インフルエンザウイルスの種類と感染症状、予防対策について

インフルエンザウイルスは種類が多様で、毎年異なる型が流行します。症状や治療法、予防策について詳しく解説し、重症化を防ぐ方法をお伝えします。あなたは正しい対策ができていますか?

インフルエンザウイルスの基本知識と対策

インフルエンザウイルスとは
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A型・B型・C型の3種類

抗原性の違いで分類され、パンデミックを起こすのはA型のみ

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H1N1、H3N2などの亜型

ヘマグルチニンとノイラミニダーゼの組み合わせで144種類存在

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重症化と合併症のリスク

肺炎や脳症などの合併症により、入院や死亡に至る場合もある

インフルエンザウイルスは、抗原性の違いによりA型、B型、C型の3つに分類される感染症の病原体です 。このうち、人でのパンデミックを引き起こすのはA型のみで、毎年流行するインフルエンザの多くがA型によるものです 。インフルエンザウイルスは直径約1万分の1mmの大きさで、表面にはヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)という2種類のスパイクタンパク質が存在します 。
参考)https://www.city.fukushima.fukushima.jp/material/files/group/52/37381.pdf

 

A型インフルエンザウイルスは、HAに16種類(H1~H16)、NAに9種類(N1~N9)があり、これらの組み合わせにより144種類の亜型が存在します 。現在、人に感染して流行を起こしているのは、A(H1N1)亜型、A(H3N2)亜型(香港型)、B型(ビクトリア系統)の3種類です 。過去に人で大流行を起こしたのは、1918年のスペイン風邪(H1N1)、1957年のアジア風邪(H2N2)、1968年の香港風邪(H3N2)など、限定的な組み合わせのみです 。
参考)https://www.drp.ne.jp/pickup_article/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%95%E3%83%AB%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B6%E3%81%AEh%E3%81%A8n/

 

インフルエンザウイルスの種類と特徴

インフルエンザウイルスの分類システムは、ウイルスの表面抗原に基づいて行われています 。A型インフルエンザウイルスのヘマグルチニン(HA)は、感染しようとする細胞に結合してウイルスを細胞内に取り込む役割を果たし、ノイラミニダーゼ(NA)は感染した細胞とHAの結合を切って複製されたウイルスを細胞から放出させる役割を持ちます 。これらの表面タンパク質の抗原性の違いにより、A型は多数の亜型に分類されます 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2815781/

 

現在、世界中で毎年流行しているのは、A(H1N1)pdm09、A(H3N2)、B型ビクトリア系統の3つの型です 。これらのウイルス株は、年間ワクチンの構成株として選定され、毎年のインフルエンザワクチンに含まれています 。しかし、インフルエンザウイルスは頻繁に変異するため、ワクチン株と流行株の抗原性が一致しない場合もあり、ワクチンの効果に影響を与えることがあります 。
参考)https://www.amed.go.jp/news/release_20190319.html

 

さらに、鳥インフルエンザウイルスであるA(H5N1)、A(H7N9)、A(H5N6)なども散発的に人への感染が報告されており、新型インフルエンザのパンデミックリスクとして監視されています 。これらの高病原性鳥インフルエンザは、ヒトからヒトへの感染は限定的ですが、感染した場合の致死率は非常に高いことが知られています 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7126677/

 

インフルエンザウイルス感染の症状と病態

インフルエンザウイルス感染は、38℃以上の高熱、全身倦怠感筋肉痛関節痛などの全身症状が急激に現れることが特徴です 。通常の風邪と異なり、症状の発現が急速で、重篤な全身症状を伴うことが多いです 。感染から発症までの潜伏期間は1~3日程度で、症状は通常3~5日間(72~120時間)持続します 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2605683/

 

インフルエンザの病理学的変化は、主に上気道と下気道に現れます 。軽症例では気管・気管支炎として現れますが、重症化すると肺胞まで感染が拡大し、ウイルス性肺炎や二次性細菌感染による細菌性肺炎を併発することがあります 。特に高齢者や免疫不全患者では、肺炎による重症化のリスクが高くなります 。
参考)https://www.kenei-pharm.com/tepika/column/disinfection/column102/

 

小児では、中耳炎、熱性けいれん、インフルエンザ脳症などの合併症が問題となります 。インフルエンザ脳症は意識障害、意味不明の言動、持続性けいれんなどの症状を呈し、迅速な医療対応が必要です 。成人でも脳症による重症化は報告されており、神経系合併症として注意が必要です 。
参考)https://doctorbook.jp/contents/406

 

インフルエンザウイルスの感染経路と予防方法

インフルエンザウイルスの主な感染経路は、飛沫感染と接触感染の2つです 。飛沫感染は、感染者の咳やくしゃみによって放出される飛沫に含まれるウイルスを吸い込むことで起こります 。接触感染は、ウイルスが付着した手で口や鼻に触れることによる間接的な感染です 。
参考)https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/kansen/info/influ/influ

 

予防対策として最も重要なのは、咳エチケットと手洗いの実践です 。咳エチケットでは、咳やくしゃみが出ている間のマスク着用、咳やくしゃみをする際のティッシュや腕の内側での口鼻の覆い、他人から1メートル以上離れることが推奨されます 。手洗いは、外出先からの帰宅時や調理前後などにこまめに行うことが効果的です 。
参考)https://www.kenei-pharm.com/tepika/column/disinfection/column97/

 

ワクチン接種は、インフルエンザ予防の最も重要な手段の一つです 。しかし、インフルエンザワクチンは接種しても100%の予防効果はなく、発症予防効果と重症化予防効果が主な期待される効果です 。適切な環境整備として、室内の適度な湿度保持や換気も感染リスクの軽減に役立ちます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7099216/

 

インフルエンザウイルスの治療と抗ウイルス薬

インフルエンザの治療には、ノイラミニダーゼ阻害薬とキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬の2つのクラスの抗ウイルス薬が使用されます 。ノイラミニダーゼ阻害薬には、オセルタミビルタミフル)、ザナミビル(リレンザ)、ラニナミビル(イナビル)、ペラミビル(ラピアクタ)があり、キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬にはバロキサビル(ゾフルーザ)があります 。
参考)https://pharmacist.m3.com/column/special_feature/4706

 

これらの抗ウイルス薬の主な効果は、有症状期間の短縮と重症化の予防です 。タミフルによる治療では、成人で症状軽減までの時間を約16.7時間短縮し、小児では約29時間短縮する効果が報告されています 。また、成人において未確認の肺炎の確率を45%軽減する効果も示されています 。
参考)https://soujinkai.or.jp/himawariNaiHifu/influenza-drug/

 

抗ウイルス薬の選択は、投与経路(内服・吸入・点滴)、投与回数(1日2回5日間または単回投与)、患者の年齢や状態などを考慮して決定されます 。最も使用実績が豊富なオセルタミビルは、小児への使用も可能で効果が確認されており、ガイドラインでも推奨度が高く位置付けられています 。ただし、これらの薬剤は発症から48時間以内の投与が効果的とされています。

インフルエンザウイルス感染の重症化リスクと対策

インフルエンザの重症化には特定のリスク要因があります 。年齢では5歳未満の幼児と65歳以上の高齢者が高リスクとされ、基礎疾患として慢性肺疾患(喘息、COPD間質性肺炎)、心疾患、腎疾患、肝疾患、血液疾患、代謝性疾患、神経疾患がある方は重症化しやすいとされています 。
重症化の主な病態は肺炎が半数程度を占めており、ウイルス性肺炎と細菌性肺炎の両方が問題となります 。ウイルス性肺炎はインフルエンザウイルス自体によって引き起こされ、急速に進行します 。高齢者や免疫不全患者では細菌性肺炎の合併も多く、重篤な状態に陥ることがあります 。
重症化予防において、ワクチン接種は極めて重要な役割を果たします 。高齢者では、ワクチン接種によりインフルエンザ関連死亡を82%減少させ、発症予防効果も34~55%あることが報告されています 。小児では発症予防効果が60%程度とされており、重症化予防効果も高いことが知られています 。さらに、妊婦、産褥婦、免疫抑制状態の方、長期療養施設入居者も重症化リスクが高く、積極的な予防対策が推奨されます 。
参考)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/yobou-sesshu/vaccine/influenza/index.html