肝癌の手術療法は最も根治性の高い治療法として位置づけられています。手術適応の決定には、Child-Pugh分類による肝機能評価が重要な指標となります。
Child-Pugh分類AまたはBで、がんが肝臓内にとどまっている場合には以下の治療選択肢があります。
系統的肝切除では腫瘍に最も近い門脈の流れる領域を切除し、肝部分切除では肝組織をできるだけ温存します。近年では腹腔鏡下肝切除やロボット支援下肝切除も導入され、患者の負担軽減と早期回復を実現しています。
小さな肝細胞癌に対する外科手術とラジオ波焼灼術を比較した日本の多施設ランダム化比較試験(SURF試験)では、3cm以下の小径肝癌において両治療の長期成績が同等であることが示されました。このため現在では、穿刺可能な小径病変に対してはラジオ波治療が積極的に推奨されています。
進行肝癌に対する薬物療法は近年大きく進歩し、免疫チェックポイント阻害薬と血管新生阻害薬の併用が第一選択となっています。
現在使用されている主要な薬剤には以下があります。
レンバチニブを用いた日本の実臨床データでは、MTT未治療患者でALBI grade 1または修正ALBI 2aかつBCLC stage Bの患者群において、全生存期間中央値25.3ヶ月、無増悪生存期間中央値12.3ヶ月という良好な成績が報告されています。
肝関連有害事象の発生が生存期間と有意に関連しており(HR 2.74, 95% CI 1.93-3.88, p<0.0001)、適切な副作用管理が治療成功の鍵となります。
**肝動脈化学塞栓療法(TACE)**は、鼠径部または上肢の動脈からカテーテルを挿入し、肝動脈まで進めて細胞障害性抗がん薬と塞栓物質を注入する治療法です。
TACEの治療メカニズム。
TACE不応・不適の判断基準として、以下が設定されています:
これらの条件に該当する場合は、薬物療法への治療変更が推奨されます。TACEの治療効果を最大化するためには、患者の肝機能や腫瘍の血管構築を詳細に評価し、適切なタイミングで治療を実施することが重要です。
近年の肝癌治療における免疫療法の導入は治療選択肢を大きく拡大させました。免疫チェックポイント阻害薬の登場により、進行肝癌患者の予後は著明に改善されています。
免疫療法の作用機序。
アテゾリズマブとベバシズマブの併用療法では、従来のソラフェニブと比較して有意な生存期間の延長が認められています。しかし、治療反応性を予測するバイオマーカーは確立されておらず、個別化医療の実現が今後の課題となっています。
FGF401とスパルタリズマブの併用による第1/2相試験では、新たな治療標的としてFGF(線維芽細胞増殖因子)経路の阻害と免疫療法の組み合わせが検討されており、バイオマーカー選択患者での有効性が期待されています。
最新の研究では、従来の治療法を超える革新的なアプローチが開発されています。**声動力療法(SDT)**は、声敏剤と低強度聚焦超音波を組み合わせた新しい治療法として注目されています。
声動力療法の特徴。
ナノメディシンを用いた薬物送達システムも有望な治療戦略です。肝標的化リガンドで修飾されたナノ粒子により、薬物の肝臓特異性と生体利用率を向上させることができます。
また、ウリナスタチンとデクスメデトミジンの併用による肝虚血再灌流障害の予防効果も報告されており、肝切除術の安全性向上に寄与しています。この併用療法は酸化ストレスと炎症反応に対する相乗効果により、周術期の肝障害を軽減し、術後回復を促進します。
これらの新規治療法は現在も臨床前研究段階ですが、将来的には肝癌治療の選択肢をさらに拡大する可能性があります。医療従事者としては、これらの最新動向を把握し、個々の患者に最適な治療戦略を提供することが求められています。