アルツハイマー型認知症の進行抑制薬には、現在4つの主要な薬剤が承認されています。コリンエステラーゼ阻害薬であるドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンと、NMDA受容体拮抗薬のメマンチンです。
ドネペジルにおける絶対禁忌は、薬剤に対する過敏症の既往歴がある患者です。しかし、実際の臨床現場では相対的禁忌も重要な判断要素となります。特に心血管系疾患を有する患者では、コリンエステラーゼ阻害薬による徐脈、房室ブロックのリスクを十分に評価する必要があります。
リバスチグミン貼付剤では、貼付部位に重篤な皮膚炎や感染症がある場合の使用は避けるべきとされています。また、重度の肝機能障害患者では、薬物代謝の遅延により副作用が増強される可能性があります。
メマンチン塩酸塩については、2020年に重要な安全性情報が更新されました。新たに「完全房室ブロック」と「高度な洞徐脈等の徐脈性不整脈」が重大な副作用として追加されています。これにより、既に心電図異常や徐脈傾向のある患者では、より慎重な適応判断が求められるようになりました。
コリンエステラーゼ阻害薬の過量投与では、コリン系副作用として「高度な嘔気、嘔吐、流涎、発汗、徐脈、低血圧、呼吸抑制、虚脱、痙攣及び縮瞳」が報告されています。このため、以下の患者群では特に注意が必要です。
心疾患関連の禁忌・注意事項:
消化器疾患関連の禁忌・注意事項:
参考:日本医薬品機構の安全性情報
https://www.pmda.go.jp/
アルツハイマー型認知症治療薬同士の併用については、作用機序の重複により副作用リスクが増大する可能性があります。特に重要なのは、同じコリンエステラーゼ阻害薬同士の併用は避けるべきという点です。
併用注意が必要な薬剤カテゴリー:
特にガランタミンでは、CYP2D6とCYP3A4による代謝を受けるため、これらの酵素を阻害する薬剤との併用で血中濃度が上昇する可能性があります。キニジン、フルオキセチン、パロキセチンなどのCYP2D6強力阻害薬との併用時には、用量調整が必要となります。
2023年9月に承認されたレカネマブ(レケンビ)は、従来の症状対症療法薬とは全く異なる作用機序を持つ抗アミロイドβ抗体です。この新規薬剤には特殊な禁忌事項と管理要件があります。
レカネマブの主要な禁忌・注意事項:
レカネマブの重大な副作用として「脳浮腫」と「脳微小出血」が報告されており、治験では微小出血が17%の患者で認められました。このため、使用前および使用中の精密なMRI検査が義務付けられています。
レカネマブ投与の厳格な要件:
参考:日本アルツハイマー病学会治療ガイドライン
https://www.alzheimer.or.jp/
従来の禁忌事項に加えて、実臨床では個別化されたリスク評価が重要です。特に高齢者では多剤併用による相互作用リスクが高く、包括的な評価システムが求められます。
多面的リスク評価のチェックポイント:
独自の段階的導入プロトコル:
体重減少もアルツハイマー型認知症患者で認められる重要な副作用の一つです。栄養状態の悪化は認知機能の更なる低下を招く可能性があるため、定期的な体重測定と栄養評価を実施し、必要に応じて栄養サポートチームとの連携も検討すべきです。
さらに、レビー小体型認知症患者では錐体外路障害の悪化リスクが高いため、ドネペジル投与時には特に慎重な観察が必要です。症状の悪化が認められた場合には、減量または中止を含めた適切な対応を迅速に行う必要があります。