感染経路の理解は、医療従事者にとって感染制御の基本です。感染経路には、病原体が人の体内に侵入する経路により、大きく水平感染と垂直感染に分類されます。水平感染は感染源から周囲に広がるもので、接触感染、飛沫感染、空気感染、媒介物感染の4つに分類できます。
病原体の種類によって主な感染経路は異なりますが、一つの病原体が複数の感染経路を持つことも珍しくありません。例えば、新型コロナウイルスは飛沫感染、接触感染、そして空気感染の経路を持つとされています。
感染防止の観点から、接触感染はモノを間に挟んだヒト-モノ-ヒト感染として捉えられ、感染者の唾液などにより汚染された環境表面に触れることから起こります。この理解は、医療現場での感染対策において極めて重要です。
接触感染は、感染者の皮膚や粘膜への直接接触、または病原体が付着したドアノブや手すりなどの物体表面を介した間接接触により起こります。医療現場では、医療従事者の手や医療器具を介した感染も重要な経路です。
接触感染の特徴として、以下の点が挙げられます。
代表的な接触感染症には以下があります。
医療現場では、整形外科用人工器具や尿道・血管用カテーテルなどの内在性医療器具への細菌付着が重大な問題となります。細菌の付着はバイオフィルム形成を誘導し、多剤耐性菌の出現にもつながるため、抗生物質に頼らない表面処理技術の開発が求められています。
飛沫感染は、感染者の咳やくしゃみ、会話によって飛び散った飛沫に含まれる病原体を、近くにいる人が吸い込むことで起こります。飛沫は水分を含み重いため、届く範囲は1~2メートル程度とされています。
飛沫感染の重要なポイントは以下の通りです。
代表的な飛沫感染症として。
医療現場では「ソーシャルディスタンス」の概念が飛沫感染予防に基づいています。患者との距離を2メートル以上保つことで、飛沫による感染リスクを大幅に減少させることができます。
飛沫感染予防には咳エチケットが重要で、咳やくしゃみをする際は。
空気感染は、感染者から飛び出した飛沫に含まれる病原体が感染性を保ったまま空気の流れに乗って拡散し、他の人がそれを吸い込むことで起こります。飛沫核と呼ばれる5マイクロメートル以下の微細な粒子が長時間空気中を漂うことが特徴です。
空気感染の重要な特徴。
代表的な空気感染症。
医療現場では「三密」の回避が空気感染予防の基本となります。密閉、密集、密接を避けることで空気感染リスクを軽減します。特に換気は空気感染予防において最も重要な対策です。
新型コロナウイルス感染症については、当初は飛沫感染と接触感染が主とされていましたが、現在では換気の悪い室内などでは空気感染も起こりうるとの見方が専門家間で強まっています。
陰圧室の設置や高性能フィルター(HEPAフィルター)の使用は、医療機関での空気感染対策として効果的です。
経口感染は、病原体に汚染された水や食べ物を口にすることで起こる感染経路です。糞便が手指を介して経口摂取される場合は特に糞口感染と呼ばれます。
経口感染の主な経路。
代表的な経口感染症。
医療現場での経口感染予防策として。
その他の特殊な感染経路として。
現代の医療現場では、従来の感染対策に加えて、科学技術を活用した革新的な感染防止策が開発されています。特に抗菌・抗ウイルス表面処理技術は、接触感染対策として注目されています。
2008年に設立された抗菌製品技術協議会(SIAA)は、抗菌・抗ウイルス・抗バイオフィルム処理を施した製品の評価基準を策定し、認証を行っています。この取り組みにより、高品質で安全性のある抗菌・抗ウイルス加工製品が医療現場に導入されています。
医療器具における感染対策の課題。
これらの課題に対して、材料表面自体に抗菌スペクトラムの広い処理を施す技術が開発されています。例えば:
環境消毒における新技術として。
これらの技術は、従来の感染対策を補完し、より効果的な感染制御を可能にします。特にCOVID-19パンデミックを経験した現在、グローバル化と気候変動が進む中で、新興・再興感染症への科学・技術的対策の重要性が高まっています。
医療従事者は、これらの革新的技術を理解し、従来の基本的感染対策と組み合わせることで、より効果的な感染制御を実現できます。感染経路の正確な理解と最新技術の活用により、患者の安全と医療従事者自身の健康を守ることができるのです。