拡張期血圧は、心臓が拡張して次の収縮に備えている間の血管内の最低血圧を表します。この血圧値は、主に末梢血管抵抗と血管の弾性を反映しており、医療従事者にとって重要な循環動態の指標となります。
心臓の拡張期には、大動脈弁が閉鎖し、心室が弛緩して血液が充満している状態となります。この時期、大動脈に貯留した血液は、血管の弾性復元力による収縮で末梢に押し流され、この血流によって生じる血圧が拡張期血圧です。
拡張期血圧が高くなる主な要因として以下が挙げられます。
拡張期血圧のみが高い場合、末梢血管の動脈硬化は進行しているものの、太い血管の弾力性は保たれている状態が考えられ、特に肥満、運動不足、喫煙者、若年者の二次性高血圧などが原因として予想されます。
収縮期血圧は、心臓が収縮して血液を全身に送り出すときに血管壁にかかる最高圧力を表します。一般的に「最高血圧」や「上の血圧」と呼ばれ、心機能の評価において極めて重要な指標です。
収縮期には、左室が収縮して大動脈弁が開き、血液が左室から大動脈へ押し出されることで動脈壁が膨らみ、この際に生じる血圧が収縮期血圧となります。心電図との関係では、Rの頂点からT波の終わり付近までが心室の収縮期に相当します。
収縮期血圧は以下の要因によって決定されます。
年齢とともに収縮期血圧が上昇することは自然な現象ですが、高血圧を放置すると脳血管障害や心疾患を誘発するリスクが高まります。
収縮期血圧と拡張期血圧の差を「脈圧」と呼び、これは循環器診療において血管状態や心機能を評価する重要な指標となります。正常な脈圧は一般的に30-40mmHg程度とされています。
脈圧の変化は以下のような病態を示唆します。
高血圧の経過では、最初は拡張期血圧優位の高血圧となり、加齢と共に大動脈の動脈硬化が進展すると収縮期血圧の上昇と共に収縮期血圧も増加し、最終的に収縮期優位の高血圧へと変遷します。
心周期は収縮期と拡張期に区分され、各時相における血行動態の理解は循環器疾患の病態把握に不可欠です。心周期全体の約3分の2が拡張期充満時相であり、心拍数が増加すると拡張期が短縮し、心室充満が制約されて心拍出量が制限されます。
収縮期の詳細な血行動態。
収縮期は等容性収縮期と駆出期に分けられます。心室圧の早期上昇と房室弁の閉鎖から始まり、心室圧が大動脈圧を上回ると大動脈弁が開放し、心室から動脈系への血液駆出が開始されます。
拡張期の複雑な血行動態。
拡張期は等容性弛緩期と充満期に区分されます。大動脈弁の閉鎖と共に拡張期が開始し、心室圧が心房圧以下に下降すると房室弁が開放して心室への充満が始まります。
拡張機能の評価には以下の要素が重要です。
血圧測定は医療従事者の基本技術ですが、拡張期と収縮期血圧の正確な測定と解釈には専門的な知識が必要です。高血圧の診断基準は収縮期血圧140mmHg以上または拡張期血圧90mmHg以上ですが、最近の研究では従来の基準より低い値から心血管イベントのリスクが増加することが報告されています。
測定時の重要なポイント。
特殊な病態での注意点。
妊娠高血圧腎症では、収縮期高血圧が中枢神経系合併症に、拡張期高血圧が HELLP症候群関連合併症に関連することが報告されており、妊産婦の血圧管理では両者の異なる臨床的意義を理解する必要があります。
また、左心不全を伴う肺高血圧においては、拡張期圧較差(DPG)が肺微小血管障害を反映し、右室機能と関連するため、心エコー検査と併せた総合的な評価が重要となります。
家庭血圧測定の普及により、収縮期・拡張期血圧の継時的変化を把握できるようになり、白衣高血圧や仮面高血圧の診断、薬剤効果の判定に有用な情報を提供しています。医療従事者は患者への適切な測定指導と、得られたデータの正確な解釈能力を身につけることが求められています。