神経線維腫症は主に1型(NF1)と2型(NF2)に分類され、それぞれ異なる特徴を示します 。NF1は約3,000人に1人という頻度で発症し、遺伝性疾患の中でも比較的多くみられる疾患です 。日本国内では約4万人の患者がいると推定されており、世界全体では約200万人が罹患しています 。
参考)https://www.nanbyou.or.jp/entry/3992
NF1は17番染色体のNF1遺伝子変異により引き起こされ、主に皮膚症状が特徴です 。一方、NF2は22番染色体のNF2遺伝子変異により、聴神経腫瘍による症状が中心となります 。NF2の発症頻度は約25,000人に1人とNF1より低い頻度です 。
参考)https://ubie.app/byoki_qa/clinical-questions/2a_-ymk_15f
NF1の責任遺伝子は17番染色体長腕(17q11.2)に位置し、その遺伝子産物はニューロフィブロミンと呼ばれます 。ニューロフィブロミンはRas蛋白の機能を制御し、細胞増殖や細胞死を抑制することで腫瘍の発生と増殖を抑制する機能があります 。
参考)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000089916.pdf
NF1遺伝子に変異が生じると、Rasの恒常的な活性化のため、Ras/MAPK経路の活性化とPI3K/AKT経路の活性化を生じ、神経線維腫をはじめとする多種の病変が発生すると考えられています 。約半数の患者は親からの遺伝により発症しますが、残りの半数は新規の遺伝子突然変異によるものです 。
参考)https://ubie.app/byoki_qa/clinical-questions/z6f0d82vaz
神経線維腫症1型の診断は、国際的な診断基準に基づいて以下の症状のうち2つ以上が見られた場合に診断されます :
参考)https://www.saitama-pho.jp/documents/942/sinkeiseni1gata20181222.pdf
最も一般的な初期症状は、生まれたときから現れるカフェオレ斑です 。これは淡いミルクコーヒー色から濃い褐色の平らなしみ・あざで、神経線維腫症1型の患者では全身に6個以上みられることが多いです 。
参考)https://nf1.jp/overview/symptoms
神経症状は神経線維腫症の重要な特徴の一つです 。NF1型では、皮膚や神経に発生する神経線維腫により神経圧迫による痛みや機能障害を引き起こすことがあります 。また、視力障害、学習障害、注意欠如・多動性障害(ADHD)も報告されています 。
参考)https://ubie.app/byoki_qa/clinical-questions/c0aa2dddi1
神経線維腫にはいくつかの病型があります 。皮膚神経線維腫は軟らかく肉質で、皮下神経線維腫は硬く結節性です 。結節性蔓状神経線維腫は脊髄神経根を侵すことがあり、典型的には椎間孔を通って増殖してダンベル腫瘍を形成します 。びまん性蔓状神経線維腫は醜形につながる可能性があり、神経線維腫より遠位の部位に機能障害を起こしうるため注意が必要です 。
参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/19-%E5%B0%8F%E5%85%90%E7%A7%91/%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E7%9A%AE%E8%86%9A%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4/%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E7%B7%9A%E7%B6%AD%E8%85%AB%E7%97%87
NF2型では聴神経鞘腫による症状が最も多く、難聴・めまい・ふらつき・耳鳴などがあります 。脊髄神経鞘腫による手足のしびれ・知覚低下・脱力や、三叉神経鞘腫による顔面のしびれも見られます 。
現在のところNF1を根本的に治療する方法は確立されていませんが、2022年11月にセルメチニブ(コセルゴカプセル)がNF1患者の叢状神経線維腫を対象とした治療薬として日本で初めて販売開始となりました 。これは日本のNF1患者に対する初の治療薬として大きな意味を持ちます。
参考)https://genetics.qlife.jp/diseases/neurofibromatosis-type1
従来の治療は症状に対する対症療法が中心で、重度の症状を引き起こしている神経線維腫には手術的切除が行われます 。小さな神経線維腫はレーザーや電気焼灼術で除去することができます 。症状によっては、鎮痛剤や抗炎症薬などの薬物療法を行う場合もあります 。
参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/23-%E5%B0%8F%E5%85%90%E3%81%AE%E5%81%A5%E5%BA%B7%E4%B8%8A%E3%81%AE%E5%95%8F%E9%A1%8C/%E5%B0%8F%E5%85%90%E3%81%AE%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E7%9A%AE%E8%86%9A%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4/%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E7%B7%9A%E7%B6%AD%E8%85%AB%E7%97%87
悪性化リスクについては重要な注意点があります 。悪性末梢神経鞘腫瘍(MPNST)はNF1に伴う最も頻度の高い悪性腫瘍で、すでに存在するびまん性叢状神経線維腫や結節性叢状神経線維腫から発生します 。悪性化の最も多い徴候は持続性の疼痛で、新たな症状として発生することもあれば、すでにあった痛みが悪化することもあります 。
参考)https://grj.umin.jp/grj/nf1.htm
日常生活では、急に大きくなる固いしこりができた場合は悪性末梢神経鞘腫瘍の可能性があるため、早めに専門医療機関への相談が必要です 。また、NF1では健常人と比べて乳がんのリスクが4~5倍高い(特に50歳以下の女性)とされているため、定期的な検診が推奨されています 。
参考)https://ubie.app/byoki_qa/clinical-questions/nqoqgy3_mumf
近年、血液検査によりびまん性神経線維腫とMPNSTの患者を86%の高精度で区別できる検査法が開発され、早期発見の可能性が広がっています 。この検査は治療効果や再発リスクも反映するため、今後の診療に大きな変化をもたらすことが期待されています 。
参考)https://genetics.qlife.jp/news/20211013-w012
予後については、NF1の生命予後は比較的良好で、悪性末梢神経鞘腫瘍の合併率は数パーセント以下です 。しかし、平均寿命は一般人より10~15年短く、合併症によって変動します 。多くの患者において良性の病気とされ、余命が宣告されることは少ないですが、定期的な経過観察と適切な管理が重要です 。
参考)https://ubie.app/byoki_qa/clinical-questions/lleixhozc