収縮期血圧は、左心室が収縮して大動脈弁が開き、血液が大動脈へ押し出されるときに生じる最高血圧値です。英語では「Systolic Blood Pressure」と呼ばれ、一般的に「上の血圧」として親しまれています。
この血圧値は主に以下の要因を反映しています。
収縮期血圧の特徴として、年齢とともに上昇する傾向があります。これは血管が年齢とともに老化し、弾力性を失うためです。特に高齢者では「孤立性収縮期高血圧」と呼ばれる、収縮期血圧のみが高く拡張期血圧が正常または低い状態が多く見られます。
運動時には収縮期血圧は上昇しますが、拡張期血圧は上昇しないという特徴的な反応を示します。これは運動による心拍出量増加と血管拡張効果のバランスによるものです。
拡張期血圧は、心臓が拡張して次の収縮に備えている間の血管内の最低血圧値です。英語では「Diastolic Blood Pressure」と呼ばれ、「下の血圧」として知られています。
拡張期血圧が主に反映する要因は以下の通りです。
興味深いことに、拡張期血圧は収縮期血圧と比べて年齢による変化が少なく、中年期以降は緩やかに低下する傾向さえ見られます。これは血管の構造的変化と血行動態の変化によるものです。
拡張期血圧の上昇は、心臓から遠い細い血管(末梢血管)が動脈硬化により硬くなることで起きます。特に若年者では拡張期血圧優位の高血圧が見られることが多く、肥満、運動不足、喫煙者などで認められます。
血圧測定は通常、上腕動脈で行われ、聴診法が標準的な方法として用いられています。測定プロセスは以下の手順で進行します:
測定手順。
正確な測定のための条件。
高血圧治療ガイドライン2019では上腕式血圧計の使用を推奨しており、家庭血圧測定では朝と夜の1日2回測定が推奨されています。
収縮期血圧と拡張期血圧は、それぞれ異なる疾患リスクと関連があります。
収縮期血圧上昇時の関連疾患。
収縮期血圧の上昇は、動脈壁に継続的な負担をかけ、動脈硬化を促進させます。心臓が高い圧力に対抗して血液を送り出し続けることで、心筋が厚くなる心肥大が生じる可能性があります。
拡張期血圧上昇時の関連疾患。
拡張期血圧のみが高い場合、末梢血管の動脈硬化はあるが、太い血管の弾力性は保たれていることが考えられます。しかし、加齢とともに大動脈の動脈硬化も進展すると、収縮期血圧の上昇とともに拡張期血圧は相対的に低下し、最終的に収縮期優位の高血圧へと変遷していきます。
血圧管理において重要なのは、高血圧の診断基準である収縮期血圧140mmHg、拡張期血圧90mmHg以上という値を参考にしながら、個々の患者の病態に応じた適切な治療戦略を立てることです。
現代の高血圧管理では、収縮期血圧と拡張期血圧の特性を理解した個別化医療が重要となっています。従来の一律的な治療方針から、患者の年齢、合併症、血圧パターンに応じたテーラーメイド治療への転換が求められています。
年齢別血圧管理戦略。
脈圧(収縮期血圧と拡張期血圧の差)も重要な指標です。脈圧の拡大は動脈硬化の進行を示唆し、心血管イベントのリスク予測因子となります。
生活習慣改善による血圧管理。
近年の研究では、家庭血圧測定データを活用したデジタルヘルス技術の導入も進んでおり、患者の血圧パターンを詳細に分析することで、より精密な治療調整が可能になってきています。
二次性高血圧の鑑別においても、収縮期・拡張期血圧の比率や変動パターンが診断の手がかりとなることが多く、内分泌疾患や腎血管性高血圧の早期発見につながる重要な情報源となっています。
医療従事者として、これらの知識を臨床現場で活用し、患者一人ひとりに最適な血圧管理を提供することが、心血管疾患の予防と患者のQOL向上につながるのです。