飛沫感染と飛沫核感染の基本メカニズムと医療現場での対策

医療従事者が知るべき飛沫感染と飛沫核感染の違いとメカニズムについて、粒子サイズや感染経路、予防策を具体的に解説します。これらの知識は医療現場での安全確保にどう活用できるでしょうか?

飛沫感染と飛沫核感染

飛沫感染と飛沫核感染の違いと対策
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飛沫感染のメカニズム

5μm以上の大きな粒子による感染で、2m以内の近距離で発生

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飛沫核感染のメカニズム

5μm以下の微小粒子による感染で、空気中を長時間浮遊

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医療現場での対策

感染経路に応じた適切な個人防護具とスタンダードプリコーション

飛沫感染の特徴と粒子サイズによる分類

飛沫感染は、咳やくしゃみ、会話によって口から放出される5μm以上の水滴(飛沫)を直接吸い込むことで起こる感染経路です。これらの飛沫は水分を含んでいるため比較的重く、感染者から放出された後1~2m程度飛んで地面に落下します。
飛沫の落下速度は30~80cm/秒であり、感染者からの距離が2m以内の場合に感染リスクが高くなります。飛沫感染を起こす主な病原体には以下があります:

  • ウイルス性疾患:インフルエンザ、風邪、新型コロナウイルス感染
  • 細菌性疾患:百日咳、マイコプラズマ感染症

この感染経路では、サージカルマスクの着用が有効な予防策となります。医療従事者は標準予防策として患者に2m以内で接する際にはサージカルマスクを着用し、患者にも可能であればマスク着用を推奨します。

飛沫核感染における空気感染のメカニズム

飛沫核感染(空気感染)は、飛沫の水分が蒸発して形成される5μm以下の微小な粒子(飛沫核)を吸入することで起こる感染です。飛沫核の落下速度は0.06~1.5cm/秒と非常に遅く、空気中を長時間浮遊し続けることができます。
飛沫核の最大の特徴は以下の通りです。

 

  • 長時間浮遊:軽量なため1m以上の高さで長時間浮遊可能
  • 広範囲拡散:空気の流れによって広範囲に拡散
  • 遠距離感染:感染者から十分な距離を取っていても感染が発生

空気感染を起こす代表的な疾患は限られており、結核麻疹(はしか)、**水痘(みずぼうそう)**の3つが主要な病原体とされています。これらの疾患は感染力が非常に強く、免疫のない人が暴露されると高確率で感染が成立します。

飛沫感染と飛沫核感染の病原体別分類と臨床的特徴

感染経路別の病原体分類は医療現場での感染対策において極めて重要です。以下に主要な疾患の分類を示します。

 

飛沫感染を起こす疾患

  • インフルエンザウイルス:季節性流行、ワクチン接種で予防可能
  • RSウイルス:乳幼児で重症化しやすい
  • 百日咳:特徴的な咳発作、抗菌薬による治療が有効

飛沫核感染を起こす疾患

  • 結核:排菌期間中は隔離が必要、DOTS(直接監視下治療)による管理
  • 麻疹:高い感染力(基本再生産数12-18)、ワクチン2回接種で予防
  • 水痘:発疹出現前から感染性あり、免疫不全患者では播種性となることも

興味深いことに、これらの病原体は複数の感染経路を持つことがあります。例えば、結核菌は主に飛沫核感染ですが、接触感染や飛沫感染も起こしうるため、包括的な感染対策が必要です。

飛沫感染対策における個人防護具の選択と使用法

医療現場での感染対策において、個人防護具(PPE)の適切な選択と使用法は患者と医療従事者双方の安全を確保するために不可欠です。

 

サージカルマスクの特徴と適用

  • 5μm以上の飛沫を効果的に遮断
  • 装着が簡便で長時間の使用が可能
  • 飛沫感染対策として標準的に使用

N95マスクの特徴と適用

  • 0.3μmの微粒子を95%以上捕集可能
  • 飛沫核感染対策として必須
  • フィットテストによる密着性確認が重要

医療従事者は患者の感染症に応じて適切なマスクを選択する必要があります。結核患者の診療にはN95マスクが必要ですが、インフルエンザ患者に対してはサージカルマスクで十分です。
また、患者側の対策として、病室から出る際にはサージカルマスクの着用を指導し、可能な限り個室管理を実施することが推奨されます。

飛沫感染予防における環境制御と新技術の応用

従来の感染対策に加え、近年では環境制御技術や新しい知見に基づく対策が注目されています。特に新型コロナウイルス感染症の流行により、エアロゾル感染という概念が広く認識されるようになりました。
環境制御による感染対策

  • 換気システムの最適化:時間当たり6回以上の換気が推奨
  • 空気清浄機の活用:HEPAフィルター搭載機器による微粒子除去
  • 湿度管理:40-60%の相対湿度維持でウイルス活性を低下

3密回避の科学的根拠
日本で提唱された「3密」(密閉・密集・密接)の回避は、エアロゾル感染の観点からも合理的な対策です。密閉された環境では飛沫核の濃度が上昇し、密集・密接により暴露量が増加するためです。
新技術の導入

  • 紫外線照射装置(UV-C):空気中の病原体を不活化
  • プラズマクラスター技術:活性酸素による除菌効果
  • リアルタイム空気質モニタリング:CO2濃度による換気状態の可視化

これらの技術は従来の感染対策を補完するものであり、基本的な手指衛生やマスク着用などの標準予防策を代替するものではありません。医療従事者は科学的根拠に基づく包括的な感染対策により、患者ケアの質と安全性の両立を図る必要があります。

 

厚生労働省による感染経路別予防策の詳細ガイドライン
東京大学保健センターによる感染経路の詳しい解説