ネリプロクトの「販売中止」について、まず医療従事者として優先すべきは、公式に確認できる事実と、現場で語られがちな推測を切り分けることです。販売元・製造販売元名義の案内では、製造販売中止の理由は「諸般の事情」とされ、背景の詳細は記載されていません。したがって、患者やスタッフから「なぜ?」と問われたときに、個別の不祥事や安全性問題を断定的に語らないのが安全です(説明は“公式文書の範囲に限定”する)。
一方で「諸般の事情」という表現は、現場の説明としては不親切に感じられます。ここで重要なのは、理由の“推定”よりも、切替えによる不利益(症状再燃、自己中断、OTC自己判断、受診離脱)を最小化する運用を整えることです。具体的には、次の3点が実務上の軸になります。
・患者が困っている症状(痛み・出血・腫れ・かゆみ)の優先順位を確認する。
・肛門内か外か(外用中心か、坐剤が必要か)を確認する。
・ステロイドを含む処方の継続可否(短期集中か、長期回避か)を、疾患の重症度と既往を踏まえて判断する。
意外と見落とされるのが、「販売中止=直ちに危険だから中止」ではない可能性です。公式文書に安全性アラートや回収の記載はなく、あくまで製造販売中止の案内であるため、説明も“供給・制度・運用の話”として落ち着いて組み立てる方が、過度な不安喚起を避けられます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11776077/
販売中止の案内では、ネリプロクト軟膏・坐剤は「2023年3月をもって販売を中止」とされ、あわせて経過措置期間が「2023年3月末まで」と明記されています。
さらに「2023年4月1日以降は保険請求の対象外」との注意書きがあり、ここが処方運用に直結します。
また別の案内では、特約店卸への出荷終了時期が「2023年1月末を予定」、薬価削除の経過措置期間は「2023年3月末までを予定」と記載されています。
つまり、現場が混乱しやすいポイントは次のズレです。
・出荷(流通)停止の目安:2023年1月末予定(ただし流通在庫で前後)。
・薬価削除の経過措置:2023年3月末まで予定。
・保険請求対象外:2023年4月1日以降。
参考)循環器疾患におけるコンピュータ支援手術および関連技術の現況
このタイムラインを把握しておくと、患者への伝え方が具体化します。例えば「もう無いです」ではなく、「在庫状況で入手性が落ちる時期があるので、早めに代替へ切替えましょう」「保険請求の期限があるので、同じ薬を続ける設計はできません」と説明できます。
なお、こうした“制度と供給の二重の期限”は、薬局側の在庫・請求、クリニック側の再診間隔設計(何週間分を出すか)、患者側の受診タイミングに連鎖します。痔疾患は羞恥心で受診が遅れやすく、切替えの説明が曖昧だと「じゃあ治ったことにする」と自己中断が起きやすいので、期限を数字で伝えるのが有効です。
公式文書では、代替品(同種同効薬)として「ボラザG軟膏・ボラザG坐剤」「強力ポステリザン(軟膏)」が明示されています。
医療従事者向けの記事では、この“公式に列挙された代替”をまず提示するのが、もっとも誤解が少なく安全です。
代替選定は「同じ成分かどうか」だけでなく、症状の柱と剤形で決まります。ネリプロクトを使っていた患者は、しばしば“痛みが強い”“腫れてつらい”“出血が気になる”など、いくつかの症状を同時に抱えています。そこで、外用(軟膏)か肛門内投与(坐剤)か、日中の活動に影響する痛みか、排便時の痛みか、どこが最も生活を邪魔しているかを短時間で聞き出すのがコツです。
患者説明では、次の言い換えが役立ちます(説明の筋道が同じでも、言葉の選び方で納得感が変わります)。
・「同じ薬が無い」→「同じ効き方に近い薬へ“治療の軸”を維持して切替える」
・「販売中止だから仕方ない」→「保険請求の期限があるので、いまの症状に合う選択肢へ最適化する」
・「代替はこれ」→「候補は複数あるので、症状と使い方で一緒に決める」
参考:販売中止・経過措置・代替品の公式案内(時期、保険請求対象外の注意、代替品の列挙が確認できます)
LTLファーマ:ネリプロクト軟膏・坐剤 製造販売中止および経過措置期間に関するご案内(PDF)
参考:出荷終了予定(2023年1月末予定)と薬価削除の経過措置(2023年3月末予定)の記載が確認できます
製造販売元/販売元:ネリプロクト軟膏、坐剤 製造販売中止のお知らせ(PDF)
公式案内に「2023年4月1日以降は保険請求の対象外」と明記されているため、処方を“同一薬で引っ張る”運用が難しくなる点が最大の実務ポイントです。
ここを曖昧にすると、患者は「また同じのを出してもらえる」と思い込み、期限を過ぎてから来院してトラブルになりがちです。
医療機関・薬局の連携でやっておくと良い実務対応を、医療従事者向けに具体化します。
・電子カルテや薬歴に「ネリプロクト販売中止(保険請求期限あり)」の注意コメントをテンプレ化する。
・再診間隔が空きがちな患者(症状が軽快すると来ない層)には、切替えの必要性を“次回ではなく今回”説明する。
・院内掲示や薬局の説明カードで「薬が変わる理由=制度・供給の問題」を短文化し、窓口で説明のばらつきを減らす。
また、痔疾患は“受診しにくい”という心理的障壁があり、薬が変わるタイミングで治療中断が起きやすい領域です。ここで有効なのが、症状評価を数値化する聞き取りです。例えば「痛み0〜10」「出血は紙につく/便器が赤い/ポタポタ」「排便後に何分つらいか」など、患者が恥ずかしさを越えて伝えやすい質問に変換すると、切替え後の評価も揃います。
検索上位の記事は「販売中止の理由」「代替薬」の説明に寄りがちですが、医療従事者の現場では“疾患教育(受診の目安)”まで一緒に設計すると、切替え時の満足度が上がります。ネリプロクトのような処方薬が無くなった局面では、患者がOTCへ流れる、または「痔=市販薬で十分」と自己判断する動きが起きやすいからです。
そこで独自視点として、販売中止をきっかけに「痔の重症度と受診目安」を短くセットで伝える運用を提案します。例えば次のように、患者が行動に移しやすい言い方にします。
・便器が赤くなる出血、貧血症状(ふらつき)がある → 早めに受診。
・強い痛みで座れない、発熱、急な腫れ → 早急に受診。
・数日〜1週間で改善が乏しい、再発を繰り返す → 診断の付け直し(裂肛/痔核/皮膚炎/感染など)を検討。
この“疾患教育を一枚足す”だけで、単なる銘柄変更よりも、患者は「治療が前に進んだ」と感じやすくなります。公式文書が「諸般の事情」としか言えない以上、現場の価値は「次に何をすればよいか」を具体化する点にあります。
さらに供給変動がある領域では、患者に「薬が変わる可能性」を事前に共有しておくことも、クレーム予防になります。今回のように、出荷終了予定(2023年1月末予定)と経過措置(2023年3月末予定)が示されている場合、患者の受診タイミングによって“同じ薬を確保できる/できない”が変わりえます。
だからこそ「今の症状に合わせた“治療方針”は維持しつつ、入手性に応じて薬剤を調整する」と説明しておくと、次回以降の切替えもスムーズです。