レビー小体型認知症(DLB)の薬物療法において最も重要な原則は、患者の薬物過敏性を理解することです。通常量の薬剤でも副作用が出やすいため、少量から開始し慎重に調整する必要があります。
治療対象は以下の3つの症状群に分類されます。
2014年9月にレビー小体型認知症に対して保険適応となったドネペジル(アリセプト)は、認知機能改善と幻視に対して有効性が認められています。国内第IV相試験では、ドネペジル10mgによる治療で認知機能改善において臨床的に意味のある有効性が観察されました。
興味深いことに、幻視に対する治療では抑肝散という漢方薬が効果を発揮することが知られています。この薬剤は味と量の問題で飲みにくく、カリウム濃度の低下に注意が必要ですが、使いやすい薬剤として評価されています。
自律神経症状はレビー小体型認知症患者の日常生活を大きく制限するため、積極的な治療が必要です。これらの症状は他の認知症ではあまり見られない特徴的な症状でもあります。
便秘の治療は特に重要で、便秘があると飲み薬の吸収が悪くなり、すべての薬の効果が低下します。水分摂取、食物繊維の摂取、適度な運動を基本とし、不十分な場合は下剤を使用します。
起立性低血圧への対応には多角的なアプローチが必要です。
意外な症状として食事性低血圧があります。食事中に眠ってしまう場合、食事により血圧が下がる可能性を考慮する必要があります。この場合、誤嚥や窒息の危険があるため、24時間血圧計での評価が推奨されます。治療には食事時間の短縮、回数の分割、炭水化物の制限が有効です。
パーキンソン症状の治療にはL-dopaを中心とした抗パーキンソン病薬を使用しますが、レビー小体型認知症では特別な注意が必要です。
抗パーキンソン病薬は運動症状を改善しますが、行動心理症状を悪化させる薬剤が多いという問題があります。具体的には、動けるようになったが幻視が増えたり、興奮が強まったりする副作用が報告されています。
そのため、以下の点に注意して治療を行います。
興味深い研究として、リハビリテーション医療において新たにレビー小体型認知症と診断される患者が増加していることが報告されています。これは、パーキンソン症状による歩行障害や転倒が入院のきっかけとなることが多いためと考えられます。
レビー小体型認知症の治療において、非薬物療法は薬物療法と同等に重要な位置を占めています。薬物過敏性のある患者では、非薬物療法が症状改善の主要な手段となることもあります。
脳活性化療法には以下のような方法があります:
特に注目すべきは、便秘や脱水が幻視を悪化させるという身体的要因です。これは薬物療法だけでは見落としがちな観点であり、水分摂取や排便管理の重要性を示しています。
家族や介護者への教育も重要な非薬物療法の一環です。幻視に対しては「否定しない」「安心させる」対応が基本となり、「見てきますね」といった落ち着いた声がけが推奨されます。
レビー小体型認知症の治療は現在も発展途上にあり、いくつかの重要な課題と将来的展望があります。
現在の治療の限界として、根本的な治療法がまだ確立されていないことが挙げられます。現在使用できる治療法は症状を軽減するものであり、疾患の進行を根本的に止めるものではありません。
薬物療法の複雑さも大きな課題です。ある症状に対する薬物治療が他の症状を悪化させる可能性があり、全ての症状に対する薬物治療を同時に行うことの難しさが指摘されています。具体的には、幻覚・妄想の治療薬がパーキンソン症状を悪化させ、逆に抗パーキンソン病薬が精神症状を悪化させるというジレンマがあります。
早期診断の重要性が注目されています。「第二の認知症」として認知度が向上し、適切な診断による早期発見・早期治療の重要性が認識されています。病気を正しく理解したパーソンセンタードケアの実践が推奨されています。
多職種連携の必要性も強調されています。医師、看護師、理学療法士、作業療法士、薬剤師、介護福祉士など、多職種が連携してチーム医療を実践することが、患者の生活の質向上につながります。
新しい治療法の開発に向けた研究も進んでいます。分子レベルでのレビー小体の形成メカニズムの解明により、将来的には根本的な治療法の开発が期待されています。
家族や介護者への支援体制の充実も重要な課題です。介護保険や行政サービスの活用により、身体的・経済的負担を軽減し、持続可能なケア体制を構築することが求められています。
厚生労働省による認知症ケアパスの整備や、地域包括ケアシステムの中でのレビー小体型認知症患者への対応も、今後さらに重要になると考えられます。