X線だけでAO分類を判断していると、16%の症例で安定型(A1)と不安定型(A2)を見誤るリスクがあります。 jglobal.jst.go(https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=202102210221961499)
大腿骨転子部骨折のAO分類は、国際的に最も広く使用されている分類体系です。 大分類は「31」(大腿骨近位部)、骨折型「A」(関節外骨折)、安定性に応じて1〜3のグレードに区分されます。 この番号が大きくなるほど骨折の不安定性が増し、手術難易度と術後合併症リスクが上昇するという原則です。 rehabiriblog(https://rehabiriblog.com/entry/2025/06/22/223402)
2018年の改訂(新AO分類)では、外側壁の厚さという概念が新たに加えられました。 外側壁とは大転子外側皮質のことで、この壁が薄い(20.5mm未満)場合、術中の医原性骨折リスクが高まります。外側壁厚の評価が分類の精度を左右するため、CTによる評価が強く推奨されています。 cir.nii.ac(https://cir.nii.ac.jp/crid/1390570486221340544)
| AO分類 | 骨折パターン | 安定性 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| 31-A1 | 転子間線を貫く単純骨折 | 安定型 | 内側皮質が接触、外側壁は温存 |
| 31-A2 | 内側皮質の多骨片骨折 | 中等度不安定型 | 小転子骨折を伴う、外側壁の評価が鍵 |
| 31-A3 | 逆斜・横断骨折(転子間骨折) | 高度不安定型 | 内外側壁ともに破綻、合併症リスク最高 |
各サブグループはさらに「.1〜.3」で細分化されます。 たとえば31-A1.1は転子間線を単純に貫くもっとも基本的な型、31-A2.3は大きな骨片を伴う不安定型です。このサブグループ分類がインプラント種別の選択に直接影響します。 rehabiriblog(https://rehabiriblog.com/entry/2025/06/22/223402)
参考:大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン2021(改訂第3版)Minds掲載ページ。エビデンスレベル別の推奨度が確認できます。
大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン2021(改訂第3版)- Minds
なぜX線では不安定型を見抜けないのか、疑問に感じる方も多いでしょう。外側壁厚の正確な計測は、骨折線が重なり合う単純X線像では限界があるためです。 外側壁を「厚い→安定型」「薄い(20.5mm未満)→不安定型」と区別するには、横断面を直接観察できるCTが必須です。 cir.nii.ac(https://cir.nii.ac.jp/crid/1390570486221340544)
安定型と不安定型の誤分類が起きると、何が問題になるのか。インプラント選択が変わってきます。A1では滑り止め機構付きのCHS(Compression Hip Screw)でも対応可能ですが、A2以上ではIMネイル(髄内釘)が推奨されます。 安定型と誤判断してCHSを選択した場合、術後のカットアウトやテレスコープ(骨片の沈み込み)という合併症リスクが高まります。 chibanishi-hp.or(https://www.chibanishi-hp.or.jp/department/orthopedics/treatise/paper_14)
これは見落とせないリスクですね。術前にCTを追加する一手間が、術後管理の大きなトラブルを防ぎます。術前評価の段階でCT撮影を標準化しているか、施設ごとのプロトコルを確認しておきましょう。
参考:杏林大学医学部付属病院整形外科による219例を対象とした新AO分類でのX線とCT評価の相違に関する研究。外側壁厚評価の重要性を数値で解説しています。
31-A3の中核となる逆斜骨折(reverse oblique fracture)は、骨折線が外側遠位から内側近位方向へ走るパターンです。 通常の転子間骨折とは骨折線の方向が逆向きになるため、大腿骨骨幹部が内側に転位しやすく、骨折部に剪断・伸張・回旋の複合負荷がかかります。 これが術後合併症リスクを特に高める理由です。 mol.medicalonline(https://mol.medicalonline.jp/newbunken?GoodsID=ap5orthe%2F2020%2F003301%2F009&name=0057-0065j)
合併症の種類は多岐にわたります。具体的には偽関節、再転位、変形癒合(内反変形)、内固定材の折損、スクリューのテレスコープ(過剰な沈み込み)、大腿部痛の遷延などが挙げられます。 外側壁骨折が合併したA3症例ではこれらの頻度がさらに上昇するため、固定力の高いインプラント選択が不可欠です。 chibanishi-hp.or(https://www.chibanishi-hp.or.jp/department/orthopedics/treatise/paper_05)
インプラントの選択が治療成績を左右します。A3ではCHSは適応外とされ、髄内固定(long IMネイルやγtype long femoral nail)が標準的な選択肢です。 外側壁骨折を合併した高度不安定例では、γtype long femoral nailとtension band platingの併用術式が比較的簡便で良好な成績が報告されています。 chibanishi-hp.or(https://www.chibanishi-hp.or.jp/department/orthopedics/treatise/paper_20)
二村分類という新分類をもとにした治療戦略も提唱されています。 Type I(lateral wall pattern)は通常のA1〜A2に準じた戦略でよく、外側壁を支持するインプラントを選択します。A3.1(単純逆斜骨折)では骨折部に圧迫が加わるため、太いlong IMネイルで固定し早期荷重歩行が可能とされています。 webview.isho(https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1408202511)
>A3.1(単純逆斜骨折):長いIMネイルで固定→術後早期荷重歩行が目標
>A3.3(複合骨片、外側壁破綻):γtype long femoral nail+plate併用を検討
>外側壁骨折合併例:剪断・伸張不安定性が最も強く、インプラント固定力を最優先
参考:千葉西総合病院整形外科による31-A3への治療成績と術式詳報。合併症の発生機序とインプラント選択の根拠が詳しく記載されています。
当科における大腿骨転子部骨折(AO分類31-A3)の治療成績 - 千葉西総合病院
AO分類単独では拾いきれないリスク要因として、骨密度(骨質)の問題があります。外側壁厚が保たれていても、骨のCT値(HU値)が極端に低い症例ではカットアウトやスクリューの把持力低下が生じやすいです。 Ward三角のCT値が-32.1 HUという症例(脂肪で置換された骨梁)では、通常のIMネイルによる固定でも十分な把持力が期待できないことがあります。 chibanishi-hp.or(https://www.chibanishi-hp.or.jp/department/orthopedics/treatise/paper_14)
骨密度の問題は数値で理解するとイメージしやすいです。Ward三角のCT値が負の値(0 HU以下)ということは、その部位が骨梁ではなく脂肪組織に置き換わっていることを意味します。ハガキの厚さ程度(0.5mm程度)の薄い皮質骨しか残っていない状況では、スクリューを固定しても「砂の中に打ち込んだペグ」と同じ状態になります。これは対策が必要ですね。
AO分類のグレードとCT値による骨質評価を組み合わせた総合リスク評価が、近年注目されています。 特にA2で外側壁厚が境界値(20.5mm前後)かつWard三角CT値が低値の症例は、見た目の分類より実際の不安定性が高い「隠れA3相当」と考えて対応することが重要です。術前評価の段階でこの視点を加えるだけで、インプラント選択の精度が大きく変わります。 chibanishi-hp.or(https://www.chibanishi-hp.or.jp/department/orthopedics/treatise/paper_14)
>外側壁厚20.5mm未満:不安定型リスクあり、CTでの確認が必須
>Ward三角CT値 0 HU未満:骨梁の脂肪置換が進んでいる状態、把持力低下リスク
>骨頭CT値と合わせた複合評価で、より精度の高いインプラント選択が可能
参考:千葉西総合病院整形外科によるWard三角CT値が低いA2症例への水平骨折術式報告。骨質評価とインプラント選択の関係が具体的な症例で解説されています。
Ward三角CT値が低い大腿骨転子部骨折(AO分類31-A2)に対する治療 - 千葉西総合病院
あまり語られない視点として、術前と術後でAO分類が変わることがある、という事実があります。術前の画像では骨片の転位が少なく「A1」と評価していても、術中に整復操作を加えた段階で外側壁が医原性に骨折し、実質的なリスクが「A2以上」に変化するケースが存在します。 これが「術前分類法と術後分類法の意義」として整形外科領域で議論されているテーマです。 webview.isho(https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1408202507)
術前分類はインプラント選択の根拠になり、術後分類は術後管理・荷重開始時期・リハビリ進行の指標になります。 この2つは目的が異なるため、同じAO分類の番号でも「いつの時点の分類か」を意識しなければ、治療方針の齟齬が生じます。つまり分類はダイナミックなものです。 webview.isho(https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1408202507)
特に術中の外側壁医原性骨折リスクは、術前CT評価で外側壁厚が薄い症例(20.5mm未満)において顕著です。この場合、ガイドワイヤー刺入部位の調整や追加固定(アンチローテーションスクリュー追加など)を事前に計画しておく必要があります。術前・術後の分類を連続した情報として捉える習慣が、合併症ゼロへの近道です。
リハビリ職種(理学療法士・作業療法士)にとっても、AO分類の術前・術後の変化を把握していることは荷重制限の確認において重要です。担当医との情報共有の際に「術後の骨折型はどうでしたか?」と一言確認するだけで、離床・荷重進行の判断精度が上がります。これは使えそうです。
参考:医書.jpに掲載の論文「大腿骨転子部骨折 術前分類法と術後分類法の意義」。術前・術後の分類法の違いとそれぞれの臨床的意義を詳しく解説しています。
大腿骨転子部骨折 術前分類法と術後分類法の意義 - 医書.jp
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LOCO CURE 運動器領域の医学情報誌 Vol.8No.1(2022) 特集大腿骨頚部/転子部骨折前後のロコモ対策とリエゾンサービス 「LOCO CURE」編集委員会/編集