/)
johboc(https://johboc.jp/guidebook2017/toc/1index/1-2/)
また、がんの種類によっては発生部位(片側か両側か、部位の詳細)が遺伝リスク判定に直結します。 単に「乳がん」と書くだけでなく、「右乳がん・40代発症」のような具体性が求められます。 hosp.iwate-med.ac(https://www.hosp.iwate-med.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2019/12/fh_ws_clin_genet_20190729.pdf)
これは使えそうです。
電子カルテの運用では、家族歴専用の入力フォームやチェックリストを活用すると記載漏れを防ぎやすくなります。施設によっては患者自身が記入する「家族歴記入用紙」を事前配布し、それをスキャンして電子カルテに取り込む方式も採用されています。 w3hosp.med.nagoya-cu.ac(https://w3hosp.med.nagoya-cu.ac.jp/media/kakeizu.pdf)
参考:患者向けの家族歴記入用紙の具体例が以下で確認できます。