ネリプロクト軟膏・坐剤は、製造販売元レオ ファーマ株式会社、販売元LTLファーマ株式会社から「諸般の事情により製造販売中止」として医療関係者向け文書で案内されています。
この文書では、特約店卸への出荷終了時期が「2023年1月末予定」、薬価削除の経過措置期間が「2023年3月末まで予定」と明記され、在庫消尽時期は流通在庫により前後し得る点も注意喚起されています。
さらに別文書では、2023年4月1日以降は保険請求の対象外となる旨が明確化されており、処方側は「在庫がある間に使い切る」ではなく「請求可否の期限から逆算して切替を完了する」発想が安全です。
医療者が現場で困るのは「理由の詳細」を患者に聞かれたときですが、少なくとも公式資料からは、品質問題・安全性問題など特定の原因は読み取れず、推測で断定しない姿勢が重要です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8241738/
説明としては、「メーカーから販売中止が告知され、保険上の経過措置も終了しているため、同等の治療方針で別薬へ切り替える」までにとどめるのが無難です。
患者の不安は“薬が悪いから消えた”方向に傾きやすいため、医療者側が「理由不明=危険」と短絡しない言い回しを選ぶだけでも、不要な受診・自己判断の中断を減らせます。
LTLファーマの案内では、代替品(同種同効薬)として「ボラザG軟膏・ボラザG坐剤」「強力ポステリザン(軟膏)」が提示されています。
この「同種同効薬」という表現は、成分が同一という意味ではなく、痔疾患の局所症状(疼痛、腫脹、出血など)に対し、臨床的に代替しうる選択肢を示す運用上の言葉として理解すると、現場の意思決定が速くなります。
切替の実務では、(1)病変部位(肛門管内/肛門縁外)、(2)主訴(疼痛優位/出血優位/腫脹優位)、(3)合併(皮膚炎・掻痒、感染疑い)で、剤形や配合成分を再設計します。
例えば、薬物療法の基本として、痔核・裂肛は局所塗布/注入が有効であり、外用剤(注入式軟膏、坐薬など)が中心になる、という整理は薬剤師向け解説でも明記されています。
参考)1.薬剤師が知っておくべき痔の診断と治療
一方で、裂肛の保存的治療の整理では、ネリプロクトは「痔核(出血、疼痛、腫脹)のみの適用であり裂肛には適用がない」との記載があり、病名の付け替えで処方を成立させるような運用は避けるべきです。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcoloproctology/74/10/74_540/_pdf
「痔=何でも同じ外用」になりやすい場面ほど、病態(痔核か、裂肛か、皮膚炎か)を言語化してから代替薬を選ぶと、説明も監査も通りやすくなります。
ネリプロクト軟膏は、ジフルコルトロン吉草酸エステル(ステロイド)とリドカイン(局所麻酔)を含む配合剤であることが、インタビューフォームで示されています。
同資料では「強力な抗炎症作用」「速やかな鎮痛効果」を狙って設計されている点が記載されており、“炎症+痛み”の両輪で症状が立っている症例にフィットしやすい薬理です。
この2軸(抗炎症と鎮痛)を代替設計でも再現できるかが、切替後の満足度(痛みの戻り・排便恐怖・QOL)を左右します。
ただし、ステロイド外用は「効くから長期で漫然」になりやすい領域でもあるため、販売中止を機に、投与期間の設計や再診トリガーを再確認する価値があります。
薬剤師向けの解説でも、痒みの原因となる皮膚炎や湿疹の治療に副腎皮質ステロイド薬が使われる一方、膿んでいる時は使用されない、という注意点が示されています。
つまり「痔の痛み」だと思って出しても、実際に感染や膿瘍が混じっていると逆方向に働く可能性があるので、切替時こそ局所所見と疼痛性状の再評価が重要です。
販売中止そのものは個別製品の話ですが、患者側の理解では「薬不足」「供給不安」と混線しやすいので、医療者は“供給の一般論”も最低限押さえておくと説明が安定します。
医薬品の供給不足・供給不安の背景として、後発医薬品メーカーの品質不正問題を契機に、業務停止や出荷停止が相次いだことが不足長期化の一因、という整理が業界団体の解説に示されています。
この一般論を踏まえると、患者説明は「製品ごとに事情は異なるが、医薬品は品質・供給の条件で出荷が変動し得る」「治療は同等の選択肢で継続できる」に着地させやすくなります。
説明の型(外来・薬局でそのまま使える形)を、短文テンプレとして置きます。
ここに「いつまでに切替が必要か」を添えると、患者の不安が“今日からゼロ”にならず、受診行動が落ち着きます。
薬局側では、近隣医療機関と代替薬の採用状況をすり合わせておくと、処方変更の電話照会が減り、結果として患者待ち時間も短くできます。
検索上位では「代替薬一覧」や「なぜ販売中止か」の話に寄りがちですが、医療者向けに意外と効くのは「そもそもの診断名と適用の整合」です。
裂肛の保存的治療の文献では、ネリプロクト(および後発品)やボラザG坐剤は、痔核のみの適用で裂肛には適用がない、と明記されています。
つまり、販売中止で処方を組み替えるタイミングは、これまで“痔の痛み”として一括処方されていた症例を、痔核・裂肛・皮膚炎に分け直すチャンスにもなります。
具体的には、同じ「排便時痛」でも、
といった“問診の軸”を立てると、外用選択だけでなく排便コントロールや受診勧奨の精度が上がります(医師・薬剤師どちらにもメリット)。
また、裂肛の治療では外用薬物療法だけでなく、生活指導や排便コントロールが保存的治療に含まれる、という整理も同文献にあり、薬を変えるだけで終わらせない方が再発率を下げられます。
ネリプロクトの販売中止は不便ですが、症状が長引く患者ほど「薬の当て方」より「診断と生活介入の当て方」で差が出るため、チームで介入設計を見直す価値があります。
【公式:経過措置・代替品の一次情報(どの期間まで出荷/請求できるか、代替品の提示)】
https://www.ltl-pharma.com/common/pdf/221012_neriproct.pdf
【公式:製造販売中止のお知らせ(諸般の事情、出荷終了予定、薬価の経過措置)】
https://www.ltl-pharma.com/common/pdf/220523_neriproct.pdf
【ガイドライン:肛門疾患の標準的な診療の枠組み(診断・治療の全体像を確認)】
https://www.coloproctology.gr.jp/uploads/files/journal/koumonshikkan_guideline2020.pdf